「……ん?……これが……携帯?」
アリスの目の前に現れた物それは長方形の機械だった。
長さおよそ30センチ、高さ15センチ程度だろうか、一応上部には受話器のようなものが付いていて背面には番号を押すボタンがついている。
アリスが頭の中にはてなマークが次々に浮かぶ中、以外にもそれに目を輝かせた人物が識人側に居た……衣笠だ。
「これは……ショルダーフォンか?」
「ショルダーフォン?って何ぞや?」
「日本初の携帯電話だよ!当時はまだバッテリー等の小型化が進んでいなかったから形も大きかったんだ!それに最初は車に取り付けるオプション前提でね重さも3キロぐらいあったんだよ」
「すげー興奮してますね」
「すまない……だが卓君のことだ携帯と言ってもいきなり小型の折り畳み式とか作ったと思ったんだが」
「ええ、卓様もそのつもりだったようですが、どうやらバッテリーの小型化にかなり苦労したようで。本来であればこれも大きくなる予定だったようですが、バッテリー格納部分を拡張魔法と重さ軽減魔法でこの大きさと軽さが実現できました」
(魔法すげー)
「それでこれで通話が出来るのか?電話線も無いのに」
「無線機と同じです電波を使います。出来るはずです」
「因みに聞くがこれは何時頃完成したんだ?」
「去年の10月ごろです」
「……は?」
一同静まり返った。
「そんな前から出来てたんなら国会閉会中だ!その頃にお披露目しても良かったんじゃないか!」
「残念ながらそういうわけにもいかない事情がありまして。識人の皆さま携帯電話に必要な物は分かりますか?」
突然質問を振られる識人一同、全員が考え始める。
「相手の携帯?」
「それは必要ですが。それだけでは通話は出来ません」
「……あー、基地局か」
一人の識人がハッとしたように答えた。
「その通りです」
「基地局?」
「衣笠さん、無線機って小型のものでどれくらい電波飛びます?」
「ん?そうだな本当に小型の無線機ならせいぜい数十メートル、障害物が無ければ100メートルぐらいか」
「でもそれを遠くまで電波飛ばす方法ありますよね?」
「……中継局か!」
本来携帯が発出する電波は微々たるもので数キロしか電波が飛ばない。
では何故その携帯電話がもっと遠くの携帯へ繋がるのか……それは基地局と呼ばれる電波の中継地点があるからだ。
これにより携帯から発信した電波を基地局が広い、相手の携帯の傍の基地局に送信、その基地局から相手の携帯に送信……こうすることにより電話線の無い離れた場所でも通信をすることが出来るのである。
「とりあえず実験として西京【ざいきょう】及びマギーロの全域に仮設簡易的な基地局を設置しまして……それに大幅な時間が掛かりました」
「なるほど……それで今日お披露目なのか」
「はい。それでは使ってみましょうか。どうぞ」
そういって受話器を取り渡したのはアリスでは無く衣笠だった。
「そいうのはアリスではないのか?」
「今回は我々が設定した通話相手のこともあるので衣笠様が適任かと」
「……言っている意味は分からんが分かった」
衣笠は受話器と試験的に書かれた番号の紙を受け取り、番号を押して掛けた。
Prrrr!という小気味良い発信音が数秒鳴るとガチャっという音と共に受話器から声が聞こえる。
「はい」
「こちら……衣笠というものだが……君は?」
「……柏木順です」
「はあ!?柏木……順!」
順の名前を聞いた瞬間、アリスが飛び跳ねる。
「順先輩!衣笠さん!スピーカー!」
「え?ああ」
衣笠が受話器を置く……置くことでスピーカー状態になる。
「順先輩!」
「アリス!?今そこどこなんだよ」
「え?あー、えーと……首相官邸の会議室ですかね?」
「……分かった。ちょおま!」
「アリスちゃん!」
「小林せんぱ……あれ?柏木家に居る……もしかしてもう籍入れたんですか?」
「入れたよ!だから正式的に柏木夏美になったよ!でも呼びづらいなら小林先輩でもいいよ!」
「了解です」
「アリス」
「え?なんです?今小林先輩と」
「ここは首相官邸だ」
「あ、はい」
順は話し相手がアリスだと分かってはいたが場所が首相官邸だと分かるや大人な態度に切り替えた、だが恐らく受話器越しに聞いたのであろう、小林は気づいてない様子でフレンドリーな口調で話す。
「小林……じゃなかった柏木さん、受話器を機械に戻せばスピーカーになるから耳に当てなくても通話ができるぞ」
「あ、はい分かりました」
カチっと向こうから受話器を置いた音がした。
「橘君、何故柏木夫婦に渡したんだ?」
「今二人は柏木家に滞在しているのは確認済みでした。そして柏木家は代々自衛官の家系です、公式発表前の試験通話ですから秘密は守られるかなと……それにアリス様の先輩ということなので信頼度もありました」
「それなら何故政治家に頼まない?政治家も秘密は守るぞ?」
「政治家が守るのは国家機密であり、このようなあと少しで公式発表される物はお友達の企業に先に情報提供されるので」
「でも我々が漏らすことは考えなかったのか?」
「この空間であればたとえ漏れたとしても情報発信者の特定は可能です」
「……そうか」
信頼されていないことに納得いかない様子の西宮。
だが続けて橘が話す。
「ここで卓様の伝言です。今回は開発を急ぎすぎてショルダーフォンという形になってしまった。だが俺もスマホが欲しいのでネット回線構築と同時進行で早急に携帯開発をする。早ければ2年ほどで開発できるだろう……とのことです」
「はや!」
「それだけスマホが欲しんだな卓も」
「ていうか……ネット回線ももう作ってんの!?……あ、電話線利用する奴か」
「ええ、今回、電信電話様に来ていただいたのは従来よりネット回線設備構築にご協力いただいていることもありますが、電話設備であれば電信電話様です。基地局設備の構築にご協力いただきたく……それに対して国からも援助を……あ、コーセイ電機様には引き続きパソコンと同時にこの携帯と誠意開発中の新型携帯等の量産にもご協力いただきたくお呼びしました」
「なるほど……これは売れますかな?」
「……ちょっとわかりかねますが……」
「売れます!!!」
アリスが思いっきり立ち上がり、叫んだ。
ここで携帯量産が流れるのは現代っ子のアリスからしてみれば異常事態である。
「売れる……というよりは確実に普及するでしょう!この国では固定電話が一家に一台あれば良いというのが現状でしょうが。旧日本では一人一台の時代になっています。まあ人によっては複数台持ってる人もいますが。むしろ携帯を忘れて出かけたら仕事できないレベルになってる程度には普及してます!」
かなりの力説だった……とアリスは自負した。
それぐらいに携帯の無い生活に慣れてきてはいるアリスにとって携帯の誕生は重要なことなのだ。
「なるほど……ある意味未来から来たといっても過言ではない君がそこまで言うならそうなのだろう……量産化に着手しても良さそうだ」
「ありがとうございます!」
「ですが一つ問題がございます」
「何だね?」
「旧日本では携帯が普及しだしたころ、想定外の普及により電波設備が追い付かずに通信障害が頻発したと言っておりました。なので、電信電話様には卓様と協力して設備の拡充にも力を入れていただけると」
「なるほど……了承しよう」
「因みに……何故この時期かという質問にはもう一つ答えがありまして……仮に10月お披露目して協力関係が気づ行けたとしても臨時国会での補正予算よりは通常国会での一般会計の方がより多くの補助金が見込まれるという卓様の考えです」
「……そこの弟子より考えているのでないか」
(なにおう!まそりゃあそうだが)
「ではこれで解散いたします」
「あの……まだ繋がってるんだが?」
「えー!これが普及するまでまたアリスちゃんと話せないのかあ」
アリスは前回のコンピューター同様持っていくのかと残念な顔になった。
「ああ、それは持って行ってもらって構いませんよ?柏木家にも置いてもらって構いません。試作品は電波試験用の予備としてまだいくつも研究室にありますし。前回はものが大きかったので……それに」
「それに?」
「電話代が請求されない今だけですよ?好きに通話するチャンス」
「あ……ありがとうございます」
こうして会議は終了、議員や社長らはこれからの予算編成や協力体制構築の為にまた別に話し合うためにその場を離れた。
アリスはもらった携帯と充電器を貰うとステアに帰り、一応秘密を守るために花組ズトューパ部員のみで電話を使うことになった。
だが噂はすぐに広まり、花組内では小林や順と話そうと列を作ることになり、アリスはかなり焦ることになる。
ただし数週間後、電信電話が元々仮説として作ったステアや西京の基地局の実験の為にサンプルとしてある程度の数の携帯電話を配ったため、アリスは事なきを得た。