「何故って……師匠に言われたから?後は……強くなって人を守るため?」
「……はぁ、龍様は恐らく人を守るためにステアに入れたわけではありませんよ?神報者という性質上、命を狙われるのは結構あるものですから……第三国やこの国の者からも……過去爆殺されたこともあるそうです」
「ばく……さつ」
(えげつねえ事されちゃってまあ)
「この世界の魔法のシールドは最強ですからこれとある程度の戦術を学ぶことで身を護る方法を教えるために入れたのでしょう」
「ああ、なるほど?」
「それゆえにあなたに世界を守るなどの役目は期待してないと思いますよ?適性が無くともシールドを使い、戦いを生き残る術を手に入れている途中だと思われますが……」
「ますが?」
「何故あなたは魔法に固執しているんですか?」
「うっ」
今日一……特大のナイフがアリスに突き刺さる。
「だって……この世界……」
「魔法が使えるから、旧日本では使えないこと、それゆえ魔法に興味が出るのは分かりますが。旧世界でもそうだと思いますが、武器として使えるものなどいくらでもあるんですよ?適性が無いなら次に自分に合う武器を探すことも必要では?」
「それは分かってるさ!だから何したらいいかが分からないんだよ!」
「それは手当たり次第に試すしかないですよ。それと……」
「もうお腹いっぱいなんですけど」
「あなた、自分の中の主人公のイメージを壊さないようにしてるせいか、自分本来の生き方が出来ていないのでは?」
「あー」
確かにアリスは今まで主人公(ジャンプ的な)ならばこう動くという考えで動いてきた。
この世界の主人公なのだから(アリスが思ってるだけ)主人公らしい動き方をすべきだと。
確かに普段から自分らしい(ある意味変態的な)生き方をしてきたアリスではあるがそういう場面が来れば基本的には主人公ムーブに徹していたのである。
「もっとあなたらしい生き方をしていいんですよ?あなたがしたい事……ないんですか?」
「……いや……あの」
アリスは目を逸らした。
とても皇居……御所という場所で言っていい内容では無かったためだ。
「良いんですよ?ここには私とお付の者しかいませんし」
「それでも他の人間に自分の性癖を言えと!?」
「ええ!」
(なんで少し期待してんだよ)
「……はぁ……もっと」
「もっと?」
「もっと美少女や綺麗なお姉さんや美少年とキャッキャウフフしたいし!美少女を抱きしめて匂いかぎたいし!お姉さん胸に顔うずめたいし!太股に挟まれたい!正直言うと世界なんてどうでも良いわ!」
「ふふふ!言えたじゃないですか!そうです!神報者に世界を救う役目も日本を守る役目もありません!この国を守るのはこの国にて生まれた方々の仕事です。識人はあくまでそのお手伝い!自衛隊の方々などに任せておけば良いのですよ!そうですね……自分を守る方法は見つけていますから、後は少々おいたをしてくる方々を蹴散らす力が必要になりますか……龍様に聞いてみては?」
「師匠に?刀はいいかな」
「そうではありませんよ。確かに龍様は刀の達人ですが、それ以前に400年も生きているんです、体術や武術の一つや二つ、身に付けている知り合いがいるかもしれません。聞いてみては?」
「ああ、なるほど。じゃあ行くか!」
次に行くべき所、やるべきことが判明したアリスは思い切り立ち上がった。
「え?まあ行動が早いのは素晴らしい事ではありますが、なんでそんなに興奮してるんですか?」
「いやーさ、予定を組んだけど、その予定日までそわそわするって感覚あるじゃん?」
「まあ分からなくはないですが」
「普通はさ、やりたいことが分かっているからそわそわするもんじゃん?でもさ、何故かやることは分からんけどそわそわするっていう状況でさ!やっとやることができたから行ってくるわ!」
「そうですか……では頑張ってください。それと早く行きたいのは分かりますが……一応敷地内からは飛ばないでくださいね?」
気が早すぎたアリスは荷物から箒を取り出して跨っていた。
「……さーせん」
「師匠――――――!」
転保協会の神報者執務室の扉をアリスは思いっきり開けた。
「……外に出始めたのは良いが、興奮しすぎだ。で?どうしたよ?今日は神楽の所に居たようだが」
「なんで知ってるんだよ!?」
「別にお前の行動を逐一知っているわけでは無いが、少なくともお前が政府や皇族関係の場所に居れば報告が入るんでな」
(ああ、神楽のとこ御所扱いか……そりゃあ師匠は神楽の教育係らしいし報告が行くのも普通か)
「それで?なにようだ?」
「修業がしたい!」
いきなりの要望にあきれ顔になる龍。
「お前に魔法の適性が無いのも知ってるけど俺がお前に望むのは最低限の防御術だ。魔法の防御戦術をある程度習得したのは知っているさ。それ以上に何を望むんだ?」
「今のままじゃ防御としても最低限過ぎるし、闇の魔法使いに対しての攻撃手段じゃあ魔法は力不足だから何かほかに武器が欲しんだよ」
「なるほど……俺が剣術を教えるというのは?今までもある程度は教えてきたはずだろ?」
「でもさ……よくよく考えたんだけどさ……普通刀って両手で構えるじゃん?刀って攻撃と防御を兼ねてる訳じゃん?あたしが知っている中で刀を使ってるのは師匠とシオンだけでさ、二人ともほとんど不死みたいなもんだからさ……正直、参考にならん。習うならシールドが使えるように杖を構えときたいんだよね。だから常に片方の手を開けられる戦い方を習いたいんよ。知ってる人居たら教えてくんない?」
「……なるほど」
龍は少し考え始め、何かを思いついたようで答える。
「お眼鏡に合うか分からんが……一人心当たりがいる」
「400年生きてるのに一人しか居ないのか」
「すまんが、400年生きてると言ってもほとんど神報者として生きてきたんだ、仕事で忙しいんだよ。知り合ったと言っても仕事の関係で知り合っただけだ、まあと言っても知り合ったのは父親が先だがな」
「ふーん」
「それで?学校はどうするんだ?」
「……うーん、あたしの将来の仕事的に履歴書に乗っても意味ないけど……ステア卒業資格は欲しいから……休学ってことで校長に交渉するわ」
「そうか……分かった。なら先方には連絡するからお前は一旦ステアに帰れ、ステアの同級も心配してるだろ」
「あ……うん、わかった」
「校長、居ますか?」
ステア魔法学校に帰ってきたアリスは何故か人目をはばかるように校長室までたどり着いた。
校長の八重樫は机で事務作業をしていた。
「私は基本ここに居ますよ……おや?アリスさん!心配してたんですよ?襲撃から一度も学校に来てなかったようですから」
「すみません……色々あったもので」
八重樫は優しく微笑んだ。
「良いですよ。ここは学び舎、学びたいときに学ぶのが学び舎です。まあ卒業するには試験を受ける必要がありますが。それで?今日はどうしました?」
「……お話が」
アリスは闇の女王に誘拐された件は話さずに自分の現状のみを伝え、魔法ではこれ以上強くはならないと思うこと、次の手段として別の場所で修行するためステアを休学したい旨を伝えた。
「なるほど。まあ確かに一年の時、魔法の適性が無いと聞いていましたが……そうなりますか」
「はい……しばらく……半年か……一年ほど休学したいんですけど」
「はい構いませんよ?」
(……結構簡単に了承されたけど?)
「良いんですか?そんな簡単に」
「公立校であれば色々手続き等や面接が居るでしょうが、うちは違うので。細かいことは省きますが、休学自体は申請無くても出来るんですよ。そもそもステアの生徒は基本授業に出ることあんまりないでしょ?」
「あ、確かに」
(そういや授業の出欠による単位は無かったけか……試験さえ突破できれば……ていうかなんでステアって学校として存続出来てんだ?)
「なので一定以上休学であればご連絡等はしますが、基本的に自己申告による休学は問題ありません。ただ卒業資格だけはこちらが指定する試験を通過してもらう必要がありますが」
「……気になったんですけど……よく学校として存続できますね。これ試験さえ突破できれば学校通う意味ないと思うんですけど」
「ああ、よく言われますね」
(言われるんかい)
「そもそも授業内容もステアに通わなければ習えない内容がほとんどでして、卒業試験も一人一人違います。それにここに通う人は基本ステアの卒業資格が欲しい人がほとんどなんですよ」
(わーあたしが考えた事とおんなじだー……何かちょー恥ずかしい)
「なのでステアである程度生活しないと卒業できないようになってるんです。本校の目的はステアでしか学べない物を学びたいときに学ぶですから」
(学校というより……塾では?)
「あと……寮の荷物なんですけど」
「ああ、まあ現在二学年に在籍してますし、三学年に上がっても部屋替えはありません。残しておいても構いませんよ?もし退学になっても菊生寮のほうにお送りします」
「いや……あの……あたしがステアに入ったのこの世界に来てすぐなんで、着替え等が寮にある物のみなんですよ。なので……」
「ああ!分かりました、では寮の在籍自体は残しておきますのでいつでも戻って大丈夫です。それでいつから行くんです?荷物の整理等があるのでは?」
「えーと……師匠の連絡待ちなので……しばらくは荷物整理ですかね?」
「分かりました」
その後、アリスは少し躊躇しながら花組の寮に戻ると案の定、サチやコウ、成田や柏木からの質問攻めに会いながらもしばらく休学することを伝えつつ荷物整理をした。
「……」
「……」
「……お二人さん……そろそろ」
以外にもすぐに龍から連絡が入り、すぐにでも行けるという情報が入ると、アリスは翌日から荷物整理を早め、二日後の朝にはすべての準備を整え、出発することになった。
ほぼ毎日一緒に生活をしていたサチとコウはアリスが休学すると伝えた日からずっと泣いており出発する日に至っては、流れる涙が無くなったのだろう、両眼を真っ赤にさせながら黙ってアリスに抱き着いていた。
アリスの出発式(簡易)にはアリスが在学中に助けた、サチとコウ、成田、柏木や東條が見送りに訪れた。
「おい二人とも……悲しいのは分かるが離してやれ。死んだわけでもこれから死にに行くわけでもないんだ。悲しんでくれるのは嬉しいかもしれんが笑顔で送り出すのがイイ女の条件だよ」
そういう柏木も少し顔に覇気がなかった。
(先生……そっか順先輩って血は繋がってないけど兄弟なんだよな。だけど大人だからか教師だからか気丈に振舞ってるんかね……すげえよ)
「アリス」
そこに龍が近づき、一枚の紙を渡した。
「ここにある住所に向かえ。そこにいる奴にはもう伝えてあるから行ってお前の名前を伝えればいい。後はお前次第だ」
「うっす」
紙を受け取ったアリスはそのままポケットに入れると、箒を取り出し跨る。
「じゃあ行ってきやす!」
アリスは見守られながら空へ飛びあがると、目的地へ飛ぶのだった。