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第二日本国首都襲撃事件 5

「……んあ?……あれ?」


(……ここどこ?今まで目覚めた場所とは全く違う)


「おはようございます!」


 覚醒したばかりのアリスの視界ににゅっと入って来たのは神楽だった。


「わー!」

「おっと!」


 いきなり現れた顔に驚き、咄嗟に上体を上げると、避ける神楽。


「なっ!神楽!?なんで?へ?」

「なんで……ここは私が住んでいる場所ですから」

「……つまりここは」

「はい前回あなたと初めて会った場所の……建物内です」


 確かにアリスが見回すと規模はでかいが神社の社の中だと分かった。


「あたし……生きてる?なんで?」

「大変だったんですよ?ていうか前代未聞ですよ?一年に二回も回復の神代魔法を使うなんて。そのおかげで私もさっき起きました」

「……なんかすんませんでした」

「構いませんよ?面白いものが見れたので」

「面白いもの?」

「あんなに焦った様子でここにあなたを連れてきた龍を見るのは初めてなので」


(そりゃあバリアスさんから言われてただろうし、焦るよな)


「因みにどれくらい寝てたの?」

「訳三日でしょうか」

「結構経ってるな」

「アリス大丈夫か?」


 二人が話していると龍がやって来る。


「師匠」

「……体は大丈夫なようだな」

「神楽のおかげっす」

「そうか……」

「三日ぐらい眠ってたらしいっすけど今の状況は?」

「ん?ああ奴らは完全に撤退したよ。本当に自分たちの武力を見せつける目的だったようでな現在、国が総力を挙げて探しているが見つかっていない」

「そうすか」

「ああ……ところで……アリス、柏木順を覚えているか?」


 龍が聞きづらそうに尋ねてくる。


「順先輩?そりゃあ知ってるよ!順先輩って確か自衛隊で第一空挺に入ったんじゃなかったっけ?」

「その柏木順一等陸士が……」

「が?」

「…………殉職した」

「…………ん?」


(今……なんて?殉職?殉職ってなんだっけ?)


 アリスは殉職の意味もちゃんと理解しているはずだ、だが予想外の情報はアリスの脳が理解するのを拒んだ。


「……ごめん……もう一回言って……ちょっと理解できなかった」

「……言葉を変えよう……柏木順が闇の魔法使いとの戦闘で死亡した」


 龍ははっきり伝える。


 その瞬間、アリスの視界が歪んだ。


「……はは、うそだ……順先輩が……死ぬわけない!嘘をつくな!」


 アリスが龍につかみかかる。


「嘘ではない。俺も遺体を確認した」

「……はは……はははは!」


 アリスは嬉しいのか悲しいのか分からない表情でふらつきだす。


 バリアスが死んだときには生れなかった感情が一気に噴き出し、コントロール不能になる。


「アリス何笑ってるんだ」

「龍様、あれは笑っているのではありません。人は予想以上の出来事が自身に降りかかると感情の制御が出来なくなり、最終的に笑うと聞きます。龍様もご経験あるのでは?」

「…………なるほど」

「ははは!嘘だ!嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だああああああ!」


 アリスは絶叫したまま床に突っ伏す。


 約半年とはいえ、脳裏には寮生活や部活で一緒に切磋琢磨した思い出が次々とあふれ出し、涙と鼻水が止まらなくなる。


(子供が生まれたばっかしなのに!なんでこんな所で死んでんすか!?やっと夏美先輩と一緒になってこれからってときでしょ!?バリアスさんに比べてまだ十数年しか生きてねえのに!なんでだよおおお!)


「ああああああああああああ!」


 神楽と龍が見守る中、御所内ではアリスの悲痛の叫びだけがこだましていた。



 襲撃から訳一週間が経過すると、日本も少しばかしの落ち着きを取り戻していた。


 非常事態が宣言による一時的に行政権が天皇陛下に移譲、天皇陛下が行政権を行使しているという情報と、龍によってファナカスがしばらく日本に攻撃することは無いだろうという情報がそれぞれ宮内庁職員により国民に伝えられたことが原因なのかそこまでの騒動が起きなかったのだ。


 このために非常事態宣言があると言っても良い。


 そしてこれ以上の襲撃が無いと予想が立てられると天皇陛下は非常事態の解除を検討、近く衆議院の総選挙が行われることなった。


 また順を含めた数名の自衛隊員が殉職した件でとりあえず自衛隊による合同葬儀が行われ、正式に二階級特進が与えられた。


 だがこの葬儀に少なくともステアにて一緒に生活をしていた花組の面々、サチやコウ、成田が参列したがそこにアリスの姿は無かった。


 襲撃事件から三日後に目を覚まして順の死亡を聞かされてから抜け殻になってしまったかのようにステアの寮にも姿を現さず、菊生寮の自室に引きこもってしまっていたのだ。


 アリスは自室のベッドで毛布に包まりながらひたすら自問自答していた。


(主人公……普通……主人公って他人とは一味違う力で味方を助けて……いやそれは勇者とか英雄か……でも物語に登場する主人公ってすごい力で周りを助けて……でもあたしに魔法の適性は無い、奇策を使って何とか凌いでるだけ。刀だって師匠やシオンに遠く及ばないしファナカスにだって通用しないのは目に見えてる……ははは……唯一のユニークの聖霊魔法も唱えるまでに時間が掛かるし、今の魔素量じゃ一度使ったらしばらく魔法が使えないどころか体が動くかすら分からない代物……あたしの存在意義ないなこれ……あ、腹減った)


 体を動かしていない間でも、体内ではエネルギーは消費している。


 三大欲求の一つである食欲は常に満たさなければならない。


 アリスが部屋の扉を開けると、何故が少し左側には食事がトレーに乗って置いてある。


 アリスが引きこもりだしてから置かれ始めたものだ。


 トレーには毎回置手紙が置いてあり、書かれている内容は毎度違うが、今回は……。


『今回は朝だけど中華にしてみました!ホイコーロー!元気になったらまずは私と一緒にお出かけしようか! 友里より』


 そう……龍からの指示なのか、友里が朝と夜は毎回食事を用意しているのだ。


「ありがとう……友里さん」


 アリスは食事をベッドまで持っていくと小さく座り食べ始める。


(でも……もう頑張っても強くなれないんだったら……頑張る必要も……それに今のままで神報者になったら。絶対迷惑かける……どうすっかな……夜逃げでもして平穏に暮らす?ははは……知識もねえのにそんなの無理か……結構旨……友里さんやっぱ料理上手い)


 食事を食べながら身の振り方を考えるアリスだった。



  襲撃事件から二週間経ち、変わらずアリスが引きこもっている部屋に食事を届けた友里はもう食べ終えているだろう食器を片付けに行こうと部屋の前にやってきた。


 そして友里は異変に気付く。


「……あれ?」


 食事に一切手を付けられた様子が無かったのだ。


「……もしかして飽きちゃった?」


 というより一切トレーを動かした様子どころか触れた気配すらない。


 不審に思った友里は扉をノックする。


「アリスちゃん?いる?食事食べないの?もしかして何処か悪い?」


 中からは何一つ応答はない。


「……まさかだよね?」


 友里は最悪の想定をした……そう自殺だ。


「アリスちゃん!開けるからね!」


 ガチャ!という音と共に友里が中に入ると同時に友里は安堵した。


 中でアリスが首をつっている等の様子どころかアリス自身が居なかったからだ。


 中は荒らされた様子はなく、引きこもってから自暴自棄になって暴れたようなことも確認できない。


 そしてベッドの掛け布団をめくり、シーツを触った友里は驚いた。


「つめ……たい?この様子だと……居なくなったのは最低でも一時間前?」


 慌ててアリスがどこかへ向かったかが分かるような物を探す友里。


 そして机の上に一枚の紙が置いてあるのを確認した友里はそれを拾い、内容を呼んだ。


「……え?えええ!」


 その内容に驚愕した友里は急ぎ、部屋を出る。



「龍ちゃん!龍ちゃん!」


 神報者としての職務としての休憩時間で菊生寮にて新聞を読んでいた龍に急ぎ友里が話しかける。


「なんだよ」

「アリスちゃんが!……居なくなった」

「近くの店にでも行ったのか?外に出るようになったのは良い事じゃないか」

「え?あ!違う違う!アリスちゃんが誘拐された!」

「誰にだよ……アリスを誘拐して得する人間が居るか?」

「置手紙!この字が書けるのは少なくとも龍ちゃんかファナカスぐらいでしょ!」


 と言って龍に紙を見せる。


 友里は文章の内容を見て驚愕したのではなく、読めなかったがこれを書ける人物はごく少数だと……それも龍やファナカスのように400年ほど生きている人間にしか書けないものだと知っているから驚愕したのだ。


 ファナカスという言葉を聞いた龍は焦って紙を受け取り内容を確認する。


『龍よ、しばらく……と言っても一日や二日程度ではあるがアリスを借りる。何、妙なことはせぬよ……ちと話したいだけじゃ。では リサより』


 全文を読んだ龍の顔に青筋が浮き出る。


「……あの野郎!?やりやがった!」





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