「はぁはぁはぁ……はあ!?三穂さん!?」
アリスは驚愕した。
中庭にて闇の魔法使いと戦闘を行っていたのは何と三穂だった。
(三穂さんが撃ってるの……MP7では?)
三穂がほぼ自分の位置から動かず、驚異的な速度で動く闇の魔法使いに向かってひたすら銃弾を撃ち込んでいたが一発も当たっている気配がない。
「なんで三穂さんが居るんですかね?」
「一応護衛のつもりで呼んだんだが……まさかこんなことになるとは」
「フロー一応聞きますが……なんでこんな事になったんですか?」
戦っている闇の魔法使いの後ろに立ったシオティスが尋ねる。
フローと呼ばれた闇の魔法使いフローシオは申し訳なさそうに答える。
「ごめんなさい!なんかやらかしちゃった!」
(それ……本来主人公が言うセリフでは!?)
「そうですか……であればすぐに片を付けなさい。これは計画に無いですし、こっちの計画はもう済みましたから」
「計画?」
「了解!じゃあちょっと本気出す!……第三解放」
目が虹色に光ると、フローは猫のような格好になり体表に僅かな毛が生え、爪が急激に長くなる。
「猫!?」
すると……。
ドン!
およそ人間とは思えないスピードで三穂に突進し、長い爪で切りかかる。
「……」
パパパパン!
直線で突っ込んで来るフローシオに対してMP7でよく狙って打ち込むが、ジグザグに動き三穂に近づいていく。
そして……。
ギーン!
振りかざした爪は三穂がギリギリで避け、すぐに三穂が回し蹴りを放つ、フローシオはすかさず距離を取るが、すぐに攻撃を続ける。
(本当に三穂さん何者なんですかねえ。あそこまで動けるってもう特殊部隊の人間にしか見えんぞ!)
「三穂さん……つええ」
「そりゃあなあ、今は言えんがあいつは実力者だし」
「そりゃあそうでしょうよ。因みに加勢は?」
「……俺はフローと戦ったことが無い、だったらここでフローの戦い方を見た方が後々の参考にいいだろうし、なにより戦っている三穂の邪魔をしたくないんでね」
「……なるほど?」
フローシオによる攻撃を何とか凌ぐ三穂だが、持っていたMP7を少し眺めると、MP7を投げ捨てるとグロックとナイフを取り出し完全な近接戦闘に切り替えた。
ただそれでもグロックでフローシオを捉えることは出来ない。
あくまでフローシオの移動範囲を制限することだけが有効であるため今の三穂のプライマリはナイフになっていた。
「……うーん……駄目だな」
何とか戦っている三穂だが、ついに綻びが見えてしまった。
三穂から見て右側に踏み込んだフローを狙い打ち込むがもはや相手は本能のみで戦っているのだろう、反射的にそれを避けると三穂の真正面に立つ。
「……おっと」
本能的な死の予感を感じた三穂は右手の次弾装填されているグロックを急いでフローに向けようとするが速さには勝てなかった。
「あはははは!」
フローシオが爪を振りかざす。
「…………しょうがないか、予定にはなかったけど」
何かを諦めた三穂はナイフとグロックを持った両手を心臓ではなく、あえて顔を庇うように構えた。
ドス!
「……ぐっ……ぷ」
「え?……三穂さん!?」
フローシオの爪が深々と三穂の胸を貫き貫通している。
同時に三穂の口から血液が零れ落ちる。
「三穂さああああん!」
(なんで!?あの人防弾とか防刃チョッキつけてないの!?ていうか三穂さん死んじゃう!)
アリスは日本刀を抜いてすかさず助太刀に行こうとするが直ぐに龍に制止される。
「師匠!なんで!?三穂さんが!?死んじゃう!?」
「あれで良いんだよ、あいつに限ってはな、それに言ったろ?三穂の戦いを邪魔したくないって」
「はあ!?」
「いえええええい!」
体から爪を引き抜くと誇らしげに血に濡れた手を上げた。
三穂は心臓を貫かれた影響か体から力が抜けたようにその場で膝立ちのまま動かない。
「さあ!シオン!終わったから帰ろ!」
フローシオは満足げに血に濡れた手を拭こうともせずにシオティスに近づく。
だがシオティスがある事に気づくと表情を変えた。
「フロー!まだ終わってない!」
「へ?でも確かに心臓は潰したよ?」
ゆっくりフローシオが振り返る。
三穂の体はわずかに痙攣を始めると、目が開く。
そしてその目は虹色に輝いていた。
「なっ!ユニーク!?あんな状態から!?」
「え?ユニーク!?」
角度的に三穂の目が見えないアリスがシオティスの言葉に驚愕する。
「あれが三穂のユニークだ。ちょっとまあ発動するのに必要な条件がきついんだがな」
「ほえ?」
虹色に輝く目と共に、貫かれた傷がふさがったのだろう、痙攣しなくなった三穂はゆっくりと立ち上がる。
そして腰から両手にナイフを取り出すとゆっくりとクラウチングスタートの構えを取った。
そして次の瞬間。
ドン!
フローシオに突っ込んだ。
「フロー!気を付け……」
「おわああああああ!」
先ほどのフローの攻撃速度を大きく上回る速度で切りかかる三穂。
何とか初撃を防ぎきるが驚異的な速度でナイフによる連撃を繰り出す三穂に対して少しづつ押されつつあるフローシオ、だが、自分の部下?が押されるのを見て少し興味深く観察するのはシオティスだった。
「へー、彼女、奥の手を持ってたか」
「やっべ!やっばい!くっそ!」
次々と繰り出されるナイフによる剣戟と体術によってなすすべもなく押されていくフローシオ、それを驚きながらアリスも観察していた。
「し、師匠?あれは一体?」
「三穂は、ちと特殊なユニークがあってな。まあここで発動するとは思って無かったんだがな。あいつは心臓に致命傷もしくは心臓が何らかの外傷を負うと、自動的にユニークが発動するんだ、発動すると体内の魔素を一気に消費してまずは心臓を一気に修復、そして残っている魔素を体の筋肉強化に回すんだ。一時的にでもあるが驚異的な運動能力を得ることが出来るんだよ。だからあいつは余り普段から魔法を使わないんだ、魔素温存の為に」
「わーお」
(本当に私の周りの人間、主人公に成れるレベルのチート持ちだなあ!おい!)
「でもそれって何回でも?」
「いや、あくまで心臓単体での外傷だ。試したことは無いらしいが失血死等や脳に対して即死攻撃だと恐らく死亡するし、魔素が足りないと回復できないと思われる」
「あー」
(だからあの時顔を庇ったのか)
アリスが三穂に感心していると、なんとなくだがフローシオの表情が変わったのが分かった。
何処か悲し気……いや必死な表情になっていた。
「いやだ……死にたくない。死にたくない!第五解放!」
「馬鹿!よせフロー!」