11月の頭、ファナカス復活から訳1,2週間が経った第二日本は意外にも平穏だった。
ファナカス復活を目撃したのが一部隊だったことやその場に居たのがほとんど識人だった影響もあり、情報はすぐに政府首脳陣にのみ届けられる形となったため大きな騒ぎになることは無かった。
だが首相官邸に自衛隊の部隊による緊急出撃、そこに自衛隊トップの林や衣笠、とりわけ神報者の龍が居たという情報が加われば、誰だって異常事態が起きたというのは明白である。
メディア……民衆はすぐに政府に対して情報を求めた。
その結果、ファナカスが復活を遂げたという情報が内閣官房長官より正式に発表された。
それに伴い、日本政府は首相官邸と公邸及び、国会議事堂に対して自衛隊による警備部隊を配備したが、訳2週間、何も音沙汰もない(国連にも報告したが、国連からも何もない)ため最小限の部隊だけ残し、ある意味平穏状態に戻ることになった。
そして今、国会では臨時国会が開かれており、ファナカス含めた闇の勢力に対して日本国としてどう対応するかという議論が開かれている。
そこでは国会議員たちが各々の政党の立場で闇の勢力にどう対応するかを政府に意見としてぶつけていたがこの者たちはこの後起きることをまだ知らないでいた。
ステア魔法学校に戻ったアリスは秋恒例のステア魔法学校の落ち葉等の掃除をやっていた。
「……これ終わらねぇんだが!?」
ステアの一年は学業を優先させるため、三年生は就職活動や進学のための勉強で免除されるため、この仕事は二年が担当することになるのだ。
アリスはサチとコウと一緒に正面入り口の落ち葉拾いを担当することになったのだが、そもそもステアは正面入り口だけでもかなり広く、植えられている樹木もそれなりにあるので掃除量も尋常ではないのである。
なのでアリスは嫌な顔をしながらも掃除していたのだが、予想外の人物までそばにいたために精神が削がれていたのだ。
「アリス!さあ話してもらうわ!」
西宮である。
「あのさあ、あたしが言うのもあれだけどさあ……あなた生徒会長ですよね?仕事しません?」
西宮は二学年の二期の生徒会選挙で得票率9割以上で生徒会長に選ばれたのである。
「ステアの生徒が私こそふさわしいと思って投票してくれたのです!それに私はちゃんと職責を全うしています」
「へー」
(少なくとも花組はふさわしいで選んで無いけどなあ)
アリスの言う通り、花組は確かに選挙において西宮に投票した、だがそもそも花組の人間から生徒会長に立候補したものがおらず、西宮に投票した理由もアリスが『まあ総理の娘だし、花持たせてあげようや』と言ったのがきっかけだった。
しかも今回の選挙に関しては現職総理大臣の娘が立候補したとたん、他の組の人間が相次いで立候補を諦めた時点(別に脅されたわけでない)で勝ちが確定していたというものある。
そして生徒会長になった西宮がアリスに詰め寄る理由がファナカス復活を目撃した一人がアリスだと父親から聞き、詳しい情報を吐きだすように頼んだのである。
「だからさあ!言えるわけねえじゃん!師匠から止められとるわ!」
(ていうかなんで西宮が知ってるんだよ。総理か?娘だからって話して良いんか?ある意味機密情報じゃないんか?)
「戦闘力等に関して聞くつもりはないわ。復活を遂げた時点で自衛隊は撤退と判断、そして直接対峙した龍さんですら一撃を与えられず、これだけの情報でもファナカスが十分脅威があると判断出来る、問題は姿形よ」
「それは総理にも報告言ってるんじゃないの?」
「直接見たあなたから聞きたいのよ。総理に届く情報とあなたの情報の乖離も見たいし」
「……そうねえ」
アリスはコウを指さした。
「コウさんが何?」
「コウをもう少し大人っぽく妖艶な感じにして、髪型は同じ、長さはもうちょい長いけど。色は黒い。そんな感じかな?」
「それだけ?他に特徴は?」
「あの時だけかもしれんけど、黒の着物を着てた。あと……」
「あと?」
「マジで引くほどの美人」
「あんたねえ……」
「あれは見ないと分からないよ」
「分かったわ」
少し納得いかない様子の西宮だが、コウを少し眺めると掃除を続けた。
「それとアリス、龍さんとの戦闘に……アリス?」
(なんだあれ?)
西宮がアリスにファナカスと龍の戦闘の詳細を聞こうとしたがアリスは空の一方向を眺めていた。
「何見てるのよ」
「あれ……多分だけど……飛行機?」
アリスが見ているのもを指さす、方角にすると北東方向、ちょうど国会や首相官邸がある西京がある方角だ。
西宮が目を凝らすと確かに航空機のようなものが見える。
アリスが双眼鏡を取り出す。
「なんでそんなの持ってるのよ!」
「べついいじゃん。個人的に持ってるだけ。……あれ?」
「何よ」
双眼鏡でギリギリ機体情報が見えるようになるとあることに気づいた。
(あれって……アメリカ軍の……B……なんちゃら?でしたっけ?確か……爆撃機。え?第二日本の自衛隊って戦略爆撃機?持ってるの?なんであんなとこ飛んでるんですか?)
「あの……西宮さん?この国の自衛隊ってB29とかの戦略爆撃機持ってるんですか?」
「は?持ってるわけないでしょ、航空自衛隊が所有しているのは爆弾を搭載できる戦闘機を持ってるだけのはずです」
「じゃああれは?」
「ちょっと貸しなさい」
アリスから強引に双眼鏡をひったくると航空機を見る。
「確かにあれは旧日本の歴史で見たアメリカ?の爆撃機……でも日本がそれを開発してるなんて情報は……あ!」
「何さ」
「……何か落としました」
「爆撃機だから落とすのは普通爆弾でしょ……ん?落とした!?」
その直後……。
ドーン!ドーン!
かなり遠くの方で何かの爆発音が連続で鳴り始めた。
「何が……何が起きてるのよ!?」
アリスが西宮を見ると、かなり絶望的な表情をしているのが分かる。
その時、数々の戦闘に参加し感覚が研ぎ澄まされているのか脳裏に危険信号が流れたのか脳裏に言葉が聞こえた気がした。
『頭上、危険』
(ん?上?)
アリスが上を見ると、すでに航空機が通り過ぎた後が確認できる、またその直後からアリスに迫る危険が音となり迫りくるのが分かった。
ヒューーーーー!
かつて第二次世界大戦時、悪魔の音と呼ばれた砲弾や爆弾が真上から落ちてくるときの音だ。
(……これは……やっばい!)
「西宮!」
「え?ちょっと何!?」
(西宮みたいな美少女を失うのは国家的には知らんがあたしの物語的にはあかん!つかもう間に合わない!飛びこめえええ!)
西宮の体を抱きかかえたアリスは何とか二、三歩走り出すと思いっきりジャンプすると、そのまま伏せた。
「全員その場に伏せろ!口を開けて目と耳を塞げええええええ!」
(なんであたしこれ知ってるんだ?)
咄嗟のことであったがアリス自身がこの言葉が出たことに驚いた。
これは近くに爆弾が落ちた時や爆風が近づいてくるときに行う体勢であり、爆風による風圧で内臓が飛び出たり目玉が飛び出てしまうのを防ぐために行われる行為だ。
爆発が近くで起きた場合、地面に伏せることをセットで行うことが望ましいとされる。
アリスと西宮が伏せ、アリスが叫んだ数秒後。
ドーン!
先ほどまでアリスと西宮がいた位置から数メートルで爆弾が落ちるととてつもない爆音が轟き、爆風が十メートルほど広がる。
「……」
———アリスが私を守った?
守った動機こそ不純であったがアリスが身を挺して守ったのは揺ぎ無い事実であり、助けられたことに驚きを隠せない西宮だった。
「あ」
「え?」
身を挺して西宮の上に覆いかぶさり、守ったアリスは地面に伏せたのが遅かったのか西宮の上にかぶさった影響か少し体が上にあったのだろう、爆風の影響を少し受けてしまったのだろう、体が浮いてしまい吹き飛ばされてしまった。
「おおおおおおおお!……うっ!」
吹き飛ばされた体はそのまま転がると、整備された花壇の石垣に激突、頭を打ち付けたのだろう、そのまま気絶してしまった。
「アリス!?アリス!だいじょう……」
「西宮様!お怪我は!一旦医務室へ!」
「ちょっと!」
吹き飛ばされたアリスの元へ走り出そうとしたが後から西宮が正面入り口に居ることを知っていた月組の生徒会役員がとりあえず西宮だけは非難させようと体を掴む。
「待ちなさい!アリスが!それに他の者も!」
「大丈夫です!無事なものが急いで運ぶように副会長が指示を出しました!会長は一旦医務室に!その後指示を!」
役員の言葉にアリスの方を見ながらも少し葛藤し悩むが生徒会長という立場として個人的な感情よりも組織のトップとしての務めを果たさなければという考えが大きくなる。
「分かりました。ではここは任せます」
「はい」
顔つきが変わった西宮は数人の役員を連れてそのまま医務室に向かって行った。