本来、魔法を使うために必要な魔素はあらゆる種族の目には見えない(エルフは存在を微かに感じ取れる程度)。
そして魔素には一般的に普通の魔法を発動するための魔素、そして聖霊魔法を使うために必要な聖霊魔素が存在する。
それに対をなすように知られているのが闇の魔素だ。
本来、一般的な種族にとっては闇の獣人なってしまうある種毒のようなものである。
そして魔素が集まり結晶化したものが魔素石や魔石と呼ばれるものだ。
これらは本来、鉱床でしか手に入らない。
魔素量が半永久的に無限である魔鉱石も同じだ。
だが例外的に闇の魔素の結晶である闇の魔石は鉱床以外でも普通に出現してしまう。
そして闇の魔石は生物に魔素で浸食するために宿主を誘惑するため生物の種類関係なく甘美なにおいを放つという。
そして闇の紋様を持っていない者が闇の魔素に触れるとどうなるのか。
まず闇の魔素は即座に体内に侵入し、体を侵食していく。
対処法としては心臓に到達する前に、聖霊魔法をかけるか……浸食部を切断するしかない。
人によって時間は異なるが……魔素が心臓に到達した瞬間、その生物は闇の獣人に変化し、理性が消失、見境なく周りの生物を襲いだすのである。
また、闇の獣人の対処法は現状一つしかない。
殺すことだ。
聖霊魔法があるじゃないかというだろうが……聖霊魔法は本来、闇の魔法使いや闇の獣人を痛み無く浄化することしかできず、浄化した人間はそのまま死体となるので、闇の獣人を普通の人間に戻すすべは現在存在しないのだ。
この危険性のため、本来なら第二日本では義務教育のカリキュラムに入っており小学生の頃から親や学校から黒く輝く鉱石を見つけたら絶対に触れずに離れること、出来るなら速やかに通報することと教えられるのである。
本来なら……。
六月、二年になったアリスたちは一年と同じような学校生活は送ることは無くなった。
そもそもステアでは一学年のうちに、高校で学ぶほとんどのカリキュラムを終える。
そして二学年からは新たに選んだ選択科目や選択学科が8割を占めることになり、同じ学年、同じ寮、同じ部屋同士であっても一緒の授業に出ることが少なくなる。
アリスに関しては龍の指示(強制)によって自衛隊学科にサチと進むことになった。
コウは経営論、香織は家庭学科(夏美のためだけに生まれた学科)を受講するためあんまり一緒に行動することが少なくなった。
それでも高校体育は共通なので、サチと香織は体育着で授業を受けていた。
授業が終わり使った道具を倉庫に片付けていた時である。
「サチ」
片付けていた二人を引き留めるように声を掛けたのは柏木だ。
「なんすか?」
「お前提出期限忘れているだろ?」
一枚の紙がサチの目の前に現れる。
「……あ」
それは高校生……あるいは中学生でも書く人は居るだろう……進路予定表だ。
「お前は元々、月組に入る予定だったから書く予定は無かったかもしれんがなあ!本来花組の二年全員が年度開始時に書くものだ……と言っても妹のコウの方はもう書いていたぞ!さっさと書け」
本来、月組の生徒は家の指示によって進学先がほぼ決まっていることが多く、進路相談も存在しない(進路の内容により勉強内容の相談等はある)ので進路予定表を書かないのだ。
「後で書いとき……だあああ!」
サチが言うや否や、柏木より顔面を掴まれる。
「もう締め切りを過ぎてんだよ!今から一緒に職員室で書いてもらう!霞家のお前のことだ、進路は決まっているだろう?適当に書けばいい!重要なのは紙を提出することなんだよ!……香織!一人で大丈夫か?」
「そ、そう!香織一人だと無理だよ……」
「もう残りはこれだけだから大丈夫だよ」
「……」
「そういうことだ。行くぞ」
「ああああああ!」
引きずられながら連れていかれるサチを見送り、香織は残った道具を倉庫に運ぶのを再開した。
数分後、すべての道具をしまい終えた香織が倉庫を出ようとした時だった。
「……ん?」
何かを感じ取った香織はきょろきょろ周りを見だす。
そして……違和感の正体を探し始めた香織は倉庫の隅でとあるものを発見する。
黒く光る石だ。
「……あ、うん?なんだろ?」
頭を傾げる香織だが、近づけば近づくほどその違和感はぞわぞわした感覚に変わってくる。
だが同時に正体不明なものに対して知りたいという感情が強くなり、触ってみようと腕を伸ばしていく。
その時、脳裏に声が響いた気がした。
『いい?アリスお姉ちゃんのいうことをよく聞くこと!そして……黒い石には絶対に触れちゃ駄目だよ分かった?』
その言葉で引き下がる香織だが一瞬の気のゆるみだろうか……石から放たれる匂いを嗅いだ瞬間、無意識に石に手を振れてしまった。
「……あ」
触れた瞬間。
黒い煙にも似た粒子が勢いよく噴き出すと倉庫を充満していく。
「な……なに……これ」
香織は何かが自分の中に入って来る感覚に襲われ、身をかがめる。
そして次の瞬間。
ドーン!
倉庫が爆発と共に吹き飛んだ。