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演習場襲撃事件 5

 ビュン!ビュン!


 第二ラウンド……と言っても良いだろうか、龍とシオティスによる斬りあいが始まるとサチは食い入るよう見つめていた。


 ———凄い。


 霞家での稽古でも魔法戦闘に関しては超一流の戦闘は見ていたつもりだったが、今見ている戦いは次元が違かった。


 もうほぼお互いの戦い方を知っているからなのか、それともそれでもちゃんと相手の出方を伺っているのか無理突っ込むことはせずに二人とも刀を構え一定の距離を保っている。


 だが相手の隙を作り出すためなのか、時折刀で突いたり軽く切り込もうとはしているが直ぐにまた最初に戻るを繰り返している。


「まったく、良いのか?あの子を一人にして」

「あ?時間稼ぎぐらい出来るだろ……恐らく……多分。それに闇の獣人は過去にも戦ったんだ経験はあるさ」

「本当に?今回の獣人は結構頭が回る方でね、戦闘に関してだったら自衛官一人は言いすぎだが賢い方だと思うよ?それに確実に倒せるほうからと俺とあの子を対峙させたんだろう?」

「……」


 そう、龍の中の計画はとっくの前から破綻していた。


 そもそも最初にアリスが聖霊魔法を使い巨人を倒していれば計画通りだったのだ。


 だが詠唱する時間稼ぎを龍が作り出す算段が外れ、サチですらもう戦うことは出来ない、そして現状龍とシオティスでは仮にシオティスを倒せたとしても時間が掛かるだろう、それも見越してシオティスは龍を本気で殺すようには動いてはいない、その時点で龍の取れる行動は二つだった。


 このまま戦い続け、自衛隊の応援を待つ。


 だがこれは現実的では無い。


 何故なら龍とシオティスが戦っている現状を知っている者が自衛隊側に一人も居ないのだ。


 そして唯一現状が分かる監視カメラも故障中である、自衛隊が異常を見つけ救助に来るまでの余裕はない。


 そして二つ目、サチを見捨てることだ。


 サチを見捨てアリスの加勢に行きアリスに聖霊魔法を使わせる、ヘイトが向かわない問題があるがアリスを傍に置いてシールドを発生させれば魔法発動の時間稼ぎぐらいなら出来る。


 だが龍は迷った。


 もし見捨てるのがアリスとは全く関係ない龍とも関係ない人間だったら龍は迷うことなく見捨てるだろう。


 だがサチはアリスがこの世界、この国に慣れるために初めて出来た友人だ、龍も霞姉妹にはかなり感謝をしているのだ、ここまで来ておいそれと見捨てるなど出来ない。


 だがここでバリアスの言葉が脳裏をちらつく。


『他の何を犠牲にしてもアリスちゃんを守れ』


 ———お前が言ったのはこういうことかよ。


 ガチン!


 龍とシオティスがつばぜり合いの形になる。


「ぐっ!」

「戦いの最中に考え事とは駄目だよ龍」

「うっせえな」

「早く決断しないと俺はまずいと思うけどね」

「は?」

「ほら」


 シオティスの目がアリスを見ろと訴える。


 龍は少しばかり疑うが、アリスの方を見た。


 アリスは巨人の蹴りや上からの拳を杖を使いうまくかわしていた、巨人の質量的に龍ぐらいでなくてはまともに受けても重さに耐えられないのだ。


「……大丈夫だ、あいつなら耐えられる」

「本当に?言っただろ?あいつは賢いって、ある程度学習するんだ」

「……何言って……」


 その時だった。


 もう何度目か分からない巨人の蹴りをアリスは防ごうと構える。


 だが目測を誤ったか、アリスの前方一メートルほどの地面にめり込み止まった。


「……はぁはぁはぁ。あ?」


(こいつも体力切れか?)


「うがああああああ!」


 巨人が雄たけびを上げるとどんどん足を地面にめり込ませていく。


 そしてアリスの立っている地面ごと上空に蹴り上げたのだ。


「は?マジかああああああ!」

「なっ!うっそだろ!」

「おー!たまやー!」


(わーたっかーい!ってそれどころじゃねえ!)


 上空に打ち上がったアリスは何とか風魔法で体制を立て直そうし、何とか安全に地面に着しようと試みるが。


「お?」


 巨人が空中に居るアリスを捕まえようと腕を伸ばしてきたのだ。


「おいおいおい!そこまでする脳みそあんのか君!」


 何とか風魔法で回避しようとするが、箒を使わない以上、落ちる速度の方がわずかに速いため落ちるコースを予測するのが簡単なんだろうすぐに捕まってしまった。


「おわっ!マジかよこいつ!」

「アリス!」


 すぐに巨人の元へ走り出そうとする龍だがシオティスが前に立ちはだかる。


「言ったろ?判断が遅いって」

「そこをどけえ!」


 龍が必死にアリスの元に駆け寄ろうと切り込むが冷静さを失った龍の剣筋ではシオティスは捕らえられない。


「アリス踏ん張れ!今助け出す!」

「あ、言い忘れてたけど」

「あ?今更何だってんだ!」

「あの巨人はね殴る蹴る以外にも武器があるんだ、本来あまり使う場面は無いだろうけどね」

「は?」



「うおおおおおお!いでででで!」


 ギリギリとした締め付けに苦虫を嚙み潰したような表情になるアリス。


 掴まれる際、杖を掴んでいた右手こそ自由に出来たが、左腕は体と一緒に掴まれてしまった。


(おいおいおい!こちら女の子やぞ!そんな力強く女の子握っちゃ駄目ってお母さんに言われなかったんかこらあ!もうちょい丁重に扱えやあ!)


 その時、アリスを掴んでいる右手がわずかに動いた。


(お?離す?だったら許してやっても……)


 ドスッ!


 何らかの衝撃がアリスの腹部を襲い、同時にお腹の中に何かがある違和感がアリスを襲う。


「お?は?おっぷ!」


 意図せず口から液体が流れ出る。


 まだ暗く何が出たのか分からなかったが、口に広がる鉄の味と匂いで嫌な予感が脳裏に浮かぶと同時に自分の体に何が起きたのかが少しずつ理解し始めた。


 何かが自分の体を貫いたのだと。


 そして同時に強烈な激痛がアリスを襲った。


「は……はは……あ、あ、ああああああああああああ!」


 激痛によるアリスの絶叫が演習場に響き渡った。


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