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特別編 夏美と順の物語 順の追憶 4

 聞いた話では、アリスという神報者の弟子となった女子生徒が花組のズトューパ部に入部し、エキーパーに就任、練習試合で大暴れし、結果勝利をもぎ取ったのだと。


 確かに夏美がスエンターのままで勝利こそしたが、これはアリスの功績がでかいのでは?とは思ったがこれ以上引き延ばしても良い事は無いし、色んな意味で俺の身も危ないと感じたので交際を了承した。



 霞家姉妹の件については正直俺は何もしなかった……というよりは花組全体で霞姉妹を守るように働きかけたぐらいで俺自身は何もしていないからだ。


 だがこの一件で名家の一つである、北条家が日本から消えたのは驚いたが。


 それ以上に俺を驚かせたのは霞姉妹と闇の魔法使いとの一戦である。


 それまで俺は自衛隊で使う銃と魔法であらゆる困難から国民から守れると自負していた。


 だがいくら分身体であるとはいえ、魔法戦闘で日本最強の霞姉妹とあそこまで戦ってもなおギリギリの現状を見た俺は今のままでは足りないと思いアリスの師匠である龍さんに別の武器を学びたく剣術を習い始めた。


 そして夏の合宿が終わり、全国大会のイベントである優勝チーム対ステアの選抜メンバーによるエキシビションマッチも堂々勝利すると俺のズトューパ部における青春が終わった。


 その後、部活を引退した俺は夏美とデートしたのだが……カフェまでの記憶はあったが、急に眠気が襲い、その後記憶は何故か全裸でホテルのベッドで寝ていた。


 しかも寝ていたベッドには何故か所処血の跡があり、俺は今状況証拠から俺自身に起きた事を想像しドン引きした。


 その後、シャワーを浴びた夏美が嬉しそうに甘えた声で抱き着いてくる様子から俺は寝ている間に童貞を卒業したことを確信し、少しがっかりした。



 そしてそのまま三学年のインターンに突入すると、本来自衛隊に入隊してから受ける自衛官候補生としての教育期間をインターンとして受けられる(条件として自衛隊に入隊することが前提ではあるが)。


 因みに夏美であるが、本来夏美がステアに入った理由が俺と一緒の学校に行きたいだけであり、その後の進路については何一つ考えていなかったと思われる。


 だが何を思ったのか校長が家庭科インターンとして専業主婦になるべく、必要な素養や技術を学ぶためにステアで出される課題にクリアすれば卒業資格が与えられると決められたのだ。


 一人の生徒に対してこのような対応で良いのかという問題もあるが、そもそも論、夏美はステアに入学してから座学に関しては常に上位を維持しており、魔法に関しても良い成績をキープしていたので文句を言う教師は居なかったのだ。


 それ以上に親も親族も亡くして、ただ一人好きなった男を追いかけてきた人生を校長が健気と判断し(この時には妊娠も知っていたとされる)そういう人生も良いのではと提案したのだ。


 そして俺も峰も夏美も卒業に必要な試験を突破し、卒業の日を迎えた。


 卒業式の日、まあ色々ありながらも俺は卒業し自衛隊に入隊した。



 俺と峰は自衛隊に入隊後、すぐに第一空挺団の入隊訓練を受けることが出来た。


 基本降下課程と降下長課程である空挺基本訓練課程をひたすらやっていく中、自分は父が過ごした自衛隊というものの日常の一面をようやく見ることが出来た。


「うひゃー風呂だあ!」


 同じ訓練を受ける者同士が一緒に風呂に入る光景、ステアでも同じ寮生は同じ風呂に入るが自衛隊ではまた違った景色だ。


 そしてそこで交わされる会話もステアとは全く違う。


「なあボーナスも入ったからさ、土日風俗行かねえ?」

「いや……俺は両親に何か買おうかと」

「それを買ったとしても余るだろ?どうせ童貞だろ?童貞のままじゃ男じゃねえって!だから行こうぜ?」

「でも吉原遠いしなあ」

「いいじゃねえか、なあ柏木も行こうぜ?」


 ———その会話は振るなよ。


「俺は遠慮します」

「なーんでだよ!高卒だろ?女の味を知った方が国を守る身が引き締まっていいと思うけどなあ」

「ていうか俺結婚してますし」

「へ?……マジで!?相手は?」

「小学校からの同級生で幼馴染です。ていうか今年生まれた子供もいます」

「…………いやいやいや!ちょっと待てよ!単純計算でも……ちょっと言い方はあれだけど仕込んだのって……在学中!?」


 ———仕込んだって……本当に失礼だな。


「ええ、判明したのは在学中です。でも籍を入れたのは卒業後すぐですけどね。なので休日は妻と子供と一緒に過ごしてます」


 ふと目をやると風俗に誘った同期はドン引きしていた。


 無理もない、自分と同期で入隊した年下の男がすでに経験済みでかつ結婚しており子供もいるのだ……しかも高校在学中に。


「そ、そうか……なら家族サービス……がんばれよ」

「ういっす」


 ステアでは絶対起きないような会話に少し面白味を感じながら俺は第一空挺団に入るべく日々の訓練をひたすらこなしていくのだった。



 「これより修了式を執り行う!」


 空挺団に入るのに必要な訓練を終えた俺はそのまま修了式に挑んだ。


 何人かの幹部自衛官が式辞を述べた後、最後に登壇したのは第一空挺団団長の衣笠だった。


「さて……諸君、空挺基本訓練課程修了おめでとう。これにより君たちは正式に第一空挺団の団員になることが認められたことになる。だがこれは終わりではない、ただのスタートラインに立っただけだと思ってくれ。……さて毎年こうやって訓練を終了した者たちに言っている言葉があるのでそれを言おうと思う。私は空挺団の団長である前に一人の識人だ。旧日本にいた吉田茂という総理大臣の言葉を借りて君たちに伝えよう。君たち自衛隊員が国民から歓迎されチヤホヤされる事態とは、外国から攻撃されて国家存亡の時とか災害派遣の時とか国民が困窮し国家が混乱に直面しているときだ。言葉を変えれば君たちが国民の目に触れずにただひたすら訓練をしている時こそ、国民と第二日本国は幸せなのだと言えよう。ただ一つ言い換えれば普段たゆまぬ努力をしている諸君らこそのみこの国の最後の砦なのだ。団長として君たちの成長を楽しみにしている。以上だ」

「かしらー!なか!」


 俺を含めた新人隊員たちが団長に向かって敬礼をする。


『目立たない方が国民にとっては幸せ』……か。


 そんなことは分かっている。


 だが俺は父がやりきれなかった、その国民が助けを求めているときにこの身を持って国民を助けるということを俺はその時が来れば全身全霊を持って遂行するつもりだ。


 そのためにここに入ったのだから。


 修了式が終了し、俺や峰は夏美や恭子義姉さん、父と一緒に談笑しながら第一空挺団の隊員となったことを祝った。



 そして……俺や夏美、峰にとって大きく運命を変えた……あの日がやって来る。


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