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アリス誘拐編 アリスの決意 1

「くぷえ……」

「アリスさん?」

「ぷいー……」

「…………」


 パチン!


 神楽のデコピンが机に突っ伏して人としての尊厳が無くなりつつあるアリスの顔の額に命中する。


「だああああああ!」


 まったくの無警戒だったのだろう。


 痛みで額を手で押さえながら椅子から崩れ落ちる。


「……何すんじゃ!」

「いつでも来ていいとは言いましたが人としての尊厳を失ったままでは何も話せません。話すことが無いのならばお帰り願います」

「……だってさー」


 アリスは椅子に座り直す。


「出来れば愚痴を垂れ流すのもご遠慮してほしいのですが。それより大丈夫なんですか?」

「何が?」

「闇の女王に誘拐されたとお聞きましたので」

「まあ……今の所何も無いし……なんもされてないんじゃない?」

「記憶が無いのを何もされてないと判断するんですか」

「……それは……でもそれ以外は何もだよ?」

「であれば少し疑問が残りますね」

「なんで?」

「そもそも闇の女王は何故あなたを誘拐したのでしょう?そもそも日本の首都を襲撃したばかりですよ?普通なら龍さんや天皇陛下など、日本政府との交渉材料としてならまだ分かります、まあアリスさんが交渉材料になるかは疑問ですが。それすらないと……何故誘拐したのか謎です」

「んなこと闇の女王本人でもねえので、知るか」

「まあそうですね、ではこの話は終わりです。では今日は何故ここに来たんです?ステアにはまだ戻ってないと聞いていますが」


 現実、誘拐事件後もアリスは一度もステアに戻っていない。


 何故ならもう今のアリスにステアに戻る気が一切なくなってしまったからだ。


 そもそもアリスがステアに入ったのは龍より魔法を学び身を守る方法を身に付けろという命令のためだ。


 しかしアリスには魔法の適性が無い。


 そして現状のアリスある程度の防御は出来るが、闇の魔法使いに対して、魔法では太刀打ちが出来ないのだ。


 だからこれ以上魔法を学ぶのは意味が無いと判断したのである。


 そもそもここに来たのも自分の現状を秘密を含めて知っている神楽であればすべてをさらけ出して相談が出来ると思ったのだ。


「アリスさん?」

「え?ああ……あのさ……あたしはさ……自分の事を主人公だと思っててさ」

「ずいぶん痛い自己分析ですね」

「…………まあそれで?この世界は魔法があるじゃん?あたしが知ってる異世界の主人公ならさ何か魔法で最強の力を持って世界を救うとかあるじゃん?でもさ!あたし魔法の適性ないじゃん!じゃあ他に何すりゃあいいのよ!……ていう愚痴です」

「……はぁ、あなたは愚かというか……愚直というか……馬鹿ですね」


 次々と罵倒のナイフがアリスの心に刺さっていく。


「重々承知ですわ……ていうか正直に言いすぎでは!?」

「一つ聞いていいですか?あなたにとって主人公とはなんです?」

「は?……凄い力で色んな人を救ったり……巨大な敵と戦ったり?」

「それは俗に言う漫画等の主人公で英雄や勇者と呼ばれる方たちの事では?質問を変えましょうか。あなたにとって人を救うとはどういうことでしょうか?」

「え?武器を持って敵と戦って弱きものを助けるとか?」

「……はぁ」

「だからさあ……その溜息やめません?」

「アリスさん……ご飯は食べますか?」

「そりゃあ食べるでしょ……師匠以外で食べずに生きていけるのは闇の魔法使いぐらいでこの世界に生きてる人は全員、食べなきゃ死ぬだろ」

「では例えとしてアリスさんの好きな食べ物は?」

「ラーメン……家系」

「その家系がどんなものかは存じ上げませんが、そのラーメンは何処で食べますか?」

「普通にラーメン屋だけど?まあたまにカップ麵とか袋麺とかも食べるけど」

「ではラーメンはそのお店で無から作り出せますか?」

「いや……そりゃあ材料がなくちゃ作れんでしょ?」

「そうですねラーメン屋さんも材料が無ければラーメンは出せませんね、では材料はラーメン屋さんが作るんですか?」

「んなわけ……何が言いたのさ」

「良いですか?人が生きるのに必要な衣食住、どれも無からはいきなり出てくる事はありません、どれも人がこの世界にあるものから、もしくはそれらを組み合わせて生み出される物です。食に関して言えば農家さんなどが食材を作り、ラーメン屋さんなどの料理人さんが料理として生み出すのです。だからこそ人は食に困らずに生きていけます。では衣類は?住む場所は?どれも材料を作り出し、職人が作ることで生み出されます。人は一人では生きていけないとはよく言いますが、別に衣食住のレベルを問わなければ一人でも生きていくことは可能でしょう、ですが人が多くなればおのずと要求される環境のレベルは上がっていくことでしょう。ですから役割分担をするんです。自分が出来ること、得意なことを自分で探して率先してやることで人は豊かになり、それらが集まって出来たものを人は国と呼ぶのですよ」

「お……おう」


 長すぎる話で途中から話が右から左へ通り抜けていくアリス。


「確かにこの国でも人を直接守る職業に就いている方はいらっしゃいます、自衛官ですね。ですが彼らは決して一人では動くことはないでしょう。基本的に魔法や銃を使いますが人一人の戦力などたかが知れています。だからこそ一人一人が訓練を連携力を高めることで組織力を駆使してこの国の民を助けられるのです。警察や消防隊員も同様です」

「あ、うん、はい」

「そして識人も同様です」

「何故そこに識人が出るし」

「識人は何故この国に置いて大切にされるのか……それは旧日本の知識を持ってくるためです。先ほどラーメンでも作り方が分からなければ作れません。作り方が分からなければ使うことが出来ませんし、食べることもできません。本来ならば人が長い期間を掛けて生み出すものを識人の知識のおかげである程度……いえ、かなり時間を節約して生み出されます。そしてその恩恵をこの国の民は受けることが出来る……だからこそ識人は大切にされるのです」

「うん」

「もう一つ質問しましょうか……アリスさん、何故ステアに入ったのですか?」



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