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第二日本国首都襲撃事件 2

「総理!今すぐ闇の勢力と交渉すべきです!闇の女王との戦争があったのは400前、今であれば交渉できる余地があります。交渉し、和平もしくは友好関係を結ぶことが出来れば国際社会での地位はより盤石になります」

「えー、確かに我々政府としても闇の勢力とは武力による衝突、解決は望んでおりません。ですが今現在、闇の勢力がどこにいるかもわかっていない状況であり外務省、防衛省など国を挙げて捜索している状況です。新しい情報が入り次第、交渉を始めたいと思っております」


 国会議事堂、衆議院第一委員室では臨時国会の予算委員会が行われており、政府与党である民政党と最大野党である自政党との論戦が起きていた。


 政府としての闇の勢力に対する対応がうかがえる(建前なのも十分承知)ので龍も傍聴席から見学していたがいつも通りつまらない国会論戦だと分かると少しがっかりしていた。


「それでは遅いと言っているんです!闇の勢力は国連からも最重要敵組織として認定されているんです!国連とも協議し、協力を求めるべきではありませんか?」

「もちろん国連とも現在協議しております。ですがまずは彼らとの交渉ルートがない以上、すべてが始まりません。ですから今現在国を挙げて捜索していると言っているんです」


 ———回答は変わらんか。


 確かに、龍が知っている限り日本政府は闇の勢力の本拠地を把握してはいない。


 そして国連でもそういう噂も聞いていない。


 恐らくだがシオティス辺りがよほど巧妙に隠しているのが現状なのだろう。


 であれば今の日本政府が出来ることは無い。


 そう考えた龍はもうここに居る必要はないと席を立ち上がろうとした……その時だった。


 ドドドドドン!


「……ん?」


 連続した爆発音に似た音が壁の向こうから……いや国会の外から聞こえたように感じた。


 そしてすぐに龍の背後から誰にも気づかれないように現れた男が龍に話しかける。


「現在、西京中心部にて所属不明の爆撃機による爆撃が行われている模様です。詳細は不明。ですが、確認出来る限り自衛隊機では無いことは間違いないかと」

「分かった。引き続き頼む」

「御意」


 男が消え、龍が首相の方を見る。


 男の方が情報を得る速度が速かったのだろう、焦った表情の首相秘書官が首相の元へやって来ると恐らく龍に伝えた情報をまんま伝えたのだろう、急に首相の顔が青ざめていくのが分かった。


 そして同じ情報を官僚が委員長にも伝えると、委員長が同じような顔で声を張り上げる。


「緊急事態発生のため会議を一時中断します!閣僚の……」


 バン!


 委員長が会議を中断しようとした瞬間だった……。


 突如、委員会室の明かりがすべて消え暗闇と化した。


「何だ!」

「何が起きている!」

「誰か!」


 だがこの状況でも議員は杖で光を付けようとしない。


 何故なら国会の委員会室は杖や銃などの持ち込みは警備担当や龍など特定の職業の者以外では禁止されているのだ。


「まったく」


 龍がとりあえず杖を取り出し、明かりをつけようとすると委員会室の電気が戻り明るくなる。


「……っほ……なっ!」


 一同、安心した次の瞬間、すぐに固まってしまった。


西宮首相の前に現れた人物は誰もがここに現れることを想定していない人物だったのだから。


「議員諸君、お初にお目にかかる。どうしたのじゃ?皆一様に驚いておるようじゃが」

「それはそうでしょう、皆ここにリサ様が来るなんて予想などしておりませんでしょうし」


 委員会室に現れたのは何と闇の組織のトップであり、闇の女王とうたわれるファナカスと最側近であるシオティスとフローシオだった。


 シオティスは刀を抜き、フローシオは爪を光らせながら周囲を牽制している。


 ———飛び込めねえ。


 首相の前に現れたのがファナカスだと分かると、日本刀を握り下に降りようとしたがさすがにここで斬り合いをすれば振った刃が他の議員にも当たり二次災害に繋がる恐れがある。


 それは魔法でも同じだと判断すると動けなかったのだ。


「ファナカス……でしたっけ?私は第二日本国、内閣総理大臣の西宮と申します。今外に飛んでいる爆撃機は闇の所有物でしょうか?」

「皆からはリサと呼ばれてはいるが、別にどう呼んでも構いはせんよ。……そうじゃあれはわらわが作った物での!意外とうまくできているであろう?」

「ならここに来た目的はなんでしょう?」

「おぬしらに警告よ。確かにおぬしらの技術力、知識はこの『大陸』で最強であろう。でも、それも長くは続かん、証拠がこれじゃ、わらわ達がが本気を出せば意図も容易く首都を蹂躙できる。そのことを伝えるためにここにはせ参じたのよ」

「ファナカス!」


 西宮首相が立ち上がろうとするがシオティスが刀を喉元に向けると、手を上げながら座る。


 するとシオティスはゆっくりと西宮に近づき耳元で何かを囁いた。


「……?」

「……っな!それは話が違う!……あっ!」


 言ってはいけないことを言ってしまったと顔面蒼白になった西宮総理は静かに座り込んでしまった。


 ———話が……違う?


「さてわらわの目的はまだ別にあるのでな、今日はこれにて失礼する。ああ、安心してよいぞ、しばらく日本に攻めるなどという行為はせぬ。ここまで弱い国に攻めるなど興が削がれる。国として精進することじゃ。では」


 また委員長室が数秒暗転し、次に明るくなるとファナカス三人はもう居なくなっていた。


 少しばかし静寂が委員会室を包むとゆっくりと西宮総理が立ち上がった。


「神報者!いるんだろ!」

「……まったく」


 龍は抜き替えた刀を仕舞うとそのまま傍聴席から降りる。


「……する」

「あ?なんて?」

「非常事態を……内閣総理大臣の名において非常事態を宣言する!」

「……了承した」


 その瞬間、委員会室がこれまで以上に慌ただしく動き出した。


 官僚及び閣僚はすぐさま統治権が委譲した天皇陛下のいる皇居へ移動を開始し、龍は近くの電話に移動すると、ある場所へ電話を掛ける。


「はい」

「龍です」

「どうしました?」

「たった今西宮総理より非常事態が宣言されました」

「……分かりました」


 電話をかけ終えた龍はすぐさま国会から皇居に繋がる地下道を使い、天皇陛下の元へ向かった。


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