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特別編 夏美と順の物語 順の生き様 3

 一般的に第二日本の自衛隊の隊員が災害派遣や演習等で任務地に箒で飛ぶことや任務中の移動に箒を使うことは普通だ。ヘリや車等でいけない場所に迅速に飛ぶことが出来るので推奨されている(あまり魔素を消費しないことが前提ではあるが)。


 だが一般的な普通科部隊と第一空挺団の部隊が箒を使って飛べる規則には明確な違いが存在する。


 一般的な普通科部隊が飛ぶには空域の安全が確保されていることが前提となり、仮に演習で向かう場所が敵に占領されており空域確保がされていない場合、箒による飛行が禁止になる。


 逆に第一空挺団はそのような状況でも一時的に空域を確保するかそれが無理でも命令が出れば出撃するので禁止されていないのだ。


 またこの世界は魔法が存在し、箒による飛行が出来るため第一空挺団の空挺基本訓練課程には落下傘による降下訓練と箒による降下訓練が存在する。



「降下準備!」


 数十分後、降下地点に到着したチヌークは後部のドアが開き、降下準備に入った。


 チヌークに乗った隊員は立ち上がり、互いの装備を確認し、最終降下準備の確認作業に入った。


 そして開いている後部ドアに向かっていき、降下開始の合図を待つ。


「降下降下降下!」


 合図のこれが轟くと、空挺隊員たちは次々と箒に跨りながらチヌークから飛び降り始めた。


 順も前の隊員に続き、チヌークから飛び降りると箒に跨り指示された降下ポイントに向かい始めた。


 数分後、赤坂の爆撃を受けたちょうど中心部の降下ポイントに到着した順は先に到着した隊員と共にすぐさま銃を取り出し、周囲を警戒し始める。


 そして中隊長の南は小隊長が降下ポイントに全員が終結したことを確認し報告すると、指示を出す。


「よし全員が集まったな?各小隊長は隊員を掌握し、指示したルートを順次制圧、外側からこちらに向かっている第二大隊と合流を目指せ!もし行動中に要救助を確認されれば出来る限り救助し第二大隊と合流後、直ちに他の部隊に引き渡せ。以上、分かれ!」

「「「おっす!」」」


 南の指示が終わった瞬間、各小隊長が自分の部下の分隊長に指示を出し、あらかじめ決められたルートに向かって進軍を始めた。


 順も増川の指示に従い、行軍を開始した。



 約三十分後、闇の魔法使いという今ままでとは全く違う敵への警戒ということで多少ゆっくりではあるが、順調に進軍してきた順ら自衛官。


 ……その時だった。


 ヒュン!


 バーン!……ガシャーン!


「うおっ!」


 爆撃により建物の看板の固定金具が破壊されていたのだろう、順たちに向かって落ちたのだ。


 偶然、ふと上を見た順がそれに気づき、銃に付けた支給品の杖ではなく自分の杖のシールドで看板を弾き飛ばすと、看板は近くにあったコンビニの入り口の窓ガラスを破壊した。


「あ……」

「あっぶなー……すまん、ありがとう柏木」

「いえ……でもガラス割れちゃいました」

「気にするな柏木、今は作戦行動中だ。周りの構造物の被害より自分の身の安全を優先していい」

「はい」

「それにお前たちもだ。ここは演習で使う整備された演習場じゃない。災派の時と同じように常に自分たちの周りが命を奪うものだと思って行動しろ!……いつも演習中に言ってるんだがな」

「しょうがないっすよ増川さん。普通の災派ならあれですけど、今回は闇の魔法使いとの戦闘がおこる可能性もあるんすからいつも以上に気が張ってるんでしょ」

「だとしてもお前らは空挺隊員だろ?なら訓練通りに動けるように意識してくれ」

「分かってます」

「それじゃ行くぞ」



 行軍再開から約十数分後、大きなT字路にたどり着いた時だった。


 時計を確認した増川が立ち止まった。


「全員!小休止!」


 精強の第一空挺団とも言えども歩きっぱなしは出来ない。


 いくらいつもと違う作戦行動でハイになり、疲れを感じなくなっているとしても確実に体には負担がたまっているのだ、


 ここで疲れを感じていないからといって行軍を続けてもいざというときに体が動かなければ意味が無い。


 そして小休止を言い渡された隊員たちはすぐさまその場で休むことはせずに建物の傍などある程度固まりつつ身を隠せる場所に集まり小休止を取り始めた。


 順も背嚢を同じ小隊の隊員と同じ場所に置くとその場で水を飲んだり、持ってきていた食べ物を食べたり、行軍で最も酷使する足のケアを行ったりして体を休めた。


 そして増川が小隊長を呼びだし、ルートの確認、各隊員の体調を確認している時だった。


「……ん?……あ!増川さん!」

「どうした!」


 一人の隊員が声を張り上げ、指を指す。


 順も視線をそこへ送る。


 そこにはビルの入り口と思われる場所に園児と思われる子供が座り込んでいた。


 そしてまたよく見ると建物の影になって見えないが、大人の手のようなものも確認できた。


 要救助者だと瞬時に考えた増川が直ぐに指示を出す。


「要救助者発見!小休止終わり!風谷班長!班員を連れて可能であれば救助を!人手が必要なら伝えろ!他の小隊は風谷たちが救助してる間に周囲を警戒!」

「「「了解」」」


 谷風分隊長率いる分隊員が銃と荷物を置き、すぐさま園児の元へ走り出す。


 その間他の隊員は銃を構えながらT字路に沿って周囲の警戒を始めた。


 順は増川と同じT字路の交わる場所で周囲警戒を始める。


 そして救助に行った風谷の分隊員が救助可能の手信号を送って来る。


「よしこちらに運んでくるまでにここを警戒するぞ、各分隊長!気をゆるめずに警戒し……」


 その時だった……。


 ドーン!


 T字路の道路が交わる中心部に何かが落ち、土埃を上げた。


「……な……なんだ?」


 その場にいた全員の視線と構えていた銃口が一斉に落ちた場所に向けられる。


 そして、訳数秒の沈黙の後。


 ビュン!


 砂煙の中から飛び出たのは……漆黒の魔法……つまり闇の魔法だった。


 そしてその魔法が飛んでいった先は……今まさに救助活動をしていた風谷の分隊の所だった。


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