アリスがいつものように朝を迎え、学校での生活をしているように、順もいつも通りの朝を起床ラッパと共に営内のベッドで迎えた。
順は結婚して子供が居るがまだ入隊して二年未満である。
自衛官が営外で住める条件は旧日本と同じように幹部自衛官か曹以上であるか、結婚している者だが、例え結婚していても最低二年は営内で過ごすことが義務づけられている。
一応、ステアでのインターンである自衛官候補生の期間もカウントされるがそれでもあと最低でも一年は営内で過ごさなければならない。
最初こそ順は生まれたばかりの娘と夏美の事を残す心配していたが、夏美はすでに柏木家に面倒を見てもらっている事と、連休や土日は当直が無い以外は基本外泊で帰っているので多少の心配は薄れた。
またそもそも柏木家が習志野駐屯地から目と鼻の先のレベルで近いこともあり、何かあればすぐに駆け付けられるので問題は無かったのだ。
因みに第二日本の自衛隊には魔法専門の戦闘職種が存在しない。
ステアで攻撃用基礎魔法の資格を取り、自衛隊に入隊したものはそのまま主に普通科などの近接戦闘を行う部隊に魔法戦闘支援要因として基本的に一小隊辺り一名から二名が配属されるのだ。
そのため空挺基本訓練課程を卒業した順もそのまま第一空挺団第一大隊第一中隊第二小銃小隊に配属することになった。
ただ一応、書類上は第二小隊の第一分隊に所属している事にはなっている。
そして配属された部隊での生活に馴染めてきた順はこの日、習志野駐屯地の枯葉清掃に励んでいた。
自衛隊は自己完結型組織と呼ばれる。
それは作戦立案から遂行、終了まで自衛隊だけで完結できるからだ。
そのため自分たちが住んでいる駐屯地の清掃ですら自分たちで行うのである。
そしてそれは駐屯地内の職種関係なく平等に行うため第一空挺団所属の順も今日は駐屯地内の清掃を行っているのである。
そんな午前の課業を行っている順含めたその場にいる全員に中隊長から声がかけられる。
「総員、小休止」
休憩時間になると各々灰皿の前で煙草を吸う者、飲み物を飲んで他の隊員と談笑する者などに自然と別れる。
「なあ柏木」
「ん?なんすか?」
持っていた飲み物で一息つく順に同じ小隊でとりわけ仲が良い分隊長である雪見が話しかけた。
「奥さんの様子はどうよ」
「どうと言われましても」
「赤ん坊もいるんだろ?後最低一年は営内だ、心配じゃないのか?」
「ああ、でも今は柏木家にお世話になっているので……あと土日は当直以外外泊で会ってますからあと一年の辛抱ですね。今は外に住む物件探しと貯金に集中してます」
「官舎に住むっていう選択肢は?」
「それも考えたんすけど偶然なんですかね?官舎と柏木家がちょうど駐屯地挟んで反対方向なんですよ。それに俺の事や妻の事を考えたらなるべく柏木家と近い方が良いので」
「そうかなら仕方がない。これから頑張れよ」
「分かってます」
「休憩終了!」
休憩終了と共に順は先程までの作業場に行き、再開しだした……その時だった。
「総員聞け!」
先ほどまで課業の指揮を執っていた中隊長が隊舎からやってきた自衛官に何かを聞いたようで血相を変えて走って来る。
「総員作業中止しろ!追って連絡あるまで営内にて出撃準備を整え待機せよ!」
「え?」
「南三佐!何事です?」
いきなりの指示に雪見が南に尋ねる。
「分からん、とりあえず上からはいつ呼集されても良いように戦闘準備を整え待機としか命令が来てないんだよ。だから今すぐ営内に戻れ!」
「……了解しました」
十数分後、掃除用具を手早く仕舞った順らは急ぎ営内に戻るとすぐさま出撃準備に移った。
演習に行くときに使う背嚢……つまり迷彩柄で空挺団使用のリュックには演習に行く際決められている中身……下着や変えの戦闘服等が入っている。
第一空挺団やレンジャーなどは何時非常呼集が掛かってもすぐに行けるように専用の背嚢に中身を入れて準備をしている場合が多い。
順も同じように営内に戻ると非常呼集があった時用の背嚢を取り出した。
「おいおいマジかよ」
人と通りの準備が終わった順の隣で雪見がテレビを見て絶望していた。
「何かありました?」
「たった今……所属不明機が西京を爆撃したって」
「え?……爆撃!?」
順を含めたその場で準備をしていた自衛官がテレビの前に集まり流れる映像に釘付けになった。
そしてテレビで喋っているレポーターが今西京で起きている現実を少々取り乱しながらも伝えている。
「えー、さきほど、西京の赤坂にて爆撃機?と思われる複数の航空機から爆弾と思われる物が次々と投下されているとの情報が入っています!これを見ている赤坂付近の住人は急いで避難か頑丈な屋内に退避をしてください!」
「おいおい……赤坂って……国会前じゃん」
「まさかのテロだったり?」
「もしテロだったとしてもテロリストが爆撃機何て持ってるわけないだろ」
「現在、赤坂には浅岡リポーターが居ます。浅岡さん?」
「おいおい!爆撃地にリポーター送んなよ!殺す気か?」
「多分ですけど爆撃が起きる前から偶々居たんじゃないですか?爆心地にリポーター送るなんていくらテレビ局でもせんでしょ」
テレビの画面が切り替わり、女性のリポーターが映し出される。
「はい、こちら国会からほど近い場所に居るのですが先ほどから大量の爆撃音がそこら中から聞こえてきています」
「外の状態はどうでしょうか?」
「はい爆弾の音にしては地面が多少ひび割れていたりへこんでいたりする程度で後は直撃した建物の破片が道路に落ちている状況です!」
「分かりました!浅岡さんもすぐに非難を……」
ドーン!
「きゃああああああ!」
恐らく近くに落ちたのだろう、ものすごい爆音と女性の悲鳴がテレビから流れるとカメラの映像が途絶える。
「浅岡さん!浅岡さん!大丈夫ですか!?」
スタジオのキャスターが必死に呼びかけるが応答はない。
「もしかして……?」
「いや爆弾の規模と外の状況からそれは無いと思う……爆風で少し飛ばされたかな……それでも音で鼓膜いってそうだけど」
全員がテレビで伝えられる現実に固まっている時だった。
「第一中隊総員!集合せよ!」
部屋の外から大声がこだました。
「意外と早かったな」
全員が急いで部屋を出た後、誰もいない部屋で付いているテレビのキャスターがスタッフから渡された紙を見て驚愕し内容を国民に伝えた。
「ええ……浅岡リポーターの無事がたったいま確認できました……え?え!……ええ、今は言ったニュースです!……西宮内閣総理大臣が非常事態を宣言したの事です!繰り返します!西宮総理が非常事態を宣言しました」