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闇の女王復活 2

 首相官邸の地下、ゼロ地点へ繋がる通路の大扉の前には統合幕僚長から命を受けた第一師団の一個中隊が慌ただしく動いていた。


 急遽、ゼロ地点への突入が言い渡されると、中隊長が各分隊の長に指示を出し即時突入のための準備を黙々としていたのだ。


 そこに統合幕僚長である林が現れると、全員が作業を止めて敬礼する。


 普段なら敬礼の速さで笑顔になる林だが事態が事態なので表情は険しい。


 自分もすぐに敬礼するとすぐに直り、部隊に対して準備を続けるように促す。


 それを見た隊員たちもすぐに自分の作業に戻っていった。


 そこに龍を含めた4人が現れる。


「龍、来たか」

「おやっさん……なんで俺まで?」

「私よりも、そしてこの場の誰よりも詳しい状況を知っているのは先程まで龍と話していた君だけだ。だからこそ今回だけ特別にこの中隊の内、二個小隊を君に預ける。龍には部隊の統率権が無いからね」

「……なるほど、そういうことですか。分かりました」

「うむ……だが気を付けてくれ?この者たちは第一空挺団ではないということをちゃんと考えるんだ」

「分かってます」

「おっと準備が終わったか」


 首相官邸、ゼロ地点への通路の扉の前に二個小隊……総勢100名が並んだ。


「諸君、ただいまより君たちの指揮権を一時的に第一空挺団団長の衣笠陸将補に一任する。後は、彼の指示に従え」


 林と入れ替わるように衣笠が二個小隊の前に立ち敬礼する、二個小隊もすぐさま敬礼した。


「すまないが今は挨拶もする時間がないほどのひっ迫した状況であるため。概要のみ伝える。現在、ゼロ地点に闇の魔法使いが居ると見られる。その目的は闇の女王であるファナカス復活という推測だ。君たちの任務はこれより飛行にてゼロ地点まで飛行、ゼロ地点突入後、部隊を展開し、射撃命令の後、闇の魔法使いに対して射撃、これを撃滅するのが任務である!以上!それでは各自準備!」


 衣笠の号令後、二個中隊はすぐに箒に跨る。


 龍とアリス、三穂も箒に跨る。


 そして、首相官邸のゼロ地点扉の護衛である自衛官がゆっくりと通路に繋がる扉を開放する。


「神報者龍!を先頭に行動開始!」


 次々と空中に浮かんだ者たちは、龍とアリスが通路に入るのを見るやなだれ込むように飛行していった。


 その様子を敬礼しながら見送る林だが、耳元に政府職員が何かを呟く。


 その言葉を聞いた林は少し驚きつつも「分かった」とだけ伝える。


「衣笠君なら問題無いだろうが……問題はその後だな」



 少し狭いトンネルを出来る限り早いスピードで飛行する龍、アリスは飛行しながら風圧で暴れる紙を何とか抑えながら心で詠唱していた。


(さすがに読みずれえ!)


 その時だった。


 ドクン!


 突然、龍の体に違和感が生じた。


「……?」


 突然のことで、少し飛行速度が下がる。


 その様子にアリスも龍の以上に気づいたようで近づくと話しかけた。


「師匠……どうかした?」

「……分からん」

「はあ?」


 龍は今まで感じたことが無い違和感を感じていた。


 まるで今まで制限されてきた力が戻って来たかのような感覚、今まで使えなかった魔素が少しずつ戻ってきているかのような温かく感じる感覚だ。


 ———まさか……間に合わなかった?


 ゼロ地点まであと数十秒。


 何かを考えた龍はアリスに近づく。


「ん?何?」

「地面に……降りていい」

「は?なんて?」


 扉までもうあと十秒、扉は自衛官が警備していたが奇襲として龍が魔法で吹き飛ばすと事前に伝えたため退避済みだ。


 龍が杖の先で通路の幅いっぱいの魔素球を作りだし、目の前に迫る扉に放った。


「アリス地面に降りろ!」

「あー、はいはい」


 ドーン!


 盛大な爆発音と音と共に扉が吹き飛ぶ、龍とアリスが扉を抜けるとすぐに着地、後から突入した自衛官も次々に突入するとすぐに着地しすぐさま隊形を作成し、銃を構えた。


 龍のすぐそばに着地した衣笠はすぐさま号令をしようとした。


「総員!撃ち方…………待て!待て待て待て!」


 隊員たちが89式のセーフティーを解除し後は撃つだけだったが衣笠の命令により誰一人撃つことは無くすぐに安全装置を掛ける。


 何故撃てなかったのか……答えは簡単である、ゼロ地点に居たのは闇の魔法使い一人では無かったのだ。


「え……なんでミアさんが居るんですかね!?」


 先ほどまで泣いていたのだろう、目を真っ赤にはらしたミアがシオティスの守護霊であろうオオカミに睨まれながら人質としてシオティスの傍に立っていた。


(あ、あのオオカミかわいい)


「待機待機待機!」


 いくら訓練を受けた自衛隊……そしていくら緊急事態とは言え、人質が居るのでは撃つことは出来ない。


 しかも人質はプロソスのミア王女殿下である、もし一発でも当たってしまえば国際問題処の話ではない。


 そして問題のシオティスはゼロ地点のファナカスが封印されてるであろう中央部分に向けて杖を向けて魔素を流し込んでいるようだが、それも終わったと思われる。


(ひろっ……ていうか綺麗な場所だなここ)


 ゼロ地点は基本人が来ない前提なのだろう、巨大な遺跡のような場所であり、周りの壁には木々が生い茂っている。


そして中央には直径二メートルほどのガラス?埋め込まれており何かが中に入っているのだと分かる。


そのガラスの上には魔法陣が展開されている状態だが、すでにその魔法陣も普通の状態ではないと分かる。


「やあ龍とアリスさん。それと自衛隊諸君。よく来たね……でも残念ながら遅かったようだ」

「あ?」


 その時だった。


 パリン!


 魔法陣から何かが割れるような音が聞こえた。


 全員がそこに注目すると魔法陣に少しずつ亀裂が入って言うのが分かる。


「……」


 龍は魔法陣に向けて魔法を打ちこみ、魔素を供給しようとするが弾かれる。


 つまりはもう手遅れということだ。


 どんどん亀裂が魔法陣全体に広がっていき、次の瞬間……。


 バリン!


 魔法陣がガラスと共に盛大に割れると空中に魔素となって消えた。


 シオティスが立ち上がると両手を広げて叫ぶ。


「さあ!我が女王のご帰還だ!」


 ぽっかりと穴が開いた場所から次々と闇の魔素があふれ出してくる。


 そして少しずつ、中から大きな結晶が空中に現れ出る。


(あれがファナカス?)


 その結晶には18から20だろうか裸で黒髪の少女が膝を抱えて封印されていた。


 そして……。


 バーン!


 大きな音を立てて結晶が木っ端みじんに割れると、全て魔素となって消え、膝を掛けていた少女は立ち姿となり、目を覚まし降りてくる。


(まじか……あれがファナカス?)


 アリスは龍がファナカスと呼称する少女を見てかなり驚愕した。


 その美しさに。




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