「さて……お久しぶりです……えーと」
「霞サチ」
「サチさんですか……それで?どう戦うんです?少なくとも前回の私と思わない方が良いですよ?」
シオティスが刀を抜き構える。
「……魔法は使わないんですか?」
「私は基本遊ぶときは魔法を使うんですが、あなたは私の刀を受けるに値するほどの力は持ってると思っているので今回は最初から刀で……おっと」
シオティスは何かを察知したようで前方を刀で斬るとシオティスの真ん前で魔法が弾ける。
「……っ!」
「駄目ですよ、普通の魔法使いならそれで通用するかもですが、私には通用しませんよ?」
「……ならあ!」
サチはシオティスに突っ込む、そして杖上から下に振る……だが魔法は出ていないように見える。
だがシオティスは動かない。
シオティスまで数メートルまでに近づくとサチが杖を構えた、だがサチの狙いに気づいていたんだろう、自分から一気に近づくと刀を振り上げる。
「……なっ!」
これではシオティスの背後に仕掛けた魔法が弾けてもぶつけられない。
作戦を変更し、線を切ると風の魔法でシオティスを中心に移動し、風の魔法を終える直後、サチが居た場所に極小の魔素球を置き後ろに回る。
そしてすぐに杖を構えた……がそれも読まれていた……というよりシオティスには見えていたのだ。
「ですから通用しませんて」
シオティスが振り返ると同時にサチが居た場所と現在いる場所の動線を刀で振り上げつつ切るとそのまま上段に構えながらサチに向けて斬り下ろす。
「っく!」
それを寸でのところで避けると、少し距離を取るためにバックステップした。
「言ったでしょう?無駄だと。それに私は曲がりなりにも闇の魔法使いです。普通の戦い方で勝てると思う方がおかしいと思いますよ?それにあなたには私の分身と戦った時に会得した武器があるでは無いですか」
「……」
サチがギフトを使えないのには理由があった。
三枝よりよほどの事が無い限りギフトは使うなという厳命があったのだ。
『いいですか?あなたは一人で戦う魔法戦闘は合格ラインですが、まだ集団戦闘はおろそかですそれを学ぶために自衛隊学科に行かせるわけですが、ギフトはまだ私との稽古のみ使いなさい。使いこなせないものを見せびらかすことは許しません。まずは一対一でのみその力の使い方を一緒に身に付けていけばよいです』
———でもさ、これってよほどの事だよね?ならやるか……母さん、ごめん。
サチは一旦、全身の力を抜き集中した。
そして……サチの目が虹色に光りだし杖を構え直す。
「そうです!それこそ戦って見たかった姿……っ!」
もう一度サチがシオティスに突っ込む……先ほどの速度とは違う、動きが変わったのだ。
それに合わせてシオティスも刀を一度納刀し抜刀の構えを取る。
「……」
一瞬の刹那、神速で抜かれた刀は前回対峙した時と同様横に振りぬかれるがやはり寸でのところでサチが上半身を逸らせて避ける。
同時に杖の先に火球を発生させる。
「俺が……二度も同じ技を食らうと?」
シオティスは振りぬいた刀を持ったまま、後ろに下がりつつ右に一回転すると今度はサチが察するより早く火球を振りぬき切った。
「マジか!」
「言ったでしょう?二度目は無いって。私はついてますね、実験のつもりだったのがここまで興味をそそられる好敵手と斬りあえるんですから!さあもっと楽しみましょう!あなたの本気を見せてください!」
「……」
「アリス!よそ見してないでちゃんとお前の敵を見ろや!」
「分かってるって……わあ!」
拳ではなく今度は下から蹴りがアリスを襲うが杖で何とか逸らしつつ避ける。
「くっそ!なんでこっちに向かない!」
龍はアリスに第四聖霊魔法の詠唱と呪文の書かれた紙を渡し、一定時間ヘイトを龍に集めその間にアリスに魔法を使わせる作戦だったが、いくら龍が巨人の足を攻撃しても巨人のヘイトは龍に向かなかった。
「しょうがない……おらあああ!」
作戦を諦めた龍は一目散に巨人の元を切りつけていく。
聖霊刀による傷だ、本来なら闇の魔素による治癒も阻害し巨人とはいえ激痛があるはずだ。
だが巨人は痛む様子もなくアリスを狙い続けた。
———新しい獣人だな、どうするか。
次に何をするか考えているときだった……。
「サチ!」
「あ?……今度はこっちか!」
「はぁはぁはぁ」
「んー、残念ですねえ」
あれから数分後、片膝をついて満身創痍になっているサチに対して息すら切らしておらずに立っている二人の姿があった。
「ギフトを手にして強くなったと思っていましたがまだまだですねえ」
「……うっさい!……くそ!」
あれからサチはギフトを利用して接近戦を仕掛けたがシオティスはほとんどその場から動かずにギリギリで避けたり極小になっている魔素球の線を切りながら対応していた。
だとしても何とか一発を叩き込むためにギフトを使用しながら戦っていたのだ。
だがそれでも有効打は打ち込めずにいたのだ。
「貴方はまだ力を手に入れたに過ぎないようですね。まったく使いこなせていない。それにそのギフトと魔法は余り相性が悪いようです。稽古だけでは得られないこともあるんですよ?」
シオティスはゆっくりとサチに近づき刀を構える。
「もう一度死の恐怖を味わったら何か出来るかもしれませんし……やってみましょうか」
「……っくそが!」
———ごめん……母さん。
刀が振り下ろされた……が。
ガキーン!
サチを捉えたはずの刀は軌道を変えるとサチの左側の空を切る。
「え?……え?え?」
何が起きたのか理解できず、サチの目は泳いでいた。
「おやおやアリスさんは良いんですか?」
「アリスが守ろうとした友人だ。手の届く範囲であれば俺も尽力はするさ」
龍が咄嗟にサチの前に出ると刀の切っ先でシオティスの刀を弾き軌道を変えたのだ。
「霞サチ」
「え?あ、はい」
「シオティスの言うことにも一理ある」
「え?」
「よく自衛隊の奴らにも言っているが確かに訓練、稽古は必要だ。だがな、百の訓練、千の稽古に勝るものはただ一つ……実戦だ。霞家でも実践形式の稽古はするだろうが、それでも実戦で得られる物に比べたら実戦の方が経験値は段違いだ。何故か分かるか?」
サチは自分がギフトを獲得したときの状況を考えてみた。
「死の恐怖?」
「そうだ。確かに稽古でも疲労や打ち所の悪さで死ぬ危険性はあるだろうが、それでもコントロールはされているはずだ。だがな実戦はそんなコントロールは一切されない、逆に言えば実戦に出て一秒で死ぬことなんてざらだ」
「じゃあなんで皆練習するんですか!そんなこと言ったら今までのだって意味がな……」
「意味はありますよ?練習というのは最低限死なないように……言い換えれば負けないようにするために身に付ける物です。勝つためにするのではありません」
龍以外にも本物の殺し合いを知っているシオティスが答える。
「死なないため?」
「そうだ。自衛隊でも警察でも戦うものが訓練するのは負けないため、戦って生き残るために訓練するんだ。運が良ければ勝って相手を倒せる……負けなければ……死ななければ次勝てればいい。そのために訓練するんだ」
「じゃあいつまでも勝てないじゃん!」
「だからこそ生死を分ける実戦で次に勝つための情報を経験を得るために生き残り続ける、それが強くなるための最短手段だ」
「……」
「良い事言いますけど……どうしま」
シオティスが尋ね終わる前に龍が一閃を放つが避けられる。
「まあそうなりますよね」
「当たり前だ、とりあえずてめえを切ればすべての片が付くからな!」
今度は龍とシオティスによる斬りあいが始まった。
一方その頃。
「お三方!あたし抜きでいい事話してそうですけども!こっちは一人で化け物と戦ってるんですけども!?労いとかくれても良いのよ!?」
アリスはアリスで頑張っていた。