目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

アリス誘拐編 勅令質問改め 3

 深夜一時、龍、悟、最高裁判所裁判官二名、そして天皇陛下と皇族守護の絹枝は首相公邸の玄関口に集まっていた。


 全員が秘密裏に集まったおかげか、衆院選前だというのに首相官邸前は何故かいつものSPだけが居るだけであり閑散としていた。


 そもそもそのSPも龍が公邸の玄関口前に集まった際、少し警戒した様子で近寄ってきたが龍が書類を見せると、少し青ざめた表情を作りながら納得し、自分の持ち場に戻っていた。


 ピンポーン。


 龍が呼び鈴を押す。


 数分後。


「はい」


 時間も時間だ、寝ていたのであろう総理夫人の椿がすっぴん状態で呼び鈴を鳴らした龍を恨めしそうに出迎えた。


 だが出迎えた対象が龍だと気づくと何が起きているのか理解できず、困惑の表情を浮かべた。


「な、何用でしょ……え!?」


 椿はさらにこの場に天皇陛下がいらっしゃるのを確認すると驚愕し、小さな悲鳴を上げる。


 そして龍が一枚の書類を椿に見せる。


 椿がその内容を確認すると、徐々に顔が青ざめていく。


「そ、そんな……何かの間違いでは?」

「それを確認しに来たんだ、では中に入ります」


 龍を先頭に公邸内に入ると、次々と関係者が中に入っていく。


 龍が公邸内のある総理が寝ている部屋の前にたどり着いた時だった。


「……何事で……」


 公邸で就寝していた雪が偶々トイレか飲み物に起きたんだろう、寝室の前で大勢の人間が集まっている状況を目にし、声を掛けながら詰め寄ろうとしたが、龍が静かにしろというゼスチャーをすると何も言わずに龍の元へ歩いてきた。


「一体これはどういう状況でしょうか?」


 龍は何も言わずに書類を見せる。


「は?」


 雪も静かに書類を確認するが、母親と同じように徐々に青ざめていく。


「お前もこの紙が発行された意味は理解できるよな?なら静かにしろ」


 恐らくこれから何が起きて、この先どうなるのかを悟ったのだろう、全身の力が抜けたかのように壁によりかかるが、すぐに表情を変えた。


「よ、よろしければ……様子を見てもよろしいですか?」

「別に構わんが……何故だ?恐らくこれから起きる現実は変わらないぞ?」

「その紙が持つを意味を知っているからこそ、父が……総理大臣が何を喋るのかこの目で見届けたいのです」

「……そうか」


 龍は他の者に同意を求めると、周囲の者は喋らないことを条件に静かに同意した。



 ビュー!


 寝室にて寝ていたはずの西宮総理は何故か椅子に縛られた状態で、顔面に魔法の風を受けるとさすがに熟睡していても目覚めることになる。


「ん?な、なんだこれは!」


 目が覚め、自分が縛れらた状態で椅子に座らせられていると気づくと暴れ出した。


「貴様ら!私を誰だと思っている!警備はどうなってるん……え?」


 自分を縛った人たちに現状を問いただす西宮総理だったが、そもそも何も騒ぎが起きずにここまでやってきた時点で異常であり、そして西宮総理の目の前に居るのが龍だと分かると一気に声のトーンが小さくなった。


「お前が誰かはここに居る全員が存じ上げているよ、西宮総理大臣」

「……神報者?……それに……」


 ここで初めて龍以外にも裁判官と悟がここに居ることに気づいた。


 そして龍がゆっくりと一枚の書類を西宮総理に見せる。


「俺と最高裁判官が居る理由が一緒にいる理由……それは一つだけだ。『勅令質問改め』である」


 勅令質問改め……それは普段国家の象徴として何一つ政治的判断を下す立場に無い天皇陛下が唯一法的効力を持つ勅令として発布できる勅令だ。


 と言っても別にこれが発令されたからと言って政治的に何かが変わるわけでは無い。


 これによって天皇陛下が出来るのは対象者に質問が出来るということだ。


 だがある意味、この勅令を出された対象者は人生終了と同意味と受け取るだろう。


 何故ならこの現代第二日本国に置いて勅令質問改めの対象になるのは国益を損なうような不正を働いた人間ぐらいなのだ。


 勅令質問改めが発布できるのは基本的に天皇陛下だけなのだが、それを要請できるのは第二日本国になってから内閣の閣議決定か神報者の要請のみだ。


 そして龍が言ったように、龍は基本的に神報者としての仕事が忙しいので自分の判断で要請することは基本的にない。


 残る要請が出来る組織が内閣なのだが、その内閣が要請するのは大抵、国益を損なうような事件を隠蔽した人間か、煩わしい国会議員を辞めさせる使うのが普通なのだ。


 だがごくまれに龍個人に対して勅令をするように嘆願する人間もちらほらいる。


 大抵は捕まえたい……もしくは訴えたいが何かしらの(政治的な)圧力で警察が動かない場合の個人が龍に嘆願するのだ。


 そして何故第二日本国の一部(大抵は金持ちか国会議員等の権力者)がこの勅令に対してここまで怯えているのか。


 それは勅令が発布された対象者が虚偽の申告をしたと後に判明した場合、それは天皇陛下に嘘をついた……不敬を働いたとして不敬罪で逮捕される。


 しかも勅令関連の不敬罪は殺人罪等の刑事罰のように時効が存在しないのだ。


 つまり一度、勅令が発布されると素直に全部話すか、死ぬまで証拠を残さずに隠し通すしかなくなるのである。


 そしてこれは書類の提出にも同じことが適用され、勅令発布時に出さなかった物が後々に一枚でも出た場合でも、不敬罪が適用される。


 だからこそ一部の日本国民からすればこの勅令質問改めが発布された時点で人生終了……もしくは死刑宣告を受けたと同義と捉えるのである。


 因みにこの勅令質問改めを発行するのは天皇陛下だが、実際に行使するのは天皇陛下の助言役である神報者の龍だったりする。


「な、なんでそれが!」


 予想外の勅令発布に青ざめる西宮総理だが、そんなことを意に返さず裁判官二人が続ける。


「西宮総理、勅令質問改めの発布により神報者龍殿が西宮総理に質問権を行使します。なおここから先質問に正当な理由なく答えない場合、そして以後、回答内容が以後変わった場合、不敬罪が適用されることとなるのでご留意してください」


 二人の裁判官が近くの椅子に座ると龍の質問と西宮総理の回答を書き写すため、紙とペンを持った。


「さて西宮総理……まず聞きたいことがある」

「……な、何だというんですか!」

「国会襲撃時、お前の前にはファナカス、シオン、フローの三人が居たはずだ。俺もあの場に居たんだが……あそこで起きた事象で一つの疑問が浮かんだんだよ」

「一体何です?」

「お前はシオンに耳元で何かを言われた後……お前が言ったことを覚えているか?」

「ちょっと……あ……えっと……」


 勅令が出ている時点で質問されれば答えなければならない……だが西宮総理は答えたくないようだ。


 その様子を見た裁判官二人は怪訝な表情で見つめている。


「……はぁ、この質問に関してだけは勅令対象外とする。お前はかなりの大声でこう言ったんだ……『それは話と違う』と」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?