背後からの声に振り向くアリス、だが背後に居たのはエルフのように見えるがアリスは知らない男性だった。
だがこの男性がアリスに話しかけた瞬間、少なくともプロトスの生徒が男性とアリスに注目し始める。
そしてプロトスの生徒が注目し始めることで他の生徒も少しずつ注目し始め、結果的にはこの場に居るすべての生徒がアリスと男性に集まった。
(いきなり皆の視線が集まりましたけど……この人誰よ?)
「えーと?」
「ああ、自己紹介が遅れましたね。プロソスの第一王子で皇太子のディアスと申します」
「皇太子……ってことは……バリアスさんの息子さん?」
「はい、あなたのことは父から聞いていますよ!いやあ会いたかったんです……神報者である龍さんのお弟子さんであるあなたと!」
(なんで最後語尾を強く言った?)
ディアスがアリスの身分を言った瞬間だった。
この場に居た全員が驚く声こそ出さなかったが、二人に集まる視線の意味合いが変わったのだ。
同時にステアを除く、全生徒の会話する優先順位が一気に変わる音もした。
だがそれでも誰一人アリスに話しかけようとはしない。
現在アリスは皇太子であるディアスと話しているのだ、それを止めてまで話す勇気があるものは居ないのだろう。
「そういえば師匠は?」
「ああ、先ほどまで二人で一局打っていたんですが、休憩で散歩に行かれました。その際、あなたがここに居ると聞きまして、あの時会えませんでしたから会っておこうと」
「あの時?ああ、仕事で来れなかった……でしたっけ?」
(何かそんなこと言ってたな……ほぼ覚えてないけど)
「ええ、どうしても外せない仕事がありまして。本当なら落ち着いた場所で一局を打ちたかったのですが……まあ今日を含め三日間は龍さんに付き合ってもらいますよ」
「はは……なるほど」
ディアスとアリスの会話をどうしても聞きたい生徒の一部が少しずつ二人に近づいていく。
だがここでまた全員の視線が一気に動くことになる。
「諸君、この度はよく来ていただきました」
何時からそこに居たのだろうか、会場の螺旋階段の上に居たのはプロソス国王であるバリアスだ。
(いつから居たんや……ていうかなんでバリアスさんがここに居るんだ?)
バリアスは上から会場をゆっくり見回すと、優しい笑顔でゆっくりと階段を降りながらしゃべりだす。
「三年前、卒業した君たちの先輩たちもここに訪れ、プロソスの文化、魔法技術を学び、各々の国の為に旅立っていきました。今年もそうなるよう、我々も国を挙げて協力し君たちの学びの助けとなるように努力しましょう。では三日間、君たちの旅が短いようで実りある三日間になるよう祈り乾杯としましょう」
階段を降り切ったバリアスは学生のパーティーだからかジュースが注がれたグラスを受け取る。
(……まだ乾杯してなかったんかい!そういえばした記憶ねえな)
バリアスはグラスを掲げた。
「魔法発祥の国プロソスへようこそ。乾杯」
「「「乾杯」」」
乾杯が終了した直後、アリスはステア以外の生徒が一気に質問をしてくるのではないかと身構えたが、それは無かった。
何故ならまだディアスがアリスの傍にいたからだ。
(この人は何時までここに居るんだ?皇太子なら忙しいでしょうに)
その時、乾杯を終えたバリアスが会場の奥から入り口……つまりアリスの方に向かっているのが確認できた。
その時だ。
「バリアス様!」
アリスまでの道をやんわりと塞ぐようにバリアスに話しかけたのは西宮だった。
「おや?君は……」
「西宮雪と申します」
「西宮?西宮……ああ、新しく総理になった」
「はい西宮輝義の娘でございます。総理になったのは去年ですが」
「うむ、総理になった時に電話で会話したよ。君の父君は国民の為に頑張っているように見える。これからも頑張ってくれと伝えてくれ」
「はい!ありがとうございます」
そういうとバリアスはアリスの元へ歩き出す。
バリアスからは見えなかったが、アリスには雪が『どう?』というふうな顔をしたかのように見えた。
(……?さっきから何どや顔決めてんだあいつ)
「やあ!アリスちゃん!」
そんなことを考えていると目の前にやってきたバリアスが満面の笑顔でアリスに話しかける。
「なっ!」
「うっそ!」
「バリアス様まで!?」
西宮を含み、プロトスの生徒のほとんどが満面の笑みで話しかけるバリアスの姿に驚いていていた。
元々部下には国王としての態度を徹底し、国民には優しい父のような優しい笑みを見せてきたバリアスだったが、あそこまでの笑みを見せるのはほとんど無かったからだ。
「バリアスさんお久しぶりです。と言っても一年ぶりですけど」
「ああ、そうじゃったね。人間にとっては一年は結構長いか……それで元気だったかな?」
「ええまあ……色々ありましたが元気です」
「そうか龍にもちゃんと君を見ておきなさいと言ってあるんだ。だから龍をちゃんと頼るんだよ?」
「え?ああ……はい」
すでに数か月前だがアリスは瀕死の危機に瀕したことがあるため目が少し泳いでしまった。
(演習場で死にかけたこと言ったらブチギレされそうだからやめとこ)
「それで今回君は来る予定では無かったと聞いていたんだが」
「へ?」
「ステア側のリストにも君の名前は無かったと記憶しているんだが何故いるんだい?」
「え?あー……あれ?」
(おかしいな……ちゃんと柏木先生に来いって言われたから来たんだけど……何かの間違いか?)
「それは私が言いました」
会話に入って来たのはミアだった。
「ミア?」
「ミアどういうことだ?」
「最初来たリストにはアリスの名前が入ってませんでした。ですが今後の日本とプロソスのためにもアリスにはぜひプロソスに来た方が良いと思いまして、誠に勝手ではございましたがステア側の責任者である柏木先生にアリスをメンバーに入れるように要請しました」
「だがリストは更新されていなかったが?」
「ええ、ある意味サプライズ……と言うことにしておきましょうか。まあ厳密に言えばリスト変更の時間が無かったんですけど」
「おいちょっと待てや。それだとワンチャンあたしの部屋がなかった可能性が出てきたんだが!?」
「安心してちゃんと食事も部屋も用意出来てるわ。ただうちの学校の生徒やメノリオの生徒に周知するのを忘れていただけよ」
「ミア……目的は分かったが、次からはちゃんと計画を立てて遂行しなさい。さっきから見ていたが周知出来てなかったせいで皆がアリスちゃんを見る目が誰状態だったぞ?」
「その点は申し訳ございませんでした。次からは気を付けます」
「では私はこのあたりで……仕事が残っていますので。アリスさん楽しんで」
「あ、はい」
「あたしもあっちへ行くわ」
「へ?ちょっと!」
「ではわしも仕事がありますので。アリスちゃん楽しんで」
そいうとバリアスとディアスが会場を後にしようとする。
(え?このまま一人にされる?ちょっと待てよ先からあたしを見てた生徒諸君が来なかったのはお二人が傍にいたからですよね?つまり二人が居なくなる……ミアまでも居なくなるってことはつまり……)
アリスが扉から出ていく二人を見送ると顔を引きつらせながら振り向いた瞬間だった。
先ほどまでずっと見ているだけのプロトスとメノリオの生徒が一斉にアリスの元へ走り出した。
「あー、これは」
「貴方龍様のお弟子さんなの!?名前は聞いていたけど!」
「お弟子さんは識人と聞いていましたけど、どのようなユニークを持っているの?」
「なぜお弟子に選ばれたの?」
(明日を楽しむ前に今、これから起きる地獄を耐えなければならなくなりましたねえ)
だが恐らくこうなることを予見していたのだろう、サチとコウが誰よりも早くアリスの元へ駆け寄ると、自然に質問者が一列になるように誘導する。
(あー、この二人が居て助かったわ。でも視線の端に居るんだよなあ……一人だけ質問の列に加わってない生徒が一人……何故かクッソ睨まれてるけど)
プロトスの生徒は例外なく列に並んでいるが、メノリオ側の生徒……何故か一人の女生徒だけ列には加わらず、ただ一人アリスを睨んでいるだけだった。
(制服を見るに……メノリオの生徒だよな?あたし……メノリオの生徒と会った記憶が無いし、特段粗相をした記憶すらないんだが?なんであんなに睨むんだ?……もしあちらが勝手に理由を作ったのだとしたら、その理由は……うん多分師匠関係だな)
アリスが必死に睨まれる理由を探ってはいたが、そもそも睨んでいた生徒とアリスは今回の話に一切関係ないので探るだけ無駄である。