そもそも俺たちが住んでいる千葉県の習志野からステアがあるマギーロは首都である西京を挟んでかなり距離がある。
しかもステアは日本全国から入学志望の為に受験する者も多い関係上、自ずと知り合うのは新しい仲間のはずなのだ。
だが俺たち三人は意外な人物と再会を果たした。
……そう恭子義姉さんだ。
入学式が終わるや否や、俺は恭子義姉さんに引きずられるようにして屋上に連れ出された。
「ちょっと!義姉さん!?痛いって!」
峰と夏美はそれを入り口から眺めていた。
「ねえ……峰さあ……あの人誰?」
「おろ?そっか夏美は知らんか。あれは柏木恭子さん、順の義理のお姉さんだよ」
「義理のお姉さん!?」
「そう、ただ俺も詳しくは知らんのよね。自衛官だとは聞いてるし結婚してるとも聞いてるけどその後音沙汰もなんも無いし……正直言ってステアの教師やってること自体俺も驚いてるぐらいだし」
「じゃあ順と恋仲という関係ではないんだよね?」
「それは百パーない」
「じゃあ安心した」
———好き勝手言いやがって。
「それで?何の用だよ義姉さん。ていうかステアで教師やってたんだな、驚いた」
「それは色々な流れでな。それより何故ステアの……それも花組に入ったんだ?自衛官にでもなるつもりか?」
「そうだけど?」
「……お前、自分の父親の事は聞いてるだろう?ならなぜ自衛官を選ぶんだ?」
「……義姉さんに関係ある?あんたに何があったかは知らないけどさ俺は俺の意思で自衛官になると決めたんだよ。それを今更義姉さんにとやかく言われる筋合いはないね」
恭子義姉さんは何処か納得してない様子だったが、俺は昔から言っても聞かない性格だというのを重々承知だったのだろう、それ以上とやかく言う様子は無かった。
というより俺の最終的な意思を確かめたかったのだろう。
「……はぁ分かったよ。それで?峰!お前も行くんだろ!?ならどこの部隊に行くとかあるのか?」
見ているのに気づいていた恭子義姉さんは入り口に居る二人に声を掛ける。
峰と夏美はゆっくりと歩いてきた。
「順と同じ……第一空挺?に出来れば行きたい……かな?」
「そういえばお前は幼少期に自衛隊に助けられたとか言ってたな……その人は第一空挺の人だったのか?」
「……そこまでは知らないっす。でも自衛隊で一番きついのは第一空挺ってのは知ってるし、そこに行きたいのは変わりません」
「そうか……なら一年からでも私が鍛えてやろうか?レンジャーでも空挺でも最低限必要なのは体力と精神力だ。さすがにステアで銃は教えられないが役立しそうなことなら教えられるが」
「ならお願いしたいな」
「俺もオナシャス!」
「ただ通常の授業とは別に行うし、お前らが望むなら自衛隊の教官バリバリの態度でやってやるが?」
「どうせ自衛隊でも同じように扱われるんだ、ここで体験できるならやっとくに限るさ」
「そうだな」
「分かった」
こうして俺たちは恭子義姉さんの指導の下、第一空挺に入るための訓練を個人的に受けることになった。
また魔法戦闘における対処も学ぶために(これが目的だった)ズトューパ部に入部し鍛錬を重ねていった。
因みにだが、ステアに入学する数日前、夏美の唯一の肉親であった祖母が亡くなった。
だが夏美にとっても祖母にとってももう肉親が居ないはずであったが、何故か葬儀はつつがなく終わった。
夏美の祖母が夏美の負担にならないように葬儀の準備を自治会の住人に頼んだのだ。
これにより夏美は葬儀の喪主でこそあったが苦労なく参加し、何とか葬儀を無事に終えたのであった。
そしてステアでの最初の一年間はただただ授業に慣れるのと恭子義姉さんによる特別教練をするのに必死でありほとんど記憶がない。
そして俺の運命が大きく変わった最初の出来事が二年の年末に起きた爆発事故だ。
魔法薬の実験授業では何が起きてもいいように魔法耐性(最低限死なないレベル)がついているローブを着る。
だが本来は杖を使用し爆発から逃れるのが一般的だ。
だがこの時は運が悪すぎた。
「あ、やっべ」
「え?」
背後から発せられる言葉の意味を確かめるべく振り返った俺、だがその言葉を発した人間はもうそこには居なかった。
代わりにそこにあったのは、もう今すぐにでも爆発しますよと言わんばかりに輝いている魔法薬が入ったフラスコだった。
「順!危ない!」
———あー、これはやばい。
一応、爆発を見に受けるのはまずいと判断した俺は身をかがめた。
ドーン!
バシャ!
爆風こそ受けなかったが、爆発によって飛び散った薬品はもろに俺の背中に掛かり、最初こそローブが薬品の効果を薄めてくれてはいたが、それでも大量に背中に掛かった薬品は俺の背中を焼いた。
「ほんとにごめん!」
「いやローブのおかげで何とかなったから……それに魔法薬の授業だったからすぐに逃げなかった俺も悪いよ」
病院の病室にて、爆発を起こした張本人から謝罪を受けたのだが、俺は別に攻めているわけでは無かった。
二年生になり何故かズトューパの部長に任命された俺はこれからどうするかを考えており授業に集中出来てなかったのも原因があった。
だからこそ俺は相手を責めなかった。
だが別の問題もあった。
本来普通の傷だと聖霊魔法ですぐに直せるが、魔法関連で生まれた傷は魔法薬で中和しないと直せない。
なので普通より幾分か時間が掛かってしまう。
俺は花組ズトューパ部の部長であり、司令塔である故、俺が抜けた部活がどう動くのが心配でしょうがなかったのだ。
俺が抜けたことにより花組ズトューパ部は予想通り負け続けた。
まあ予想はしていたし、後輩を育てなかった自分の責任だ。
そして負け続けることによりやる気が無くなった人もいるのだろう、退部者も続出した。
「本当にごめん」
「いや、気にしてないさ」
「それよりお前が居なくなるだけでここまで機能しなくなるとはな。恐れ入るよ」
「このままじゃ部活回らなくなっちゃう」
「気にせんでも何とかなるだろ?」
「そうだと良いんだがな」
「……はぁ、分かった。今のスエンターは夏美だな?」
「そうだけど」
「夏美をスエンターにして、公式試合でも練習試合でもいいから一勝でもすれば付き合ってやるよ」
この言葉を聞いた夏美の目の色が変わった。
「冗談で言ってる?いくら順でも許さないよ?」
「冗談じゃねえよ、ずっとお前の視線を感じてたんだ。誰でも俺に気があると思うのは普通だろ?ステアに入って多少落ち着いた中で考えたんだ。お前が一勝でもすれば付き合ってやるさ」
「本当だよね?本当に付き合ってくれるよね」
長年思っていた男性からやっとの言葉を聞いて興奮気味の夏美だ、無理も無いだろう。
正直言えば、俺も夏美の視線や気持ちを分かってはいた。
だが俺自身、父の事や母親の事でどうも自分の将来について悩んでいたこともあり、自分の恋愛までは手が回ってなかったのだ。
だが両親の件や、自衛官になるという目標が出来て軽く心の荷が下りた今、夏美の気持ちに寄り添う準備が出来たともいえる。
「何か飲み物いる?買ってくるよ」
ウキウキして買い物に出かけると、峰が静かに話しかけてくる。
「なあ夏美をスエンターで勝てると思うか?」
「思わない」
「無理な注文して何の意味があるんだ?また前みたいに戻るぞ?もし勝てなかったらどうするつもりだ?」
「俺たちの知る限り、夏美はいつも俺たちと一緒に居た……そこで俺は一つ確かめたかったんだよ、俺が居ない夏美がどこまでやれるのか。今回が良い機会じゃないか」
「あいつの性格的に勝つまで付き合わないとか言い出さないか?」
「問題ない」
俺の予想踊り、夏美がスエンターになるも負けが続くことになる。
だが夏美以外スエンターになろうとする者がおらず、そのままの状態で年が明けることになった。
病院内でも何とか進級試験が認められ、俺は無事三年に進級が認められると入院しながら新学期を迎えることになった。
そして絶対に夏美がスエンターのままでは勝利することは無いと思っていた俺の元に驚愕の知らせが届くことになる。
それは練習試合の結果を峰から電話で聞いた時だった。
「峰、今日の練習試合の結果は?」
「……えっとー」
「なんだよ、さっさと言え」
「勝っちゃいました」
「……マジでええええええ!?」