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演習場襲撃事件 7

 十代後半と見られる少女は何故か頭から布がかけられており表情を図ることは出来ない。


巫女姿の少女は少し駆け足でアリスの元へ駆け寄る。


 その様子に一番驚いていたのは龍だった。


 そもそもサチは何が起きているのさえわかっていないのだから。


「神楽……なんでここに」

「話が必要ですか?アリスさんを助けるより話が先ですか?」

「……いや、すまん」


 ———神楽?神楽ってどこかで。


 サチが次々と疑問が浮かんでいくのを尻目に神楽は懐から出した杖をアリスに向けると小さく詠唱を呟き始めた。


「……は?え?」


 だがその呟く呪文はステアで十分に魔法を習ってきたサチでさえ聞いたことが無い、それどころか普通の呪文なのかと言えるレベルで普段使わない言葉を使う詠唱だった。


 そして詠唱が終わり小さく呪文を唱えると杖の先から聖霊魔法のような白く眩い魔法ではなく太陽の光のような温かく何処か懐かしく感じる淡いオレンジ色の光が生成されるとアリスの体を包み込んでいく。


 すると少しずつアリスの体の貫通した穴はふさがっていき、虫の域であったアリスの呼吸も通常時に戻って行った。


 そして魔法の影響なのだろうか、そばにいたサチでさえ体の魔素が回復し、けだるさが無くなっていく感覚さえ感じるレベルだ。


「もう大丈夫……ですね」


 アリスの回復が終了すると、杖を仕舞い立ち上がる。


 だが回復の魔法でかなりの魔素を使ったのだろうか神楽は息を切らしふらついている。


「おい大丈夫か!」

「大丈夫……です」


 察していたかのように老紳士が神楽の後ろから支えた。


「ではこれにて失礼します。アリスさんに言っておいてください。暇がありましたらお礼の一つでも言いに来いと」

「あ、ああ。ありがとう」


 そのまま神楽は牛車に乗るとまた東の空へ戻って行った。


 その様子を龍とサチは何が起きたかという表情で見守っていたが次に口を開いたのはサチだった。


「……あの龍さん」

「霞サチ」

「あ、はい」

「今ここで聞いたこと見た事全て忘れろ……とは言わんが、口外を禁止する」

「……これって結構な国家機密だったりします?」

「…………結構どころじゃないよ。最高権力者の現首相すら知らない、知っているのは帝……つまり天皇陛下と俺だけだ。つまり最重要国家機密と言っても良い」

「ははは……まじか」


 予期しないタイミングで最重要国会機密を知ってしまったことを後悔すべきなのかそれとも喜ぶべきなのか迷っている様子のサチ。


「それとアリスが負傷した情報は現状、俺と君しか知らないはずだ。なら君は柏木に重症を負ったが命に別状はないと伝えておけ」

「了解です」

「……まったく、誰の差し金だ?アリスの死の間際にこんなことが起きるんてな」


 遠くからヘリの飛んでくる音が聞こえる……恐らく司令部が要請した応援部隊だろう。


 応援が来ていることを悟ったサチはようやく休めると分かり、多少の魔素の回復こそしたが徹夜した眠気には勝てない、龍によりかかる形で静かに眠り始めた。


 そして龍は現れたヘリにサチとアリスをヘリに収容するととりあえず司令部に戻って行った。


 これによりシオティスが演習場を襲撃した事件は収束することになる。



「……あり?」


 アリスが目覚めると、そこは見た事があるようなどっかの病院の病室の天井が見えた。


(腹……貫かれたよな?そしてその後の記憶がほとんどない……つまりは死んだ?じゃあここは何処ぞ?……まさか!二度目の転生!いやー主人公ですなー!まあしょうがないなあ!新しい世界で使えるチートは知らんが……)


「心機一転頑張るぞー!」

「何を頑張るんだ?」


 ベッドから思い切り起き上がり両手の拳を突き上げるが、横から聞こえる聞きなれた声で現実に引き戻される。


「……ッチ」

「なんで舌打ちなんだよ」

「目覚めの最初に見る顔が師匠なのはあれだなって」

「俺以外ならいいのか?」

「美人なナースさんとか……女医さんとか!サチとかコウとかならまだいい!師匠はいらん」

「そうか……ていうかそこまで元気ならもう退院出来るな」

「あんたが決めることではないだろ!……ていうかあれからどれくらい経ったのさ」

「2,3日ってところだ」

「あれからどうなった?」

「まあ色々あったがお前が瀕死の重傷を負ったことは機密事項になった。だから学校に戻ってもちょっと大けがをしたと柏木に報告しろ。霞サチにはもう伝えてある」

「あー、はい」

「そしてこのまま病院を出たら迎えが来てるから、ある場所に行ってくれ」

「なんで?」

「お前を助けた奴が会いたがっててな、詳細は今ここでは言えんが、とにかく行け」

「……うっす」


 龍の言う通りというべきか龍が医者に対して何か言ったのか、アリスはそのまま即日退院となった。


 アリス自身としても、起きた時から体に痛みも違和感も無かったので、別にこれ以上入院しても意味ないと思っていたのでどうでも良い事でもあった。



 病院の前に訪れた黒塗りの高級車に乗ったアリスは数十分間後、名家達が済む住宅街よりも閑静で森がところどころ生い茂る、一軒の立派な鳥居の前で停車する。


「……は?ここどこ?鳥居?ってことは……神社?」


(今から会うの神様?それとも……神主?巫女さん?)


 突然何処か分からない場所に下ろされるアリスが右往左往していると運転席の窓が開く。


「この鳥居の先をお進みください。神楽様がお待ちです」

「え?神楽?ってだ……おい!」


 必要なことだけ伝えた車は即座に何処かへ走って行った。


「……」


(神楽ってっ誰だよ。神楽……銀魂?でも神社だからチャイナドレス姿で出てくるわきゃ無いよなあ……まあとりあえず行きますか)


 言われた通り、鳥居をくぐり数分、しばらく整備された木々の間を抜けてアリスの目に映り込んだ光景はこの世界に来て初めてでありアリスにとっては幾分久しぶりな物だった。


 まるでここだけ旧日本に戻っているかのような神社の庭園がそこにひっそりとあった。


 少し小さめであるが鯉が泳ぐ池やちゃんと景観を考えて植えられたであろう植木、中央には大きな神社の本殿、それを囲むように立派な建物が連なっている。


 だがアリスが気になったのは全てが和風でまとめられているのに、たった一つだけ洋風の建物ガゼボが建っており、そこには机と椅子が置いてありすでに誰か座っていた。


(……あそこか)


 そのままガゼボに向かうアリスだが直ぐに目的の人物が気づき声を掛ける。


「あら、アリスさん!ようこそおいでいただきました!どうぞこちらに!」




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