そもそもだが龍は不老不死になってから第一魔法しか使えなかった影響により、いつかは使えるだろうと最初の100年ぐらいは他の魔法の勉強もしていた。
だが不老不死が解ける気配が一切なく、かつ神報者の仕事が忙しくなると魔法を勉強する時間も無くなりいつしか勉強した第一以外の魔法も忘れていき最終的に覚えている魔法は封印中でも使える第一だけになってしまった。
一応、鍛錬を続けていたのは剣術ぐらいだ。
バチバチバチ!
二人の魔法が繋がり龍とファナカスが魔法を押さっているが、普通の魔法戦闘の魔法の繋がりでは絶対あり得ない現象が起きていた。
普通魔法が繋がり、押し合いもしくは魔素量勝負いなると繋がる位置は魔素の送り込みにより多少変わることはあるが、魔法のつながりを維持すること自体が魔法戦闘に置いては何ら意味が無いためすぐに線は細いままで終わるのが一般的だ。
だが二人は魔素量はほぼ無限だ。
つまり二人が魔素量でも押し合いでも拮抗した場合、繋がる位置は変わらず、お互いが膨大な魔素を短時間で送り続けているため、なんと繋がっている線がどんどん太くなるという異常事態に発展しているのである。
(サチに見せてあげたかった……これこそ最強の魔法使い同士の戦いじゃん……やべえ、あたしはあそこの域までは絶対無理だ)
線の太さが極限までに達すると、太さが限界に達したのかそれとも一旦両者が繋がりを解除したのか、バチン!という聞いたことも無い音と共に線が切れる。
だがここまで多量の魔素を使っているのに関わらず、二人は息一つ切らさず佇んでいる。
「……ははは」
「……ふふふ、魔法勝負では勝負がつかないことなど分かり切っているのであろう?」
「そうだな」
龍とファナカスが杖を掲げる。
「……え?」
「「ネフスエクソフィーラ!《守護霊よ出でよ》」」
二人が守護霊の呪文を唱えた。
アリスは二人の守護霊による戦いが見られるとわくわくしたが……いい意味で期待を裏切る展開になる。
「キエエエエエエ!」
「シャー――――――!」
(ええええええ!?)
二人の召喚した守護霊は火を纏ったカラスと闇の魔素を纏った蛇だったのだが、大きさがアリスの想定外の大きさだったのだ。
両者の守護霊はどちらも体長5メートルは超えるだろうか、この空間に合わせて出来る最大サイズを出来る限りの魔素を注ぎ込んで出来たものだ。
(てかファナカスの守護霊……蛇って……まんまヴォルデモートじゃねえか!)
カラスと蛇は体をぶつけあうバトルを始める。
カラスは爪を使ってひっかき技を繰り出し、蛇は巻き付きが出来ないと分かるとすぐさま噛みつきに切り替える。
(やばいな……ここまで壮大な守護霊の戦い何て初めてだ。てか師匠は?)
お互いの守護霊のバトルを見ているかと思えば、龍は腰の刀を抜き、構える。
「そのまま刀で行くんか!」
「守護霊だけで行くと思うか?俺は刀が専売特許なんでな」
「そういうだろうと思っておった、ならばわらわもこれでいくかの」
ファナカスは空間に闇の入り口を作ると手を突っ込む。
(おいおい!闇の魔素何でもありか!)
そして何かを掴んだファナカスは思いっきりそれを引き出した。
それはなんと薙刀だった。
「薙刀―――――!?」
ファナカスはそれをまるで以前から使いなれているのか自分の体の一部かのように素振りをすると得意げに構える。
「……」
「……」
ドン!
キーン!
刀と薙刀を持った二人が衝突し、殺陣が始まった。。
「マジかよ……師匠……薙刀相手に戦えるんか」
「それほど驚くことかい?」
衣笠が疑問の表情で尋ねる。
「……衣笠さん……刀と薙刀のリーチ差知らんの?」
「それは知ってるさ」
基本的に、刀と薙刀では薙刀が圧倒的に有利だ。
刀の間合いに入る前に薙刀の間合いに入ってしまうので、刀で切りかかる前に薙刀の剣が襲ってきてしまうからである。
「私が言うのもあれだが龍は刀の達人だろ?薙刀程度であればあいつもなんとかなるんじゃないか?」
「もしファナカスの薙刀の腕前が達人レベルなら?」
「…………それは……予想がつかなくなる」
二人は自分の守護霊が自分たちの上空で戦っているのを意にも返さない様子で見事な殺陣を繰り広げている。
「ははは!思った通りだ龍よ!シオン以外でお主だけじゃ!わらわの薙刀と互角に戦えるのは!」
「こちとら400年生きてんだ!色んな剣術は見て来とるわ!」
(そんな凄い斬り合いしてお互い初見かよ!)
もちろん龍の剣術もファナカスの薙刀術にも流派があるだろう、だが二人の斬り合いは初めてとは思えないほどであった。
普通、聞いたことが無い流派、見た事が無い流派に出会った場合、おいそれと突っ込むのは愚かな所業だ。
切りあう相手の剣術を見極めないうちに突っ込んではもし相手が返し系……つまりカウンター系の流派だった時にとんでもないことになる。
だが龍は自分が不老不死だからかそんなことは意に返してないように突っ込む。
問題はファナカスだった。
400年封印されていたはずなのにまるで龍の剣術に合わせるかのような……いや、剣術を知っていて、それと遊ぶかのように龍の剣劇をいなしていく……まるで400年間龍の剣術を傍で見てきたかのようだ。
ここで龍の動きが止まった。
「……ん?」
「どうしたのかしら龍様」
「おおおい!ミアさん!?いつの間に!?」
ミアがいつの間にかアリスの横に居た。
目はまだ赤く腫れているが、表情は龍とファナカスの斬り合いに興味津々の様子である。
「気づいていなかったの?ファナカスが復活してからシオティス自ら解放したわ、もう用済み……でも殺さなかったのは謎だけど。それとこれも返却されました、お礼と合わせて」
ミアの手にはバリアスが首からぶら下げていたネックレスが握られていた。
「ああ……そうすか」
「それよりなんで龍様は攻撃を止めたの」
「さあ?」
龍が攻撃を止めたのは簡単だった……気味が悪すぎたのである。
龍の剣術はこの400年間で確実に別物に代わっていた、言い換えれば仮にファナカスが400年前の龍の剣術を知っていたとしても、今の剣術は知らないはずなのだ。
しかもファナカスは今、復活したばかりである。
この中で唯一、龍の剣術をある程度知っているシオティスでさえ、ファナカスとは400年ぶりで今さっき再開を果たしたのである、龍の剣術を教える時間など無かったはずなのである。
だがファナカスはまるで龍の400年間の研鑽の隅々まで知っているかのようにすべての剣劇をいなしてくる。
この時点で龍は何とも言えない気味の悪さをファナカスに感じ取ったのだ。
「どうしたのじゃ?龍よ」
———やってみるか。
「……すぅー……ふぅ……」
龍が大きく深呼吸し、もう一度構え直す。
そして同時に龍を纏っていた空気が変わった。
『いつもの構え……構えは同じだけど。空気が変わった?』
この場に居る特定の二人以外はそう思った。
———なるほど……アリスさんのあの時のか。まさか真似できるのか?
シオティスは悟った。
そして。
すっ!
今までの荒々しい突進とは全く違う、素人が見ればまるで洗練され達人が極めたかのような……だがシオティスから見ればあの時程とは言えないまだ粗削りな……そんな流れるような一閃をファナカスに叩き込んだ。