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香織闇の獣人化事件 5

 数日後、バリアスが連絡を受け緊急的に極秘来日、研究所跡に来たという知らせを受けると龍もすぐさま合流した。


 龍が研究所跡内のバリアスの元に行くとバリアスは哀愁漂う表情で中に居るエルフの女性を見つめていた。


「セリア……まさかこんな形で再開するとは」

「バリアス」

「おお!龍。まさかこやつをここで見ることになるとはな。誰も来ないな?」

「問題ない、ここは転保協会が抑えた。さすがに政府の連中にはもう少し後で知らせる」

「そうか」

「で?この女性は誰なんだ?」

「……わしの姉だ」

「……そうか……ん?は?今なんと?」

「……300……いや400年ほど前に失踪したわしの姉だ」

「……マジかよ」


 龍は呆気に取られてしまった。


 少なくとも龍は今までバリアスに姉が居たなどということを聞いた記憶が無い。


 つまり本当に初耳であり、訳300年来の友人から聞いた衝撃の事実となる。


「セリアというんだが、当時の王族の中でもかなり自由な性格でな、度々居なくなると忘れた頃に戻って来る。そして最後の時は旅出る、もう戻ることは無いだろうという置手紙を残して戻ることは無かった。だから王族の記録からも記憶からも抹消されたんだよ」

「なるほど」

「それがまさかこのような形で再開することになるとはな……しかも人間との子供までいるんだろう?」

「ああ、だがその子供も闇の魔素にやられて獣人化した。聖霊魔法で浄化したのは良いんだが息を吹き返したんだ、前例が無いから色々調査した……そして結果がこれだ」

「そうか。名前は?」

「かほり……いや今は香織と言う名前だ」

「その子はちゃんと育てられたのか?」

「医者曰くある程度、この研究所で過ごしていた形跡があったらしい。だが恐らく食料が無くなったんだろうな研究所の外にでて迷った。その結果今の育ての母親に拾われた形になった」

「そうか……あの馬鹿者の子だ、たくましく生き延びたのだな。それは良かった。……ところでそこの女性は誰かな?」

「ん?」


 龍が振り返ると入り口に香織の育ての母である柚葉が立っていた。


 バリアス到着の知らせを受けたため転保協会の送迎でここまでやってきたのだ。


「ああ、さっき言った香織君の育ての母だ」

「おお!あなたが!」


 バリアスは柚葉に駆け寄ると両手を包み込むように掴んだ。


 いきなりのことで少し後ずさりするが、バリアスの感謝するような目を見るとすぐに警戒を解き握手し返す。


「初めまして西村柚葉と申します。僭越ながら香織の母を務めさせてもらっておりました」

「ああ!うちの馬鹿な姉がこさえた子供を大事に育ててくれて本当にありがとうございます!なんとお礼を申したらよいやら」

「いいえ、香織は本当にいい子で、言うことを素直に聞いてくれる子でした。とあることで助けてくれたアリスさんをお姉さんのように慕っておりまして。まさかこんな形で出会うなんて思っても居ませんでしたが、私も香織の本当の母親に出会うことが出来て嬉しいです」

「ああ、よかった」

「バリアス様、一つお願いがあります」

「ええ、なんでもいいですよ」

「香織は……プロソスに行くのでしょうか?」

「え?……いや今の所その予定はありませんね。確かに香織さんは王族の血をついでこそ居ますが、もし昔行方不明になった王族の女性が人との間に作った子供がいると知られれば国内が大騒ぎになります。それならこのまま日本で日本人として過ごした方が香織さんのためでしょう。ですが、一応私の家族には存在を知らせます」

「そうですか……今香織は病院に入院しています。もしそうであれば引き続き香織の母として傍に居てもよろしいでしょうか?」


 バリアスは驚いた。恐らく、お願いとしては今まで香織を育ててやったのだから見返りを望むと思っていたのだ。


 そしてバリアスも姉が無責任に作った娘の世話をしてもらったのだ、それ相応のお礼をはずむ気だった。


だが柚葉からのお願いはこれからも一緒に居てよいかという思いもしない願いだったのだ。


バリアスは目から大粒の涙を流すと力強く柚葉の手を握る。


「ええ!ええ!もちろん!むしろ私からお願いしたい!香織はもうあなたをちゃんと母親として見ていたはずです!であればこれからも!よろしくお願いします!プロソスの国王としても出来る限りの援助はいたします」

「はい……こちらこそお願いします!」

「……」


 二人が笑顔で涙を流しながら握手をするのを眺めながら煙草を吸っていた龍。


 ———エルフと人間のハーフ……そして王族の血を継ぐ子供……何もかもが前代未聞だ。そしてアリスを慕う……何かの運命か?



「ではこれで失礼いたします」


 転保協会の車で帰路に就いた柚葉、それを笑顔で手を振りながら見守るバリアスと煙草を吹かしながら見守る龍。


「なあ、龍よ」

「んー?」

「煙草くれんか?」

「……お前吸ってたっけ?まあいいけど、俺は煙管だ。まあ予備があるからほれ」


 龍は予備の煙管に煙草の葉っぱを詰めると渡す。


 バリアスはそれを咥え、火をつけるとゆっくり吸い始める。


「……ふー、……これはただの独り言だと思ってくれ。もう少しで世界が一変する出来事が起きるだろう、まあその局面にわしは立ち会えないんじゃがな」

「またそれか。良く分からん予言か?」


 バリアスは昔から龍やプロソスの重鎮たちに対して予言めいた独り言をよく話していた。


 ただ、龍が不自然に思っているのはその予言が何故か当たるのだ。


 他愛もない日常の予言だったり、日本に訪れる災害や世界のどこかで起きる戦争の予言など多岐にわたるがどれも当たるのである。


「ずっと疑問だったんだが……それは誰から聞いてるんだ?」

「残念ながらこれはプロソス一族の王を継ぐ者のみしか教えることが出来ないものでな……だが近い将来お前も知ることになるじゃろ」

「……そうか。で世界を一変?大きな戦争でも起きるのか?お前がそれに立ち会えないってまさか死ぬとでも言うのか?」

「詳しいことは言えん……だが、一つ言えることがある」

「なんだ?」

「アリスちゃん」

「アリスがなんだ?」

「何があろうと絶対にアリスちゃんを守り抜け。絶対にだ。何を犠牲にしてもだ」


 バリアスよりアリスという名前とおもがけない命令を聞き動きが止まる。


「……はあ、ご忠告どうも。だがなあいつは俺以上に危険に突っ込む馬鹿だぞ?」

「お前は不死だろ?なら身を挺して守ればいい。それだけの価値があるんじゃよあの子には」

「それはあいつのユニークのことか?」

「……詳しいことは分からんがあの子は特別らしい、だから何が何でも守り抜け。いいな?」

「分かったよ」

「それと……もう少しで交流会じゃが」

「ん?そうだな、今年はそっちか」

「時期的に国会の閉会中じゃろ?ならお前も来てくれんか?」

「何故だ?」

「うちの息子がな?お前と将棋打てなかったのを非常に残念がってな、打ってはくれんか?わしでは相手にならんのでな」

「お前が弱いだけだ」

「それはそれで別にいいんじゃ。とにかく頼んだぞ」


 バリアスは転保協会の迎えの車に乗り込もうとする。


「まったく……ん?おいバリアス!煙管!」

「んー、別に予備なんじゃからいいじゃろ?思い出の品としてもらっとくよ」


 そういうとバリアスは車に乗り込むと転移陣のある首相官邸まで走り出していった。


「……思い出の品って……冥途の土産みたいに言うなよ……それにあれは帝にもらったやつの一つなんだがなあ……ま、良いか。俺も帰るかね」


 龍は箒に乗ると、残っている仕事を終わらせるために転保協会へ向かって行った。



 この時の龍はバリアスの言った言葉の意味が分かっていなかったが、結構すぐにこの言葉の意味を知ることになる。


 そしてそれはある意味日本を……いや世界を一変させる事件に繋がっていくことになる。


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