「……嘘……でしょ?」
夏美が驚くと共にゆっくりと首から手を離していく。
「まあ俺の場合、両親が同時に死んだわけでは無いよ。父親が死んで、その後母が自殺した。俺はその後父の友人に引き取られたんだ。それで一応苗字も変わった。ある意味お前と同じだ」
「悲しくなかったの?」
「正直言うと悲しい悲しくない以前に俺には二人の……思い出となるような記憶がないんだよ。自分で調べたんだけどさ、PTSDって言うらしいんだけど自己防衛本能?の一種でショッキングな出来事に立ち会うとその事やそれ以前の記憶を思い出せなくして精神の崩壊を防ぐんだってさ。だから今の俺には悲しむような思い出がないんだ。そう考えると悲しむことが出来るお前に比べて悲惨だな」
夏美は言い返せなくなったようで俺の事を静かに見つめるだけだった。
そして俺は起き上がると夏美の体を掴む。
「でもだ。現実俺はこうやって生きている。それはな母から生きてっていうメッセージだと思ってるんだ。俺の父の友人に言われたんだが、残された俺たちの使命は精一杯生きて幸せになることだ。それがこうやって残された俺たちの両親に出来る最大の親孝行だって。俺はそう思って生きているし、お前もそう生きるべきだ」
「精一杯生きて幸せになる」
「そうだ。幸せになるためには楽しい思い出を作るに限る、そのためには一緒に楽しいことをやる友達がいる方が良いだろ?俺には両親を失っても変わらずに接してくれる峰のような奴もいる。だからさ、友達になろうぜ!な?」
「……良いのかなあたしだけ幸せになって」
「……はぁ、あのさあ小林!」
「な、なに!?」
「もしお前が幸せになるのをお前の両親が恨んだとするぜ?ならさそれについてはお前が何十年も生きて十分すぎるぐらい生きて死んで両親の所行ってからどうぞ喧嘩でもなんでもすりゃあいいさ!それまでどう生きるかはお前の自由だろ?さあ行くぞ!峰行くぞ!」
「お?行くか?何する?キャッチボールとか?」
「いや小林はこっちに来たばかりだろ?なら最初は駄菓子屋だ、キャッチボールはその後にでもすればいいよ。あ、でもグローブが足りんな……でも柏木のおじさんならお古ぐらいあるだろ。ほら行くぞ」
俺は夏美の手を引きながら峰と一緒に学校を出た。
その後、俺と夏美と峰は一緒に放課後、一緒に帰ってはいろんな所で遊んではバカ騒ぎしては怒られたり、笑ったり、時には何故か夏美がヤンキーに誘拐されたので峰と一緒に助けに行ったり(この時点で何故か夏美に執着され出す)して小学校と中学校生活を過ごした。
そして中学二年の秋。
来年になると受験シーズンとなった今年のある日、俺は二人にある決意を告白した。
「俺、ステアを受験する」
中学に入ってしばらく過ぎた頃、俺は義理の父に本当の父である桐谷宗太の過去について聞いた。
父は第一空挺団所属の自衛官であるということまでは知っていたが、何故死んだのかまでは聞かされていなかった。
掻い摘んで話をすれば、父は孤児だった。
生まれたばかりで宗太と名付けられただけの赤ん坊は孤児院の玄関に置いてあったらしい。
因みに桐谷という苗字はその孤児院の院長の苗字から取ったのだと。
そして何故自衛官になったのか……それは孤児院が洪水に巻き込まれた際、それを救助したのが自衛官であり、第一空挺団の人だったのが理由で自衛官を志したというのだ。
だが防大に行き、幹部になるよりも現場で命を懸けて体を動かし、国民を直接助ける方が性に合うと思った父は高校卒業と同時に自衛官となった。
そして己の限界を確かめたいと第一空挺団に志願し、合格、レンジャーの資格を取った父は空挺団で柏木父と出会ったらしい。
因みにその時点で、母とは結婚してたと言うのだ。
そして聞いた話では母はいいとこのお嬢様だったらしいが、父に一目ぼれし、結婚を決意したが両親に猛反対されたらしい。
だが、母はどうしても父と結婚したかったらしく、勘当されてまで結婚したらしい。
つまり母が自殺したのは父が亡くなったことにより身寄りが無くなってしまったからだと言われた。
そして問題の父が亡くなった原因だ。
父は実弾射撃演習中に何故か気が狂って暴走し、周囲に向けて乱射しようとした同期を自らが盾となり止めようとしたらしい。
本来なら、杖のシールドを展開し制圧するのが一般的だとは思うが、父は隣で射撃をしていたこともあり、すぐに取り押さえれば済むと思い制圧に掛かった。
だがそうことはうまく進まなかった。
およそ一メートル……されど一メートルだ。
父に銃を向け発射するには十分すぎる距離である。
訳十数発が発射され、実弾射撃演習中であるため防弾チョッキを着てはいたが数発が頭を直撃し、即死したのだと。
確かに自衛官の訓練は過酷なものが多いのは知ってはいた。
だが訓練中の事故とは聞いては来たがまさか味方の銃撃で死んだと思っていなかった俺は酷く驚いたと同時にこのような感情も芽生えていた。
『国民を守るはずの自衛官として突発的な事故ならともかく、錯乱した味方に打たれるというのは恥ずかしいのではないか?』と。
そして同時にこうも思った。
『息子である俺だけが父を仕事を引き継ぎ、国民を守るために盾となる』と。
自衛官は国を、国民を守る存在だ。
国民を守らずして何が自衛官だ。
父のように訓練で死ぬような自衛官では無く国民を守って死ぬ、それが自衛官としての本望ではないか……そう考えた俺はこの時に即座に自衛官になると決めたのだ。
だが自衛官になるのにもいくつかのルートが存在する。
例えば普通の人と同じように自衛官候補生か曹候補生となり自衛官となるか。
中学生であれば高等工科学校に入り、そのまま防大に行く等のルートだ。
だが俺が選んだのはステアに入るルートだった。
攻撃専門である基礎攻撃魔法はステアに入らなければ習得も資格として使うことも出来ない。
まあ他にも習得する方法がないことも無いが一番簡単な方法はステアだ。
そしてこの世界の武器の最上位は魔法だ。
自衛官として自分の身を護るために基礎攻撃魔法を習得することは悪い事じゃない。
だからステアに行くことを選んだのだ。
そしてそれを踏まえてステアに行くと告白した二人の反応を俺は見た。
「じゃあ俺もステアに行くか」
「うんあたしも行く!」
「……因みに行くけど何故だ?」
「おろ?順は知ってるだろ?俺はお前と一緒に自衛隊に行くって前に行ったじゃん」
確かに峰は小学生低学年の頃、親戚の家に居たとき、大雨による洪水の災害に遭って自衛隊に助けられた経験があり順は峰から常に将来は絶対に自衛官になると聞かされていた。
「いや順は分かるんだけどさ……小林は何故に?」
「え?順が行くから」
「……さいですか」
ここ数年で夏美の事が分かってきたが夏美は自分が決めたことは絶対に曲げずにやり抜くことをモットーにしているようで塞ぎがちだったころとはまるで違い今や、俺が知っている初めて会った夏美とはまるで違っていた。
「なら結構な勉強要るぜ?ステアって結構偏差値高いだろ」
「一年間集中して勉強すれば何とかなるんじゃないか?必要なら先生にでも特別授業受けてもらえばいいだろ」
「そうだね!」
「そうと決まれば誰一人落ちずに全員受かるぞ!いいな?」
「ああ」
「もちろん」
意気込んだ俺たちは進路相談で教師に相談したのち、特別授業を受ける許可を受けた俺たちは必死に受験勉強をしながら一年を過ごしステア魔法学校の受験に挑んだ。
そして合格発表の日。
合格判定は各家に届けられるようで届けられた封筒をいつも遊んでいる公園に持ちより開封の儀に挑んでいた。
「いいか?同時だぞ?」
「分かってるさ」
「い、いくよ?」
「せーの」
三人があらかじめその場で封を切った状態で一斉に中の紙を取り出した。
「…………俺!合格!」
「…………俺もだ」
「あたしも!」
三人の取り出した紙に書かれた『合格』の文字に喜ぶと俺たちは柏木家にてささやかな打ち上げをし、ステアでの学園生活に夢を膨らませていくのだった。
だがその数か月後、ステアに入学した俺に最初に声を掛けてきたのはとんでもない人物だった。