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特別編 夏美と順の物語 順の生き様 2

 訳五分後、第二中隊の面々が普段第一空挺団が訓練の準備をする待機所に整列すると、全員の前に中隊長の南が立つ。


 総員が敬礼するとすぐさま南も敬礼する。


「……えー……待機中にテレビ等で事態を知った者もいるだろうが、詳細な情報を共有するためこの場で説明する。つい15分ほど前、西京の赤坂が詳細不明の爆撃機によって爆撃を受けたという情報が入った。なお今入っている確定情報として、航空機は闇の勢力の物だと判明した」


 その場にいた隊員たちが少しざわめき立った。


「また開会中の国会内にてつい先日復活したと言われた闇の女王であるファナカスが現れたという情報も入っている……これに関してはすでに委員会室から姿を消したという情報なので今回は関係ない。さて本題はここからだ。ファナカスが撤退した直後、西宮総理より非常事態が宣言された……これにより現在、西宮総理が持っている全権限が天皇陛下に移譲されることになった」


 さきほどよりも大きいざわめきが起きたがさすがは第一空挺団だすぐに収まった。


 それを確認した南が話をつづけた。


「そしてつい先ほど、天皇陛下より第一空挺団に出撃命令……つまり勅令を承った。詳しい任務詳細はこの後各小隊長より伝達させる。現在……1045、二時間後の1245までに出撃できるように準備せよ!なお現在空自による一時的な空域制圧と偵察部隊による降下地点選定が行われているが、今回はチヌークから箒での降下になる!以上!分かれ!」

「「「おっす!」」」


 南の指示伝達が終わった瞬間、その場にいた第一空挺団第二中隊の隊員たちは即座に準備のための行動を開始した。



「おい!柏木!」


 営内に置いていた荷物の中身を小隊長に指示された荷物として細かく入れ直し、武器保管庫から小銃を受領し弾薬を受け取ると、もう一度待機場所にやってきた順を小隊長の増川が声を掛けた。


「はい」

「中隊長がお呼び、各小隊の魔法戦闘要員は中隊長の元へ集合」

「了解です」


 順は急ぎ南の元へ向かった。


「すみません遅れました」

「お!柏木君来たね!本来演習でもこうやって君たち魔法戦闘要員だけを呼ぶなんて今までも無かったから驚いているとは思うけど……今回は事情が事情でね」

「お話というのは?」

「うん……今回の任務は我が第一大隊と第二大隊で爆撃地赤坂に突入し、制圧……その後、他の部隊の奴らが救助活動が出来るように避難経路の安全を確保するというのが目的なんだけど、今回の任務は敵対目標が存在するかもしれない……闇の魔法使いだ」

「はい」

「今まで自衛隊が戦闘を行ってきたのはあくまで闇の獣人だ。つまり第一空挺団が……いや自衛隊として闇の魔法使いとの戦闘は初めてだ」


 因みに闇の女王が復活した際、部隊が見てはいたが直ぐに撤退し、実際に戦闘を行ったのは龍であり、その様子は見ていない。


「つまりだ現状、我々に闇の魔法使いとの戦闘データが存在しない。因みに衣笠団長からは闇の魔法使いとの戦闘事態になった場合、すぐに撤退しろとの命令だ。そしてここからが重要なんだけど……現在の第一空挺団……いや自衛隊全体含めてもだけど、魔法戦闘に長けてるのは基礎魔法を習得したステア出身の魔法戦闘要員だけであり、それに準じた動き方を知ってるのも君たちだけだろう。そこで衣笠団長の二個目の指示だ。作戦行動地点に到着後の行動はいつもの小隊長の命令に従ってくれ。ただし、もし闇の魔法使いと遭遇し、少しでも戦闘事態になると思われる場合、君たちの現在の階級は無視して、部隊を出来る限り安全に撤退させるため必要な指示を小隊長に指示することを許可する……いいね?」

「了解しました」

「それともう一つ……居ないとは思うけど……今この中で過去に闇の魔法使いと戦闘をした人は居ないよね?戦闘に役立つ情報が何一つないのが現状なんだよね、だからどんな情報でも良いから欲しんだけど……ないよね?」


 南に集まった自衛官がお互いを見回したが、誰一人手を上げなかったが、順だけが手を上げた。


 それを見た南と他の自衛官も驚きに表情になる。


「えーと……柏木君、どういった経緯で?」


 順は一年前、アリスの魔法戦闘大会のオープニングにて闇の魔法使いであるシオティスとその取り巻きとの戦闘について話した。


「なるほど……確かに去年ステアで襲撃事件が起きたとは聞いてたけど……そんなことがあったとは」

「ですが、あまり参考になる情報は出せないかと」

「何故だい?」

「俺と後輩が戦った闇の魔法使い二人はある意味使い捨て要員だったようで俺は同級生と三人で、後輩は先生と二人で軽々と倒せましたが、幹部クラスの戦闘力はけた違いだったと記憶してます」

「でも結果的には撃退は出来たんだろ?」

「ですが俺は直接戦闘に加わってないです。実際に戦闘したのは魔法戦闘で最強と言われている霞家姉妹の長女ですよ?それに倒したと言ってもどうやら闇の魔素で作られた分身体だったようで本気を半分も出していなかったみたいですし、彼女がギフトを覚醒したおかげでようやく勝てたレベルで」

「あー……なるほど」


 魔法戦闘最強の霞家という名前とギフトを覚醒したという言葉である意味奇跡が起きたということが分かると何も言い返すことが出来なくなる。


「現れる魔法使いのレベルにもよりますが、撤退までの時間稼ぎ……つまり倒すことを目的とせずに撤退するまでの時間稼ぎをメインとするならば、俺の知っている限り、通常の魔法戦闘と同じようにやればある程度の時間稼ぎと被害を抑えるのは可能かと……あと重要なことが一つだけ、闇の魔法を正面から受けないでください。闇の魔法と普通の基礎魔法では威力も重さも違うので……角度をつけて弾くに徹してください」

「そうか……まあ現状、使える情報がそれなら使うに越したないね。君たちも今の情報を頭に入れて出撃に備えてくれ」

「「「了解」」」


 その後、自分の小隊に戻った順は準備を終わらせ待機する。


 また出撃予定時刻がちょうど昼時であったが、いつ出撃の命令が出ても良いように、各自待機場所にて配られた食事を食べた。



 1245。


「搭乗用意!」


 時間通りに習志野駐屯地に現れたチヌークに第一大隊、第二大隊が乗り込むと西京、赤坂に向けて飛行を開始した。


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