迎賓用の宿舎から宮殿に繋がる廊下を走る二人、ミアがアリスに尋ねた。
「聞いていいかしら」
「ん?なんぞ?」
「なんで刀を帯刀してるのよ」
「そうねぇ……もし襲撃者が闇の魔法使いだったら?」
「……ありえないわ」
「以前に闇の魔法使いと戦った時にあたしじゃ杖で歯が立たなかったんよ、刀ならある程度戦えるんでね、闇の魔法使いといつ戦うか分からん以上、常に帯刀はするでしょ」
「そ」
数分後、宮殿のメインホールまでおよそ30メートルといったところで突然アリスの足が止まった。
「何よ」
「シー」
暗い廊下……だが何かに気づいたアリスはメインホールに向けて目を注意深く向ける。
少し暗いがメインホールの右から左へ歩くフードを被った何者かが歩くのが見えた。
それをミアも見えたようで魔法を打ちこもうと右手を前に出す。
「待って」
「え?」
アリスは本能的に分かった。
体格、歩き方、それだけで十分だった。
もう何度も見てきているしもう今更間違えるはずはない……問題は何故あいつがここに居るのかが全く分からない点ぐらいだ。
アリスがゆっくりと刀を抜くと、出来るだけ足音を消して、それでも出来るだけ早く走るとフード姿の男に突っ込んでいく。
(音を出すな……一発勝負!)
もう眠気よりあいつを切ることに集中したアリスは出来る限り早く、出来る限り足音を消して刀を上段に構えると全体重で刀を叩き込むため相手まで数メートルまで近づく……。
ビュン!キーン!
アリスの渾身の一刀は背後だったにも関わらず、男の抜いた刀によっていなされる。
「にゃ!?」
ビュン!キーン!
アリスの剣劇を交わした男はすぐさま刀を横払いで斬りつけるが何とかアリスもいなすと後ろに下がり追ってきたミアと合流する。
「……足音を消す、声を出さずに叩き込む……素晴らしいですが……殺気が駄々洩れですよ。それではいつ切り込むのか丸わかりです。惜しいですねえ……この国にもこのような剣士が居たんですか」
男はゆっくりとフードを取った。
「やっぱり……久しぶりだなあおい!シオンさんよ!」
「……どうして」
フードを取ったシオティスはアリスの顔を見て驚愕した。それもそのはずだ、シオティスが最後に会ったのは腹を貫かれて虫の息だったはずである、普通に考えれば死んでいると思うのが普通だ。
「おいおい!シオンさんよお!どうしました!幽霊でも見てるような表情だけど?」
「では幽霊ではないんですね。まさか生き返ったとでも?」
「あーんそうだなあ……あんな形で死ぬのもあれだからちょいと三途の川をUターンして戻ってきちまったよ」
「ふふふ……あなたの生命力……いや豪運は凄いのかもしれませんねえ」
「そりゃあそうだろ」
(主人公だし……主人公補正って奴だ)
その時……。
ビュン!キーン!
シオティスの背後から一振りが首を狙うが察知していたのか軽やかにいなす。
すぐにシオティスが振り返るがそこには誰もいない……刀を振った張本人はすでにアリスの傍についていた。
「シオン……何用だ?」
「ははは!龍!言うわけ無いだろう?」
「そうか……アリス!」
「ほい!」
「俺とお前二人ならシオンと対抗できるはずだ。お前はサポートに徹しろ」
「……りょ、了解」
「龍様!私は!」
「この状況で刀を渡す暇がない!かといって俺とアリスは刀だすまないが見てるだけにしろ」
「……分かりました」
「まったく舐められたものですね」
約五分後……。
「アリス……意外と弱い?」
「うっさいな!たった五分でもあの二人について行ったことを褒めてもらいたいけどね!」
最初の数分間、アリスは龍と一緒にシオティスに切りかかった。
だが、シオティスは一体多数の斬りあいにも慣れているのだろう、龍が切り込み、シオティスがいなし手生じた隙を見つけてはアリスが切り込むという戦いをすぐに見抜くと常に龍とアリスの直線状に立たないようにするという高度な立ち回りを見せたのだ。
しかもアリスは寝不足である。
最初こそ興奮状態で動いていたが体が限界を迎えてきており満足な動きは出来なくなっていた。
これにより途中からシオティスと龍による一騎打ちを見守るだけになてしまっていた。
「それにしてもあのシオン……という闇?の魔法使い……剣術は凄いわね。龍様とほぼ互角じゃない」
「師匠と同じように400年生きてるらしいし、師匠と同じように魔法じゃなくて剣術を極めた結果があれなんだろうけどね」
「へー」
だがアリスは少し前から龍の戦い方に少し違和感を感じていた。
(剣術ってさ……本来色んな流派があるのは知ってるけど、どれも自分自身を守りながら敵を倒すために鍛錬するんだよな?でも師匠の剣術って何処か自爆特攻のような気がするんだよなあ……まるで多少自分が傷ついても構わないから相手の隙を出させてそこを叩くかのような……だから師匠って私に剣術教えないのか?)
アリスは龍に剣術を教えてもらってから一度も龍が使っている剣術を教えてもらったことが無い。
あくまで龍がアリスの剣術をいなす形で攻撃を受けていきながら技を見ているのに過ぎないのだ。
だからこそ、以前アリスは龍に聞いた……何故自分の戦い方を教えないのかと。
帰ってきた答えがこうだ。
『俺は自分の剣術を誰かに教えることは今後一生の無いよ。あくまでそいつの剣術を見て不安要素を教えるだけだ』
(師匠の戦い方は不老不死だからこそ出来る戦い方……だから他人には絶対教えない……とかか?)
ガチン!
何度目かのつばぜり合い……そしてお互いが距離を取る。
「……いつも思うが不毛だな」
「じゃあ何故切りかかって来るんだい?」
「そうしねえとお前何も喋らねえじゃねえか」
「切りかかられても喋らないけどねえ」
龍とシオティス、お互いがまた構え、切りかかろうとしたその時だった。
ドーン!
先ほどの爆発音が中庭からこだまする。
また……。
パパパパン!
今度は銃声のようなものまで轟いてくる。
龍とアリス……そしてミアもその音の発生源があるだろう方向を注視したが以外にも驚いた顔で注視していたのはシオティスだった。
「今日は予定外なことが起きすぎですね……じゃあ私はそっちに行きますので」
シオティスは納刀すると音の発生源へ向かって走り出した。
「待てシオン!……ん?アリス」
「ん?」
「シオンはどっちから来た?」
「へ?えーと……廊下側から見て……右から?」
「……ミアすぐにバリアスの元へ向かえ」
「何故です?私も向かいます」
「良いからいけ」
「……分かりました」
ミアがバリアスの元へ向かうと同時に龍とアリスが納刀し、シオティスの後を追った。