目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

演習場襲撃事件 2

 集団魔法戦闘の訓練は自衛隊の訓練を参考にしているため長時間に及ぶことが多い。


 また基本的なルールは殲滅戦や護衛戦など……いずれも片方のチームが全滅するまで続くために長期戦になることが多いのだ。


 だが高校生ということも考慮されており、実際の訓練では陣形を保ちながら動く訓練も同時に行うためにお互いのチームが歩くルートを指定されており、状況によってはすぐに決着がつく場合もある。


 また自衛隊の訓練は昼夜問わずやるのが基本であるためこの訓練でも昼間や深夜に行われることが普通である。


 そして今回の試合開始時間は何と夜11時だった。


 どうしてここまで開始時刻が遅れたのか……そもそも今日は授業説明だけであとは演習場の案内のみで終わらせる予定であり、集合時刻が夕方であったため……そしてこの演習場は泊りも可能であるため確認の為に一泊する予定だったのだ。


 夕方7時に始まった早めの夕食兼作戦会議では以外にもやる気になった花組メンバーの話し合いが始まり9時に一旦仮眠を取った、アリスとサチは二人で森林フィールドを歩きながら夕食を取っており隠れる場所を探していた。


 今回のルールではアリスとサチは演習開始と共に隠れた場所から移動することを禁止となった。


 そもそも演習場はかなり広い、立った二人を探すのは時間が掛かるため戦闘前に体力が消耗すると踏んでアリス側から提案されたのだ。


 そしてアリスたちが選んだのは西側の端っこ、壁にほど近い木の傍だ。


「ここなら大丈夫……かね」

「なんで壁際?もっと深い森の中の方が安全じゃない?」

「戦いたくないの?」

「まあ戦いたいから移動禁止ってつけたんだけど」

「なら見つかる方が良いでしょ?なら問題は見つかった時の状況……28対2でっせ?360度囲まれたら終わり。なら少しでも二人でカバーしなきゃいけない範囲を狭くする方が良いでしょ」

「でもそれだと、逃げ道少なくならない?」

「どうせ、360度囲まれるか180度囲まれるかの違いじゃん?しかも今回は成績に影響しない……なら暴れましょうって意味でこの場所よ!」

「なるほど……なら良いか!後は見張りの交代だね……今は……10時半か。試合開始まで起きて……そこから一時間交代かな」

「それで行こう」


 30分後、演習場のいたるところに付けられたスピーカーから相田の声がこだまする。


「ただいまより特別演習を開始する」



 大体、3,4時間がたっただろうか、未だ戦闘が始まっていない演習場の指令所では多くの監視カメラを眺めながら談笑している自衛官がいた。


「今年の二年生は優秀ですね」

「そうだな」


 この学科を受けた二年生の最初の演習は大抵突っ込んで一方的になるか即終了するのが普通だ。


 だが今回は違った。


 相手が現状最強の霞サチとバカで大抵どんな動きをするのか予想できないアリスなのだ。


 だからこそ人数差を考えずに確実な手段としてゆっくりと陣形を取りながらアリス達を包囲するために動いているのである。


 そこに自衛官たちは感激していたのだ。


「でももう五時間です……まあ、演習自体がイレギュラーで始まった時間も遅いですけど。ここまで時間が掛かるほどあの二人は強いんですか?」

「強いだろうね僕も長年この立場にいるけど。一年の魔法戦闘で無敗は聞いたこと無いし。周りの子も言ってたけど、現状、霞サチに合わせられるのは妹さんのコウかアリスぐらいだって」

「マジですか」

「ああ、だからこそ負けるかもしれないけど時間を掛けてでも負けないようにゆっくり行動していると言えるんだろうね」

「……今年の二年は優秀ですね」


 そんな司令部に一人の男が入って来る。


 ある意味親ばか……と言えるだろう、龍だ。


 書類を書いていた自衛官が気づき直ちに立ち上がると敬礼する。その様子に気づいたその場にいた全自衛官も即座に敬礼する。


「……はぁ、いつも言っているだろう?俺は立場上どんなことがあってもお前らの上官になることはあり得ないんだ。政府側の人間でもない。敬礼は不要だ」


 その一言で自衛官は敬礼を終えると即座に業務に戻る。


 そして司令官である相田に声を掛ける。


「それで?今どんな状況だ?少なくとも今日は演習無かったはずじゃ?」

「毎年恒例の自由演習です。二年生と我々の交流の意図もありまして。それに二年生にとっては集団戦は初めてでしょうから最初は何も考えずに戦ってもらおうと」

「そうか……で?今は誰が戦ってるんだ?」

「霞サチとアリスペア対他花組全員です」

「……そういうことか」


 何がしたいのかを理解した龍、カメラを見ながら何かに気が付く。


「ん?監視カメラ……映ってないのがあるが?」

「ああ、つい先日故障しまして。今修理を依頼してます」

「そうか、便利なのも考え物だな」

「相田二尉!戦闘が始まったようです」


 一人の自衛官が声高に報告する。


「お!始まったか!どれどれ」

「……」


 龍と相田がモニターの一つにかじりつく。


 モニターには森林の端にて魔法がシールドに衝突しており戦闘が始まったことが分かる映像が映っていた。


 だが龍はすぐに違和感に気づく……というより普通に考えればあり得ないことが起きていることに気づいた。


「……演習場に居るのは花組だけ……だよな?」

「ええ、そのはずですけど……何か?」

「考えてみろ、画面に映っているけっ……いやシールドか……人間にここまででかいシールドは張れない。それは自衛官として周知しているだろ?」


 その言葉に相田は画面をじっくり見る。


「確かに……普通に考えればここまで大きなシールドは人には張れない……じゃあこのシールドの持ち主は……」

「俺の知っている限りでこのシールドを張れる生物は闇の獣人しか知らん」

「……」


 少しずつ相田の顔が青ざめていく。


 そしてすぐにスピーカーに繋がるマイクを握るとスイッチを入れ、焦ったように喋る。


「緊急事態発生!演習場に居る生徒は速やかに指令所に避難すること!全隊員は速やかに装備を揃え演習場にいる生徒を救出することを優先し動け!これは訓練ではない!この場に居る隊員も最低限の人員のみ残し救助に迎え!」


 警告を終えた直後、さすが自衛官だ、誰一人迷わずに自分の仕事を全うしようと動き出す。


 それを見た龍は出口に向かって行く。


「龍さん!どこへ!」

「今の映像……魔法が撃たれたのは数発、なら考えられるのは霞サチとアリスの方に獣人が出たと考えるのが普通だ。師匠として弟子を助けに行くのは当然だろ?お前らは他の生徒を助けるのを集中しろ」

「……分かりました、お気をつけて」


 龍はすぐさま指令所を出ると箒に跨り飛び立った。



「アリス!どうする?放送流れてるけど」

「……どうしようも無いっすていうか……」

「お久しぶりですアリスさん。奇遇ですね」


 アリスとサチの前に現れた人物はサチにとっては新たな武器を生み出すきっかけになった人物であり、アリスにとってはただただ苦い思い出の作り出した人物であった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?