プロソス襲撃及びバリアス殺害事件から数日後、アリスは龍に呼び出され転保協会の神報者執務室に来ていた。
そこに集まったのは神報者である龍と、第一空挺団の衣笠、そしてフローシオとの戦闘をした三穂の三人だ。
アリスも学校があったがお前も参加しろという命令により参加したのだが、集まった理由は簡単だった。
そもそも何故闇の魔法使いがプロソスの宮殿を急襲し、バリアスを殺害したのかである。
プロソスでは交流会後、新国王に就任したディアスよりバリアスが病気により急死したと発表された。
さすがに闇の魔法使いによる襲撃だと発表すれば国内どころか全世界の混乱につながるとし発表を控えたのである。
しかし日本及びメノリオの政府首脳には闇の魔法使いによる襲撃によってバリアスが死亡したと秘密裏に伝えられている。
そして日本政府はこのような大事件を受けて本来の目的を露にせず、自衛隊による首相官邸警護訓練という名目で自衛隊を配備していた。
だがそれも長く続ければ国民の疑惑が深まっていくのは当たり前である。
だからこそ襲撃時、現地に居た龍とアリス、三穂の三人に事情を聴くことで少しでも聞くことでとりあえず次なるシオティスの主目標を見定めようと衣笠が提案し実現したのだ。
「んー?んー?」
「それで?シオティス……だったか?そいつが言うにはお前が合うときには目的を果たしたと言っていたんだな?」
「ああ、だが……まあ奴のことだ、喋ってはくれんかったよ」
「それで?三穂は今回の戦闘でユニークを使ったらしいが、大丈夫なのか?」
「まあね……でも多分だけど、あたしが……フロー?だっけ?あいつと戦うのはあっちにとっても想定外だったらしいからね。本来だったら、バリアスさんの死亡が発覚するのが遅れただけになるね」
「あれ?でもなあ……見間違い……でも一回見たはずだから覚えてる……でもなあ」
「今首相官邸と国会は発表こそしてないが厳戒態勢だ。いきなりプロソスの中枢が襲撃されたんだからな、次の標的に日本の中枢機能が襲われても不思議ではない……次にカンナが得るべきは次の標的だ。見当つかないのか?」
「そもそもシオンがバリアスを襲った理由すら不明なんだ。あいつの考えなんて分かるわけがない」
「いや?違うだろ。ずっとお前から聞いている情報を精査すれば、奴の目的はファナカス復活以外にはない。それを考えれば何故バリアス殿が殺されたのかも自ずと分かるはずだが」
「あのなあ……別にあいつとは仲がいいわけじゃないぞ?俺と同じように400年生きてる魔法使いってだけだ、あいつと再会したのだって400年ぶり……あいつの考えていることまでは分からん」
「うーん……やっぱり角度的な問題だったのか?」
「アリス!さっきから何独りぶつぶつ言ってるんだ!うるさい」
先ほどから一人で何やら呟いているアリスに怒号を上げる龍。
「来いって言ったのはそっちだろうが!」
「だとしても意見するわけでもないのに独り言が大きいんだよ!」
「あ?」
「まあまあ。アリス君何か気になるのかね」
「衣笠、やめておけ、どうせくだらない内容だ」
「あのさあ……バリアスさんってさあ……いつも首飾り?だっけ?綺麗な石のネックレス?つけてたじゃん」
「それがどうした」
「……亡くなったバリアスさんの首にそれが付いてなかったように見えたんだよね。確かバリアスさん曰く寝るときも付けてるって言ってたじゃん?まあ角度的に見えなかっただけだと思うけどさ、まあ首元血だらけで見えなかっただけかもしれないけど」
「ネックレスか……でもシオティスがそれだけを奪いに行くのも不自然だと思うし、そのためだけにバリアス殿を殺すのはおかしいとはおもうけどね……龍どうした」
アリスと衣笠が喋っていた時、アリスの見た情報ではっとした様子の龍が何やら深く考えだす。
———なんだ?何か昔に……あいつに言われたような……思い出せ。
『龍よ、お前にだけは言っておこうか、この魔石はな?持っている者はあらゆる結界を無効化し中に侵入できる代物じゃ。ただし、これを持っているのはプロソス国王のみ……他言は無用じゃぞ?』
龍の表情が変わった。
———完全に忘れてた。
「アリス……本当に無かったんだな?」
「だから角度的に分からないって言ってるんじゃん!無いように見えただけ」
龍が直ぐに電話を取り何処かに掛ける。
「龍だ。頼みがある。今すぐディアスに頼んで一緒にバリアスのネックレスの有無を確認しろ、最優先だ」
「おい龍……何してるんだ」
「プロソスの江利沢に電話してる。もしアリスの見た事が本当ならかなり厄介な事態になる」
「どういうことだ?」
「まだ言えん……ただの杞憂で終わればいいんでな」
数分後、受話器から江利沢の声が戻って来る……結構走ってきたんだろう、かなり焦った声色で報告する。
「たった今確認しました……ネックレスは無くなっているようです。……侍従さんたちにも協力してもらい軽く捜索しましたが恐らく紛失したか……盗まれたかと」
———やられた。
「分かった通常業務に戻れ」
受話器を置き、一呼吸するとすぐに立ち上がる。
「衣笠!今首相官邸に居る自衛隊は何処の部隊だ!?規模は?」
「は?……第一空挺団には命令が出ていないから……西京の第一師団だろ。しかも緊急配備だったから即応したのは一個中隊ぐらいか?別の部隊だ規模までは分からん」
「分かった」
龍はまた受話器を取り別の場所に電話を掛ける。
「こちら林です」
「龍だ。落ち着いて聞いてくれ。シオンの次の狙いが分かった」
「ほう?何処かね?」
「……ゼロ地点だ」
その単語を聞いた瞬間、アリス以外の全員の表情が変わった。
(え?ゼロ地点?なんぞそれ?……かっこいい呼び名だね)
「……あそこは闇の魔法使いでは入れないのでは?そのために結界が張られているはずだが」
「その結界を身に付けているだけで影響されないネックレスを盗むためにバリアスを殺したんだ」
「……そうか、ということは……シオティス君の計画は最終段階に入ったということだな。なら……そこに衣笠君は居るかな?」
「ん?いるが」
「なら首相官邸に連れてこい、それと君も来るんだろ?」
「ああ」
「ならある程度準備はしておこう。また後で」
龍が受話器を置くとすぐさま羽織を着る。
その様子を見た三穂もすぐに外に出る準備をした。
アリスはそもそもこの部屋に入ってから何一つ脱いでいなかったので立ち上がることで準備を終えた。
「おいおい龍どこへ行くんだ!」
「首相官邸……及びゼロ地点」
「そのゼロ地点て何さ」
「すまん時間がない。続きは飛びながら話す」
そういうと全員に魔法石の通信機を渡した。
首相官邸に飛びながら龍は詳細を話し出す。
「ゼロ地点というのは俺が封印したファナカスが眠っている場所だ」
「そこで封印したの?」
「いや、封印したのは別の場所だが、いろいろな事情でゼロ地点に置いたんだ。ちょうど日本とプロソスの国境、そしてどちらもプロソスの宮殿、日本の首相官邸から直通通路が伸びていてな、後から首相官邸やら国会が出来たんだよ」
「へー」
「そして少なくとも闇の魔法使いによる解除が出来ないようにバリアスが闇の魔法使いが入れないように結界を作ったんだ」
「つまりシオンはその結界の中に入るためにバリアスさんを殺した?」
「そうなる」
「なるほど」
すると龍はゆっくりアリスに近づくと、ジェスチャーで無線機を外すように指示する。
「……?」
アリスが無線機を外すと、紙を一枚渡し、口元で喋り始めた。
「これは聖霊魔法の呪文の紙だ。首相官邸からゼロ地点に飛んでる最中に心で詠唱しておけ。そしてゼロ拠点に着いた瞬間に魔法をぶっ放すようにするんだ」
「でもそれじゃあ聖霊魔法使えるって大々的にばらすようなもんじゃ!」
「もうそんなこと言えるような段階じゃない。今はとにかく正確に詠唱してぶっ放すことだけ考えろ」
「……了解」
「だが一つだけ……もし間に合わない……遅いと俺が判断したら撃たなくていい。合言葉は地面に降りろ……だ。地面に降りたらすぐに自衛行動に入れ」
「……了解」
龍とアリスは無線機を付け直す。
「よし行くぞ!」