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個人用携帯通信端末爆誕 携帯? 1

「……へ?……ん?……は?」


 ド深夜で強制的に起こされたために言葉が聞こえても理解が出来ない。


「……居なくなったというのは……どういう?」

「だから!寝てたはずのベッドに居ないの?」

「……うーん、なるほど?とりあえず人集めましょう。花組全員は……多いからとりあえず夏美先輩を知ってる部活の二年生と三年生を談話室に。柏木先生は?」

「今顔洗ってる」

「……鍵どうやって開けたんです?」

「寮長室から持ってきた」

「なるほど。じゃあ私も洗って行きますね。まだ頭起きてない……サチとコウと香織も連れてきます。マンパワーは居るんで」

「うん」


 夏美が急ぎ部屋を出る。


「香織……起きられる?」

「……ん、ん?何?」

「緊急事態、談話室に向かって」

「……分かった」

「コウ……」

「途中から聞いてた、行くね」

「ありがとう……サチ」

「……すー、すー、すー」


 こちらは妹と違ってまったく起きようとしない。


「サチ!頼む!起きろ!」


 アリスが激しめにゆする。


「んー、もう食べられないよ!」

「何ちゅうテンプレの寝言だよ……しょうがない」


 アリスはサチの口を手で塞ぎ、サチの鳩尾目掛け肘鉄を一発放った。


「ふご!んん!?ん?んん?んんん!?」

「しー」


 さすがに痛みで目を見開き起きたサチは痛みで暴れつつもアリスに口を防がれているので悲鳴は上げられない。


 そして訳十秒が立ち落ち着くとアリスは静かに手を退けた。


「ちょっと!何してんのさ!」

「静かに!」

「……変な理由で起こしたんならさすがにアリスでも怒るよ?」

「手短に、夏美先輩の赤ちゃんが行方不明になった。今二年と三年の部員に招集が掛かってるから行くよ。これでいい?」

「……十分でございます」



 15分後、二年と三年のズトューパ部員が談話室に集合した。


 夏美は先程の冷静さが無くなっており喋れる状態では無かったため、柏木が代わりに説明した。


「つい20分前だ、夏美の赤ん坊、有紗が行方不明になった。時間も時間なので事を大事にしたくない、とりあえず今ここに居る人数で捜索を開始する。校内の広さを考えて……2時間以内に見つからない場合、校長に知らせて全生徒で捜索を行う。良いな?」

「はい!」

「では動け!」


 各自が自然に二人一組になると寮の外に捜索に出かける。


「……あれ?成田ちゃんは?」


 アリスは成田が居ないことに気づく。


「ああ、さっきまで居たけど……もう一人で行っちゃったよ」

「ええ……」


(こういう時の単独行動って私が犯人ですって言っているようなもんだと思うんですが?)


「それよりどうする?」

「この場合は集団で動いても意味ないからね。最小二人一組。双子なら連携取れるでしょ?なら二人で動いて。あたしは香織と動くから」

「了解。アリスは行く当てある?」

「その前に夏美先輩に色々聞く」

「分かったじゃあ行くね」


 サチとコウが捜索に出かける。


 アリスは逆に香織と夏美に近づく。


 別に探偵ごっこをやるつもりではない、ただ人探しに重要なのは事前にどれだけの情報を集められるのかだとアリスは分かっているのだ。


 では何故皆が居る場面でやらなかったか。


 それは夏美の精神状態で集団で質問攻めにあえば答えられる質問も答えられないと思ったのである。


「夏美先輩、いくつか聞きますけどいいですか?」

「……う、うん」

「20分前に有紗ちゃんが居なくなったことを確認した……でいいですね?」

「そう」

「部屋には夏美先輩と柏木先生が居たはずですが、二人は部屋に居なかったんですか?」

「それは私が答えよう。ちょうど夏美が有紗に母乳を与えていたんだ。それが終わり、夏美がトイレに行ったんだ……時間にして10分くらいか?そして私は授業の準備をしていたんだが、図書室に資料を取りに数分席を外したんだ。そして戻ってくると夏美が慌てた顔で有紗が居なくなったと。今思えば数分とはいえその場を離れた私の責任でもる」

「なるほど。一応聞きますが有紗ちゃんはハイハイできます?」

「まだ首も座ってないから……無理だと思う」

「分かりました」


 普段なら凄い!探偵さんみたいと褒める夏美がそれすら言えないことに驚きつつ推理を始める。


(さて……首が座ってない時点で自力では歩けない……ならば誰かが連れてった……つまりは誘拐ってことだけど今日は誰も外出してないはずだからから扉はしまってるはずなんだけど)


 ステアの各寮の扉は就寝時間になると鍵が閉まる。


 つまり、外部の人間や他の寮の生徒が入れないようになっているのだ。


 だがあらかじめ寮長に外出届を出し、帰宅時刻が就寝時刻を超える場合、鍵が開けられて帰宅できる仕組みなっているのだ。


 だがそれでも就寝時刻から2時間以内と決まっている、それを超える場合は外泊扱いとなる(ちなみに就寝時刻は11時だ)。


 アリスは寮長室に入り、鍵棚を確認した。


 鍵棚には花組専用の練習場や他の鍵がかかった扉に使う鍵が一緒に保管されているが、すべての鍵がちゃんとしまってある。


(鍵がある……ってことは鍵は使われていない?それとも犯人が使った後に戻した?でもそんな時間は無かったはず……それに鍵を使って有紗ちゃんを誘拐、何処かに隠して鍵を戻すにしてもそれじゃあ二人が戻ってきちゃう……人間技じゃあねえぞ!?それ!)


「お姉ちゃん……行かないの?」

「え?ああ……」


(駄目だ、推理がまとまらん。場所変えて歩きながら考えるか)


「ちょっと歩こう」

「うん」


 アリスと香織が寮から出て一本道から学校内部に入ろうとしたときだった。


 アリスが立ち止まる。


「……お姉ちゃん?」

「……あれ?」


 アリスが振り返る、がなんてことない寮から学校内部への一本道だ、何もない。


(……ここ、こんなんだっけ?てか捜索に出た皆、何の違和感も感じなかったんか?なんか変だぞ?ここ)


 アリスは寮から学校までの一本道を行ったり来たりし、違和感の正体を確かめようとした。


「……あれ?うん?えーと?やっぱおかしいよな」

「お姉ちゃん?何してんの?」

「ちょっと待って」


 アリスが通路の壁の前に立ち、手を差し出すとゆっくり前進する。


 そしてある程度前進すると、壁のはずだったものに手がゆっくりと侵入していき、手が新しい感触に触れる。


 金属の扉だ。


「……認識阻害の魔法?」


 アリスは杖を構える。


「……キロアナグトリー《認識阻害を解除せよ》」


 杖から噴き出す魔法が壁に吹きかかると壁が溶け始め金属の扉が現れた。


 そしてその扉は花組専用の魔法練習場へ繋がる扉だ。


「凄い!お姉ちゃん!」


 喜ぶ香織。


「いや……うん」


(皆ここ気づかなかったのか!?当たり前に使いすぎて!?おいおい地図ぐらい把握しろよ!)


 アリスと香織は一緒に、扉を開けて中を見る。


 すると一人の女子生徒が練習場の中央部分を眺めながら座っていた。


 アリスと香織が練習場に入ると、気配に気づいたのか女子生徒がこちらを向いた。


「やっぱり」


 成田だった。


 そしてその腕には有紗が抱かれている。


「……香織、ゆっくりでいいから柏木先生と夏美先輩呼んできて。ちょっと聞きたいこともあるし」

「分かった」


 香織が部屋を出ると、アリスはゆっくりと成田の隣に座る。


 以外にもそれを拒否することは無かった。


「まだ二年と三年の部員だけだけど騒ぎになってる」

「そうだね……ごめん。でもよく私ってわかってね」

「昨日の今日よ?あんなに意味深な表情するからさまず疑うでしょ?」

「そう……表情の制御できなかったかな」

「話聞くよ?」


 成田の顔が暗くなっていく。


「アリス」

「ん?」

「もし……もしだよ?自分を虐待していた母親が自分を捨てて居なくなって久しぶりに再会したと思ったら他人の子供を笑顔であやしていたどう思う?」

「……あー、なるほど」


(これ結構ディープな奴だ。そしてこれはもしとか友達の話なんだけどって奴で成田ちゃんの話だな?)


 アリスは記憶が無い。


 つまり自分の母親にどのように育てられたかすら知らない。


「うーん……あたしはどんな風に育てられたかは記憶無いから分からないけど……そうだなもし本当なら……二発……三発殴るかな。……もしかしていつぞや成田ちゃんの裸を見た時に殴られたのって……」

「……そう……」

「でもなんで?」

「ごめんまだ言えない」

「あ、そう」

「アリス!」

「アリスちゃん!」


 そこに柏木と夏美がやって来る。


 距離としては近いはずだがかなり全速力で走ってきたのだろう、少し汗ばんでいる。


「……な!成田!お前!自分が何してるのか分かっているのか!?」

「分かってますよ。あと、それ以上近づかないでください」


 成田は杖を取り出すと、有紗に向ける。


「成田ちゃん!駄目!話なら聞くから!」

「夏美先輩大丈夫です、危害を加える気はありません」

「じゃあなんで!?」

「柏木先生と夏美先輩……特に柏木先生とこうやって話がしたかった。でも二人とも忙しかったからこうするしかなくって」

「何のこと?」

「やめろ成田!」


 アリスには柏木がばつの悪そうな表情になっていると気づく。


 何となく成田の言葉で状況が理解したくなったアリスは自分で行動した。


「夏美先輩!柏木先生の口塞いで!なんか柏木先生の都合の悪そうなこと聞けるかもなので!成田ちゃん!言っちゃおう」

「……分かった。義姉さんごめん!」

「は?ちょっ!んー!んー!」


 謝った夏美は柏木の後ろから両手で口を塞ぐ、抵抗する柏木だったが以外に力強く振りほどけない。


「さあ!」

「さあ!」

「……私……成田優は」

「んー!んー!んー!」

「うっさい!」

「……私!成田優は!そこの柏木恭子の娘だ!」



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