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演習場襲撃事件 1

 ステア魔法学校の第一学年の魔法戦闘の授業は基本一対一でのみ行われる。


 魔法に対する防衛術を学ぶために様々なシチュエーションでの模擬戦闘を行い、まずは最低限自分の身を守れるようにするためである。


 そもそもステアを卒業した者は基本、魔法関連の職業に就くことがほとんどであるが中には研究職で未知の魔法の暴走や、過去悪意を持つ者による襲撃事件も発生しておりそれに対処する意味も含めて第一学年は全員(月組を除いて)魔法戦闘の授業を受けるのだ。


 そして第二学年になると魔法戦闘の授業は無くなる。


 だが集団魔法戦闘学科という学科を受けた者のみ、今度は一対一では無く、集団での戦闘訓練が始まる。


 この集団魔法戦闘科はステアを卒業後、警察官になる者、自衛官になる者、または特殊警備等の職業に就くものが受ける学科である。


 だがこの学科を受ける者は基本、将来、自衛官を目指す花組の生徒しかいない(霞家という例外はあるが)。


 また、この学科は教えるのがステアを卒業した現役自衛官が担当するので、通称『自衛隊学科』とも言われている。



 六月中旬、ステアの敷地内ではあるが少し本校舎から離れた演習場にアリスたち花組第二学年訳30名は居た。


 この演習場は直径1キロの円形の壁に覆われたフィールドが横に二つ連なって建っており、片方は市街地用、もう片方は森林訓練用に分かれている。


 そして今日から実践演習の為に森林フィールドの控室に集まったアリスたちは制服に着替え待機していた。


 だが雑談等しながら笑顔の控室の雰囲気だが、二人の自衛官が戦闘服姿で入室した瞬間、一気に空気が変わり生徒たちの表情が引き締まる。


 そして一部の生徒が敬礼をするとそれに習うようにほとんどの生徒が敬礼をする。


 その様子を見て苦笑いをする二人の自衛官。


「いや……あははは、敬礼はしなくていいよ。君たちは自衛官では無いし、自衛官候補生でもない。もっと言うなら高等工科学校の生徒ですらないんだ。君たちはあくまでステアの生徒だからね……もっと気楽で大丈夫だよ」


 それを言われた生徒たちは表情を緩め、伸ばしていた背筋を緩めた。


「うん!そういうことだ!じゃあ今日から集団魔法戦闘科の実戦訓練を始める!担当の相田と副担当の赤嶺だ、よろしく」

「「「よろしくお願いします」」」


 担当の相田と副担当で女性自衛官の赤嶺がお辞儀するのを見て生徒たちもお辞儀する。


「さて、君たちは一年生で一対一の戦闘を学んだ。つまり相手の動きに合わせて自分の思うように動き戦う術を学んだわけだ。でもこれからは違う。集団魔法戦闘ではむしろ味方の動きに合わせて自分の動きを決める必要がある……これは座学で習ったね?」


 二学年の集団魔法戦闘科を選んだからといってすぐに実践訓練をするわけでは無い。


 まずは少なくとも二か月間、集団における戦闘のイロハをまずは座学で学ぶところから始まる。


 陣形の作り方、リーダーの決め方、各ポジションでの目線などを叩き込む。


「まあ本来ならとりあえず今日は自由演習として半分に分かれてさっそく訓練と行きたかったんだけど……そこの二人ちょっと前に来てくれるかな?」


 相田が指名したのはアリスとサチだった。


「へ?あ……はい」

「うす」


 アリスとサチが前に出て相田の前に立つ。


「さて……呼ばれた理由は分かるかな?」

「……分かる?アリス」

「うーん……何となくだけど……まあおおよそ予想は」

「じゃあ言ってみようか」

「まあ単純に座学の授業中寝てたからですかね」

「そうだね」


 アリスとサチは座学が始まるとほとんどの授業を寝ていた。


 そもそもアリスは夏美が卒業した後、花組ズトューパの正式なエキーパーとなり部活と練習試合を優先し始めた結果疲労が蓄積。


 その疲れを授業中に寝て回復していたのだ。


 因みにサチはコウと一緒にズトューパの部員としてメンバー入りを果たしている。


 だがサチに至っては単純に座学がつまらなさ過ぎて寝ていただけである。


「君たち二人の授業態度が悪すぎると座学の担当から言われてね……もし君たちが自衛官ならここで連帯責任として全員で腕立てさせるんだけど……注意に留めとくよ。でも君たちも自衛官を目指すなら先生の授業は真面目に受けないと……」

「あ、先生。私たちは自衛官になりません」

「え?そうなの?じゃあ警察官志望とか?だとしても上官の前で眠るのはあれだよ?」

「警察官にもなりませんよ?」

「……じゃあなんでこの科受けたの!?」


 本来、この科を受けた者の就職先に行かないという二人に驚く相田。


「ちょっと待ってね?えーと……」


 恐らく自衛隊科を受ける生徒の名簿だろうか、ファイルを確認しだす相田。


「まず君……アリスくん……識人か……ん?アリス?」

「はい……卒業後は師匠の……神報者の弟子として活動する予定です」

「……あー!君が龍さんの弟子の!なるほど!……なんでこの科に?」

「師匠曰く、神報者は自衛隊と行動することが多いから自衛隊が戦っている中でも最低限身を守れるように動きを学ぶために入れと」

「あー、なるほど」


 神報者はよく自衛隊と活動を共にすることが多い、特に災害等や闇の獣人討伐等の災害派遣ではその記録を残す必要があるために同行するのが一般的だ(なお非常事態宣言下ではその限りではない)。


だが自衛隊の部隊が戦っているとはいえ神報者は攻撃することを禁じられているのだ。


 だが神報者自身が攻撃を受けた場合のみ、反撃することが出来るのだがその際自衛隊と連携することもあるのだ。


 そのために自衛隊の動きを学ぶためにもこの科を受けさせたのだ。


「じゃあ、そっちの……霞サチ君は……霞?」

「相田二尉、恐らく名家の霞家のことでは?」

「……皇族守護の!?ああ、だから自衛隊にも警察にも行かないんだ……特殊すぎるな二人とも……ん?」


 相田はサチの成績を見て何か気づいたようだ。


「……サチ君って言ったっけ?これは何かの間違い?」

「何がっすか?」

「一学年の魔法戦闘……全勝無敗って書いてあるんだけど!?」

「あ、はい。全勝しました!あたしは習うより動いて慣れろ派なもんで!座学とか退屈なんすよね!座学を寝る代わりに実技では満点っす!」


 成績通り、サチは一年生時の魔法戦闘の実技にて前代未聞の全戦全勝の偉業を成し遂げたのである(なおもし一敗でもしてたらサチの心が折れるレベルで説教食らってた)。


 それを聞いた相田が膝から崩れ落ちる。


「……君たち二人特殊すぎるだろ!?」

「どうします?相田さん」

「……うーん、そうだ!今日は初日だしね!二人への罰の意味を込めて特殊なルールで模擬戦をしてみようか!」


 そう言うと相田は控室の道具入れから魔法模擬専用の杖と結晶を用意する。


「今から言うことは自衛官としてより僕個人が見てみたいからっていう感じだから成績には影響しないから安心してね」


 各自が杖を持ち、結晶に魔素を注いでいく。


「じゃあ今回のレギュレーションを発表するよ。アリス君とサチ君対残りのこの場にいる花組全員だ!」


 相田はそういうと皆の反応を見た。


 この場に居る花組の生徒はおよそ30名、つまり2対28である。


 言ってしまえば数の暴力になるが最初の授業だからこそ普段ならあり得ないレギュレーションでの訓練だ、確実に勝てると思われる28名の生徒から歓声が聞こえると思ったのだ。


 だが結果は違った。


 シーン。


 28名の生徒はそれぞれ困惑の表情を浮かべている。


 その意味指すことは、数の暴力で一方的に勝って良いのかというより、28名程度でこの二人に勝つことが出来るのかという不安なのだ。


「……もしかしてこの二人……結構強い?」

「えーと……アリスは魔法戦闘だけなら上位に居ますし……サチに至っては化け物ですし」

「なるほど……大丈夫!さっきも言ったけどこれはあくまでデモンストレーション!成績は影響しない!であれば君たちの思い通りに行動すればいいさ!それにいつの時代も個の強さよりちゃんと戦術や陣形を駆使した集団の方が強いと僕は思っている!だからこそ軍隊は強いんだ!やってみよう!二人は……もう準備できてる!?」


 早く体を動かしたいアリスとサチは演習の準備を着々と終え、後はもう演習場に入るだけとなっていた。


 本来ならば圧倒的な戦力差で気持ちがダウンしてるはずのアリスとサチが自信満々で演習場へ向かう様子にあきれる相田。


「本当に好きだね……戦うの」

「「もちろん!」」

「でも戦うのはもっと後だよ?今日の予定である、これから君たちが使う施設の案内とか食事とか全部終わらせてから模擬戦やるから開始予定は夜だね」


 今すぐ戦う気満々だった二人はほぼ同時に顔を見合わせるとほぼ同時にしょんぼりした。


「本当に戦うの好きだね……君たち」


 そんな様子の二人に本当にただただ呆れるだけの相田だった。


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