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演習場襲撃事件 3

 相田による放送が掛かる数分前、アリスとサチは演習場の西の端の森の傍に居た。


 演習開始から5時間が経過しある種の緊張状態から抜けて眠気がわいてきたところである。


(マジで眠い。始まってすぐに来るかと思ってたんだけどなー、皆ある意味警戒しまくっててゆっくりしらみつぶしに来てんでしょうかね……いや逆に宮本武蔵的に遅い時間であたしたちを眠気で油断したところで襲うとか?だったらあっちも同じ条件、でも人数差的にカバーできるか……考えるねえ)


 色々思考しなければ本気で寝落ちしそうだと考えるアリスだがここで肩を叩かれた。


 トントン。


「ん?サチ?まだ時間的に大丈夫だから寝てていいよ」


 トントン。


「だから大丈夫だって」


 トントン。


 さすがに状況的におかしいと感じたアリスが切れ気味に振り返った。


「だから大丈夫だっ……て……ん?あー、うん?おー」


 振り返った先に居たのはサチでは無かった。


 体長2、3メートルはあるだろうか、巨大な生物がアリスの後ろに佇んでいたのだ。


 ドン引きしながら状況を整理する。


(考えろ……巨人……知っている限りシールドを張れる巨人ってのは……)


 杖を構える。


「闇の獣人しかいねえよなあ!」


 バーン!


 火の魔法を巨人に向けてぶつける……が巨人のシールドにより弾かれた。


「んにゃあ!何!敵襲!おっしゃあ!……ってちがーう!」


 寝ていたはずのサチは敵の気配ではなく、爆発音で目が覚めると杖を手に取り臨戦態勢に入った。


 だが目の前に居たのが花組の生徒ではなく、巨人だと分かるとすぐに杖をしまい撤退の準備に入る。


「アリス逃げるよ!」

「杖あるじゃん!シールドに当たりましたぜ?」

「仮にシールドが無い獣人だろうが本当に当たる前に魔素に戻って意味ないから逃げる一択のみ!」

「ああ、なるほど」


(そうじゃなかったら練習用の杖の意味が無いか……でも)


 サチが全力で逃げる中、アリスは逃げながら巨人に対して火の魔法を放つ。


「何してんの!?」

「ダメージは無くとも目くらましににゃあなるでしょ!」

「なるほ……うわっぷ!」


 アリスの先頭を走っていたサチが何かにぶつかったようで尻もちを付く。


「ちょっとサチ!何して……だう!」


 数秒後、アリスも何かにぶつかり同じように尻もちを付いた。


「いったー!……なんじゃこれ」


 アリスがゆっくり壁らしきものに近づき触る。


 それはいつの日か見たことがある見えない壁だった。


「これ……見えない壁?でもどうして」

「……ていうかさ、これもそうだけどここ普通の森じゃなくて演習場だぜ?なんの予告も無くこんな巨人が現れるわけねーべ?この壁しかりだ」

「だとすると……」

「おや?奇遇ですね、お久しぶりですアリスさん」

「やっぱあんたか……シオン」


 巨人の裏から出てきたのはフード姿のシオンだった。


 一応練習用とは言え杖を構えながらアリスが尋ねる。


「……今日はどんな御用件で?」

「本来は計画何て喋らないんですが、今日はただの趣味なので言っても良いですよ。闇の獣人の実験です……とまでは言いますが、他の詳細に関してはまだ秘密ということで」

「あっそ……あたしたち要る?」

「ええ、今日ここに来たのもここに来れば訓練された人は居るだろうと、戦闘訓練にもってこいだと思いまして。あなた方は意外と戦力があると思われますので……やりましょうか!」


 シオティスが巨人に対して何か呟くと巨人が雄たけびを上げて……アリス目掛けて突進を開始する。


「やっぱあたしかーい!」


 巨人が二人にぶつかる瞬間、アリスとサチは左右に飛んで避ける。


「アリス!」

「まったくもう!」


(まあ主人公としてはいい展開……だとしても武器持たずにこの展開は無理でーす!)


 標的を完全にアリスにした巨人は闇の獣人にしてはかなり頭が良く、で過去対峙した獣人よりも自分がいる環境が分かって効率よく攻撃しているのが分かる。


 アリスを目掛けて突進し、上から拳を振り下ろしてくる。


 アリスもなんとか拳の軌道をよく見ながら寸前の所で避けてはいるが、森の中と言うことで地面が平ではない影響もあるのだろう。


 だんだんアリスの動きが鈍くなってくる。


「やっべ!」


 握りこぶしを避けた時だった……、拳が地面に衝突した衝撃で地面のツタが跳ねたのだろう、避けようとしたアリスの足に引っかかるとバランスを保てずに転倒してしまう。


「アリス!」

「……あー、やっべ」


 倒れたアリスを覗き込むように巨人が握りこぶしを振り上げる。


 サチはとにかく助けようとアリスの元へ駆け寄ろうと必死に走って来る。


(あー……これは死んだか?半端に避けたら半身に当たる……どうせ死ぬなら痛み無く死んだ方が良いか……いい人生だったな)


 アリスが覚悟を決めて目を閉じると同時に拳が振り下ろされた。


 バーン!


(……………あれ?生きてるなこれ……なして?)


「おいアリス、お前はこんな所で死ぬような魂じゃないだろ?お前は主人公なんだ」

「……まーじか……師匠!」


 振り下ろされた拳を寸でのところで杖で受けとめたのは箒で飛んできた龍だった。


「龍……本当に君もアリスさんの危機になる時に近くにいるね」

「そりゃあそうだろ、一応こちとらこいつの師匠だぞ?」


 龍は杖を仕舞うと刀を抜く。


 シオティスから命令を受けたのか巨人はシオティスの傍に戻る。


「アリス、霞サチ、これを受け取れ」


 二人に渡されたのは訓練用ではなく実践用の普通の杖だ。ただし二人が愛用している自分用の杖ではない。


「これと俺が居れば最低限戦えるだろ?」

「もちろん!」

「多分」


 龍は刀を下段に構え、シオティスと巨人に近づいていく。


「さてシオン、また今日は何用だ?」

「なに、ただの趣味だよ。闇の獣人の研究だ」

「じゃああの時の獣人も趣味の範囲か?」


 あの時とは龍が別空間に隔離された時に現れた巨人である。


「ああ、あれも趣味の範囲だね、未完成だったけど君の足止め的には十分だったろう?」

「これが完成系か?」

「いや?この手の研究に完成は無いね。今回だって研究としての実験だ」

「ほう?」

「まあ君話すほどのことでもないさ。それで戦うのかい?」

「……霞サチ」

「ういっす!」

「シオンとやれるか?十分でいい、まずは俺とアリスででかい奴やるからその間あいつの相手をしてくれ……出来るか?」


 サチは笑顔で返答する。


「やってみます!」

「よし……ならアリス行くぞ!」

「うっす!」



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