「うおおほほほ!」
プロトスの魔法戦闘練習場ではサチとプロトスの魔法戦闘成績トップのエルフの男子生徒による戦闘演習が行われていた。
アリスは何回戦かしたのち、サチが戦っている生徒と対戦したが寝不足とお昼を食べた影響と少しの運動のせいによりふらついてしまい負けてしまったのだ。
そしてそのまま眠ったアリスが目覚めたのはちょうどサチとアリスを破った生徒との戦闘の最中だった。
仮眠ではなく戦闘訓練による気絶である意味ぐっすり眠ることが出来たアリスはすっきりした表情を見せるとミアに尋ねる。
「状況は?」
「サチさんとあなたを倒したセイン君が戦っているわ。あなたは運が悪かっただけね」
「そっか……さすがにあんな状態じゃあ負けるかあ」
「残念だったな」
「おおい!師匠までいるんか」
「お前が参加していると聞いてなプロトスの生徒がどこまで出来るかも見ておくのも悪くはないと思った」
「へー」
「アリスさんと戦っているときは良い戦いでしたけど……今戦っているサチさんの場合はちょっと……」
「ちょっと何さ」
「相手になってないのよ」
「あー、そりゃそうだろ。なにせステア一年で無敗の伝説作った張本人ですし」
アリスの言う通り、ステアにて前代未聞である一学年魔法戦闘における無敗伝説を作ったサチの前にセインは端から見れば遊ばれているようにしか見えなかった。
「うーん、アリスといい勝負してたから多少期待はしたんだけどなあ、アリス寝不足だったし。ただ単に運が良かっただけだね、君」
攻撃をいとも容易く避けながらセインの分析をするサチ、セインも途中から攻撃が当たらないことにイラついているのだろう、見境なく水の魔法をばら撒いているだけだ。
それにより闘技場は水たまりが大きく出来ている。
それを見ながらサチは少し考えた。
「……」
(何考えてんだ?サチ)
———これじゃ強くなれない。
今までは見えないように極限まで小さくした魔素球を仕込んで相手の動きを誘ったり、魔素球の位置を悟られないように自ら動き勝ってきた。
だが心境の変化が起きたのは数か月前、アリスと共に演習場にて襲撃された時だ。
アリスは瀕死になり自分もシオティス相手に何もできずに終わるという結果になったサチの自信は粉々に破壊された。
今までも稽古で負けるというのは何度も経験しているしその都度、強くなるために勉強を欠かしたことはない。
だがあの時だけは違う。
まるで相手にされなかったどころではなく、敵にアドバイスまでもらう始末だ、ある意味今までの研鑽のすべてが否定されたと言っても過言ではない。
だからこそ事件後、すぐに母である三枝に相談した。
『そうね、あなたの今の戦い方は一つのことをある程度極めた段階と言っても良いかもしれませんね。ですが本来の戦いの中では通用しないのも事実でしょう。何故なら実戦は常に同じ環境で起きる訳では無いのですから。その時々の環境に合わせて戦い方を生き延び方を変え適応する物こそ真の強者になりえるのだと思いますよ?』
サチは少し辺りを見回した。
———やってみるか。
少し何かを考えた様子のサチだったが、何かを決意したようですぐに構える。
セインも何かを感じたようで警戒態勢に入る。
その刹那、杖を地面に向けると風の魔法で上空に向かって高らかに飛んでいくサチ、それを見て呆れた表情になるプロトスの面々。
「あの馬鹿、あの時と状況が違うだろ」
途中から観戦していた柏木が同じく呆れた表情で呟く。
練習場の中央に居たセインは飛んでいくサチに向けて何発か魔法を放つが、打ってくることは織り込み済みだったのだろう僅かに身をよじると全て躱していく。
そして練習場の結界ぎりぎりの高度まで到達した瞬間、僅かな間をおいて落下しだすことを完全に無視するかのように杖を前方から下に振り下ろした。
「……くっ!」
セインはすぐにサチに向けて杖を構えるが、先ほどまでの戦いからすぐに後ろを向くと、杖を構えた。
背後から魔素球が来ると思っていたんだろう。
だが残念ながら杖のシールドは反応しない。
「……え?」
「……ディロクステ《雷よ飛べ》」
落ちながら唱えた呪文により杖の先で極小の雷の球体が生成されるとセインに目掛けて飛んでいく。
何かが来るという違和感を感じたセインは顔だけを上空に向けた、そして目の前に雷が迫るのを確認したまでは良かったが、後方に構えた杖で魔法を防ぐまでには時間が足らなかった。
咄嗟の判断で電撃を交わすセイン、周囲からは歓声が聞こえるが、柏木とアリス、龍とミアだけは違った。
何故わざわざ上空に逃げたのか4人以外その理由を分かっていなかったからだ。
電撃を避けたセインは自信満々に現在進行形で落ちてくるサチを撃ち落とそうと構えようとしたが全て遅かった。
ドン!バチバチバチバチ!
地面に着弾した電撃はセインが避けた先の場所を含めてあるものがあったせいで電流が広がった。
そう……セインが乱射した水魔法による水だ。
着弾と共に電流が水を伝って、水の上に立っていたセインまで伝播し、避けたと思い完全に油断していたセインの体をもろに電流が流れていったのだ。
「がああああああ!」
しかもサチは地面に落ちる寸前まで魔法をつないでいたせいでその間もセインの体には電流が流れ続ける。
そして……。
パリン!
電流によるダメージを魔法によるダメージと判断したんだろう魔結晶はセインがある程度電流を浴び続けると粉々に割れた。
そして、途中から風魔法に切り替えたサチは念のために水の無い所を選んで降りる。
それを確認したミアが声高に叫んだ。
「勝者!ステア魔法学校……霞サチ!」
電撃で気絶したセインが運ばれる様子を見ながら龍がミアに話しかける。
「今のずるいというやつがいると思ったんだが」
「そんな人この場にはいませんわ。常日頃から教え込まれますもの、ルールの範囲内であればどんな手段でも使え、負けた後にそれをずるいというのはただの言い訳である。なら次はそれを上回るように鍛錬し思考をアップデートさせろってね」
「なるほど」
「さて!次は?」
戦闘を終えたサチが軽やかな足取りで歩いてくる。
「残念ながら今の子で最後です。一応あの子は学校内で最優秀の子だったので」
「なーんだ残念…………ならさあ」
サチは龍の方へ向く。
「なんだ?」
「……龍さん、一回だけでいいからさ!あたしとやらない?」