「ういーー!食べて……入って……後は寝るだけじゃ!」
午後9時過ぎ。
レストランにて豪華な食事を味わったアリスたちは、来賓用の豪華な浴場にて汗を流すと、後は寝るだけとなり、ステアの生徒たちは就寝時間まで自由時間を謳歌していた。
その部屋にミアがとあるもの持って入って来る。
気づいた西宮が我先に話しかける。
「ミアさま!何か?」
「アリスは居るかしら」
「え……あ……そこに」
西宮が指さしたソファーにはアリスが横になりながらプロトスにて購入した魔法に関する本を読んでいた。
「……読めるの?」
「ん?ミアか、いやまったく。ただ日本に帰れば翻訳できるだろうし持っておくに越したことは無いっしょ?……で何用?」
「貴方……将棋は出来るかしら?」
「将棋?……まあ多分?」
(将棋かあ…………まあコマの動かし方とかルールとか把握してるからやったこたあ……あるんでしょうよ)
「なら一局どうかしら?」
「……師匠と打てばいいじゃん」
「龍様は兄さまとずっと部屋に籠ってるわ。お父様も今日は早めに寝ると……だからどう?」
「じゃあとりあえず打つか」
アリスとミアはテーブルに移動すると、椅子に座り将棋盤にコマを並べていく。
「あれ?アリス、将棋うてんだ?」
そこに風呂上がりのサチがやってきた。
「まあルールは把握してるから旧日本でやってたんじゃね?」
「へー。で?ミア様の腕前は?」
「お父様といい勝負ですわ……兄さまにはいつも負けますけど」
(バリアスさん将棋は弱いとか言わなかったっけ?)
だがそこにミアに対するサチの言葉使いが変わったことに対してかなり驚いた西宮がサチに突っ込む。
「サチさんなんでミア様にそんな言葉使い!」
「え?ミア様に許可もらったから?午後にいろいろあって」
「なっ!噓でしょ……」
自分ですらまだそこまで親密に喋ることが出来ていないのにいつの間にか同じ名家の友人に先を越されたことに驚きつつ……少しがっかりした様子の西宮だった。
「さて……始めますか」
「そちらが先手で構いません。それと……手加減はしないでくださいね」
「おいよもちろん」
パチ!
コマが将棋盤を打つ子気味良い音と共にアリスとミアの対局が始まった。
「……」
「……なあミア?」
「な、何かしら?」
ミアは顔を引きつっていた。
対局が始まってから訳30分。
プロの棋士が対局すればまだ序盤も序盤だが、二人がお互い……いや特にミアが早打ちをしまくっているせいでもうすでに終盤に差し掛かっていたのだ。
だが局面は残念ながら誰がどう見てもあと数手でミアが詰まされることと明らかになってしまった。
「負けを認めるのも必要だと思うよ?」
(ていうかここまで弱いのも予想外すぎるぞ。あたしも自分が強いとは思ってないけど、これでミアがバリアスさんといい勝負って……ワンチャン……あたしでもバリアスさんに勝てんじゃね?)
「……はぁ」
ミアが大きくため息を溢した。
「龍様もお父様も言っておりました。政治や戦争で国民の為に負けると思っても諦めないことは重要なことだが将棋に関しては潔く負けを認めるのはもっと重要なことだ。将棋で負けても何も失うことは無いのだと」
「ほう?で?」
「……負けましたわ。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
多少がっかりしながらも立ち上がると、見ていたステアの生徒たちが話しかけてきた。
「ミアさま!お尋ねしたいことが!」
「ミアさま就寝までお話ししましょう!」
「……そうね。で?何が聞きたいのですか?」
がっかりしたミアを慰めたいのだろう、多くの生徒がミアに話しかけ、ミアも思いもくみ取った、笑顔になるとミアを中心に輪ができると座談会が始まった。
「ふー、夜空がきれいだ」
一局が終了し、寝る前に夜風に当たろうと飲み物を持ったアリスがテラスに腰掛ける。
「あなたねえ」
そこにイラつく様子の西宮が話しかける。
「なにさ」
「確かにミア様は手加減しなくていいとは言ったわよ?でも多少の手加減は必要でしょ!あれじゃあただのいじめよ」
「……私が手加減してないと思った?」
「……どういう意味よ」
「確かに最初は出来る限り本気で挑んだよ?たださ……ミアのやつ勝手に突っ込んで来るんだぜ?途中から結構手加減してあれだ」
「……はぁ」
言葉を失う西宮、同時にアリスと同じように夜空を見上げる。
「そっちはどうよ今日一日」
「プロトスの授業を聞いたり、そこに訪れた政治家と交流したり……まああなたが問題を起こさないか少し心配をしていたわ」
「ご安心を。午前中はほぼ寝ていたに等しかったから」
「何してんよ」
「あなた、一昨日の夜のことをお忘れか?あれのせいで寝不足じゃ」
「神報者になるものが寝不足って」
「あのさあ!あたしは師匠と違って不老不死じゃねえんだわ!食事も必要だし、睡眠もいるんですよ!睡眠時間が足りなかったら眠いのは当然じゃろがい!」
「あっそ……少なくとも明日まで、帰るまでは問題起こさないでよ?」
「……わかっとるわ」
(でもさあ?例えばよ?主人公がこういうイベントに参加すると大抵主人公じゃなくて周りで何か起きるような気がするんですよ。で、主人公補正により巻き込まれて解決する……それが主人公では?それってもはや私ではどうすることは出来ない不可抗力では?ていうか今の言い方……帰ったら問題起こして良いと?ていうか普段から問題起こしていると思われとる?)
それが主人公である。
「あーあ!ま!あたしも今日はもう眠いし、就寝時間になったらすぐに眠るさ!プロソスに来られて良かっ……」
ドーン!
その時、突如アリスと西宮の背後にて盛大な爆発音が轟いた。
西宮はすぐに振り返るが、アリスは顔を引きつらせながらゆっくりと振り返った。
バリアスが就寝しているであろう宮殿前の庭と思われる場所に盛大な爆発による炎と煙が上がったのだ。
(ほーれみろ!あたしが起こさなくても勝手に何か起きるじゃねーか!)
「何事です?」
部屋の中で音を聞いたミアが直ぐにテラスに出てくると爆発の起きた場所を確認する。
「あー、ミアさん?一応聞きますけども、明日のお見送り用の花火的なものが暴発したとかでは……ないっすよね?」
「そんなものは予定にありません!するなら転移陣の場にてお父様がやるはずです!私は存じ上げませんが」
「……ならあれは……」
「そうですわね……」
アリスとミアは顔を突き合わせる。
「「襲撃」」
「行きます」
「寝みいけど行くかあ!」
アリスは偶々寝巻に着替えていなかったこともありすぐに杖のホルダーを付け、カバンから聖霊刀を取りだすと左腰に差し、先に部屋を飛び出したミアに続いて宮殿に向かって行った。
「ちょっと二人とも!」
二人が出ていき、シーンとなった空間にてサチが西宮を見る。
「で?どうする?」
「……んんんもう!アリスもだけどミア様もミア様よ!サチさん!杖を持ちなさい!生徒代表として私も向かうわ!一応護衛……お願いできます?」
「がってん!」
サチがホルダーを着けてミアに続こうとした時だった。
ガチャ……ドス!
「お前ら今の音……何してんだ西宮」
意図しない扉の開閉により西宮が掴もうとしたドアノブは思いっきり西宮のお腹に刺さっていた。
「ど……ドアノブが……刺さった」
「おや……それはすまなかったな」
「先生状況は?」
「私も詳細は分からん。本来なら元自衛官として様子を見てくるのが普通だが、ステアの教員で戦えるのは私だけだ、つまり私はステアの教員としてお前らの安全を守る必要がある。プロソス側からの連絡があるまで全員私と共にここで待機しろ……ん?」
生徒全員に命令をした柏木は少し部屋を見回すと、少し呆れ顔で尋ねる。
「アリス……アリスはどこ行った?」
「ミア様と一緒に爆発が起きた宮殿に行きました」
「……はぁ、分かった」
「行かないんですか?」
「何かが起きたんなら龍も向かうだろ、なら問題ない。逆にここに居る全員が私の居ない間に襲撃にあっては困るからな……適材適所だ」
「分かりました」