儀仗の森から数キロ、目的の場所はそこに存在した。
龍が現着する頃には、周辺地域をすでに第一空挺団が制圧済みであり、残るは古い建物内のみとなった。
「龍」
衣笠に言われた座標に降り立つとすでに隊列を組んだ隊員と衣笠が待機しており、龍が下りることを確認すると声を掛ける。
「一応周辺は制圧済みだが……今回の作戦というより目的は?」
「それを確かめに行くんだ。少なくとも今から行く場所に何があるかまでは俺も知らん」
そもそも今回、龍が自衛隊……というより林と衣笠に捜索を依頼したのは日本領土ではあったものの、目的の建物周辺が安全かどうかが不明だったのもある。
もし仮に闇の獣人等の襲撃があった場合、警察は装備の関係上、心もとないのだ。
であれば最初から自衛隊に依頼すれば余計な手続きがふぶけて龍としても楽なのである。
「そうか……中はどうする?」
「いつも通り、俺が先行する」
獣人討伐などで自衛隊と龍が一緒に室内に突入する場合、大抵は龍が単独で先に突入することがほとんどである。
何故なら時々、闇の獣人を利用するテロリストが居る場合がありその者たちは大抵銃や魔法を使ってくるからである。
そのために隊員の命を守るために不死の龍が特攻しある程度敵の戦力を把握してから突入するのだ。
「では行こうか」
看板こそ無いが建物の感じから研究所と思われる場所の入り口に隊員が突入待機姿勢で待機、龍が杖と銃を構えてゆっくりと入っていく。
十数秒後、龍は細い道から開けた場所に出る。
そしてそこに広がる光景に驚愕する。
「……なんだこりゃ」
「おい龍!状況は!」
「……問題ない」
「よし突入!」
衣笠の号令後一斉に隊員が室内に突入する。
各隊員が次々に建物の制圧を終わらせ、龍のいる場所にたどり着くと龍と同じようにその光景に驚く。
衣笠も同じだ。
「……ここは……研究所……か何かか?」
「まあそう見えるな」
広い空間に机がいくつか置いてあり、薬品を入れるためであろうガラスのフラスコなどの研究道具が置いてあった。
また机にはかすれて読めないが、何かが書いてある紙が乱雑に放置されていた。
「ほう!これは凄いな!」
隊員たちの後ろから白衣姿の女性が軽快な歩幅で歩いてくる。
魂子だ。
「なんで魂子君が居るんだ?」
「今回の調査内容的に魂子の存在が居ると助かると思ってな、そもそも今回の捜索するに至った元は魂子だ」
「中々興味をそそられるねえ……それで?そこに座っている……骨は誰なんだ?」
魂子の一言で龍と衣笠が同時にある場所を注視する。
部屋の奥の椅子、そこには経年劣化でボロボロになった服を身にまとった骸骨が座っていた。
「これは……男か?」
「うーん……そうだね。男性だ。だが状態を見るに……死亡したのはかなり前だぞ……おや?」
魂子が何かに気づき、手を伸ばす。
手に取ったのは古本だ。
「何だそれ」
「……ほほう、どうやら日記だな」
適当に中身を確認し、音読する。
『ついに!長年の夢で逢った妻との子供を作ることに成功した。不可能だと思われていたのだ、かなり喜ばしい出来事である。名前をかほりと名付け、育てることにする』
「妻?子供?かほり……香織のことか?」
「まあ待て質問は全て読み終えてからでも遅くはないだろ?」
『問題が発生した。妻が病にかかってしまった。これはエルフ特有の病気らしい、今の所直す手段は無い。だが子供に移った気配が無い事だけは幸いだった』
「…………ん?妻?エルフ?ってことは………はあ!?エルフとの子供!?本来はできないはずじゃ!?」
「落ち着け、続きがある」
『現状の医療技術じゃあ妻を直す術がない。そして私も病にかかってしまった。だがこの子のためにも母親が必要だ。だから妻を仮死状態にして保管することに決めた。妻は反対したがそれでもエルフと人間では寿命に大きな差がある。であればいつの日になるか分からんが日本の識人の知識であれば仮死状態から戻せる日が来るであろう』
「仮死状態……つまりはコールドスリープって奴か」
「そうみたいだね……ここから読みずらいな」
『もう体中が痛くてあんまり動かせない。最後に……人生最後の恋がエルフで最初は失望したが、人間というのは努力さえあればなせないことは無いと初めて知った。そしてこれを読む者へ、もしかほりを見つけた者がいるのであれば保護してほしい。他の者からすれば本来自然の摂理では生み出せない禁忌の生命体だ。だが彼女は我々が愛し合い努力した故に生んだ愛すべき愛娘である。どうか大切に育ててくれるようにお願いする』
癒野が読み終えると、あるものを見つけそこに歩いていく。
龍と衣笠は香織の思いがけない出生の秘密に今驚愕していた。
「つまり……香織君はそこで亡くなっている男性と……エルフの女性?との間に生まれた?作られた?子だということか」
「そうなるな」
「本来は不可能なのを遺伝子操作によって生み出す……ある意味デザイナーチャイルドだねえ……そしてそれを母親として子宮に命を宿したのが彼女か」
癒野が人ひとりが入れる装置に掛けられている布を取っ払った。
その中には現在進行形で、素材不明の液体に入れられたエルフの女性が裸で入っていた。
「……この女性が香織君の本当の母親か」
「結構ややこしい事になったな。で?生きてるのか?」
「恐らくさっき衣笠君が言ったコールドスリープと同じ感じだ。SFでよく見るやつだね。だが残念ながら、この女性を起こす術はないね」
「何故だ」
「旧世界でもコールドスリープの研究は続けられているはずだが仮死状態にすることは出来るんだ。ある意味体の腐敗を止めるために手っ取り早く凍らせればいいだけだからね。だが同時に凍らせることによって体の体細胞が破壊されてしまう……それを蘇生してもとに戻す術がないんだ。もしこの女性も同じなら現状、起こす術がない。もし違うにしてもこの日記の通り、コールドスリープから解いた瞬間病により死ぬだろう。この男はそれを望んではいない……なら現状、このままにするのが吉だろう」
「そうか……であれば現状やることは……プロソスに報告するくらいか」
「後、香織君の義母に状況を報告するぐらいだな」
「なら今日はもう解散だな」
「私は少し残って調査をするよ。コンピューターが無い時代にここまでの遺伝子研究がここで行われていたんだ。ここにあるのは興味の塊しかない」
衣笠はその後、第一空挺団と共に、撤退していった。
龍は一度転保協会に戻るとすぐにバリアスに連絡、柚葉にも連絡した。