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特別編 夏美と順の物語 順の生き様 4

「え?……おわっ!」


 ———闇の魔法?


 つい先ほど、手信号を送っていた隊員の目前に闇の魔法が迫る。


 咄嗟に銃に付けられた杖を向けるが意味が無かった。


 ドン!パリン!


 順から見れば撃たれた魔法が何の魔法だかは判別しようが無かったが闇の魔法であることに変わりはなかった。それでもよほど重い一撃だったのだろう……一秒、シールドが受け止めたが、シールドは貫かれ、粉々に破壊された。


「あ……ぎゃ……ぎゃああああああ!」


 シールド破壊による反動が隊員を襲うもすぐに闇の魔法が隊員を直撃、瞬く間に闇の炎が隊員を包み込んだ。


「浅野オオオオオオ!」


 同じ分隊員が叫びながら黒い炎に巻かれる隊員を助けようと近づく。


「やめろ浅村!お前も闇の魔法の恐ろしさは知ってるだろうが!少しでも触れたらお前も浸食されるぞ!」

「そ、そんな浅野!浅野!」

「あー!あははは!自衛隊ってよわー!」


 その時、この状況を楽しんでいるのだろう、闇の魔法を放って隊員を殺し、悦に浸っている声の主が土煙の中から姿を現した。


 ———あれが闇の魔法使いか……魔法使いって言うより……侍じゃね?


 闇の魔法使いはシオティスと同じように袴に刀を差して杖を向けていた。


 ———シオンもそうだったけど闇の魔法使いって袴着るのがルールだったりする?


 闇の魔法使いは辺りを見回すと、自信ありげに鼻をふんとならし声高に叫んだ。


「おやー?仲間がやられたのに見てるだけかい?……なら次は君たちだあ!」


 闇の魔法使いは順の反対側の道路に居た隊員たちに杖を向けた。


「小隊長!撃って良いですか!?」

「あいつは仲間を殺したんです!撃たせてください」

「……中隊本部に連絡!闇の魔法使いと遭遇したと送れ!各員!構え!撃ち方始め!」

「え?」


 通信手が通信を現状を報告するために無線機の受話器を取るが、順はここで増川自身も緊張と闇の魔法使い遭遇という異常事態に中隊長から言われた指示を忘れていることに気づいた。


だが増川の命令通りに各分隊の射撃が始まった。


 闇の魔法使いを中心に扇状に配置していた各隊員は闇の魔法使いに向けて次々と射撃を始める。


 ———意味が無いだろ。


 順の予想通り、闇の魔法使いは撃たれることに喜びの感情を示すと、杖を構え、自身に当たるであろうすべての銃弾をシールドで防いだ。


「なっ!」

「……ひるむな!うち続けろ!……あ!」


 その時だった。


 何らかの魔法だろうか、闇の魔法使いが杖を振ると、黒い半透明の壁のような物が出現する。


 ———あの時と同じ……でも少し色が違うな。


 隊員たちが構わず銃弾を撃つと、すべての銃弾が壁に弾かれた。


「な……うっそだろ!」

「卑怯だろ!」

「卑怯?あはははははは!お前たちも魔法を使えばいいさ!ほら戦いは常に生き残った者が勝者だ!ルールなんてないんだよ!あらゆる手を尽くして生き残ってこそ勝者だ」


 闇の魔法使いが今度は上空に手を向けた。


 ———なんだ?


 すると、杖の先でいくつもの闇の魔法が生成される。


 ———まさか……やばい!


「さあこれを避けられるかな?」

「全員シールドを張って構えろ!」

「やめろ!全員!何かに隠れろ!無理な者は可能な限り避けろ!」

「はいドーン!」


 闇の魔法使いが杖を振る。


 多くの魔法が隊員たちに向かって発射された。


「うおっ!……ぶねえ!」

「おわっ!」


 多くの隊員は順の警告通りに物陰に隠れたり、ギリギリ避けることが出来た。


「おああああああ!」

「あ……ぐッ!」


 だが数名は避けたが着弾の爆風で吹き飛ばされたり、魔法が着弾した際の吹き飛んだ瓦礫等に当たってしまった。


 特に瓦礫が当たった隊員はその後、動かなくなっている。


 ———まずい……このままじゃ全滅だ。


「そ、そうか……柏木は魔法戦闘要員だった。柏木!なんでもいい指示をくれ!」


 順の決死の指示と続出する部下の悲鳴で冷静さを取り戻したのだろうか、闇の魔法使いと遭遇した際に出ていた指示の内容を思い出した増川が順に指示を求めた。


 ———指示ねえ……俺入隊してまだ一年も経ってないが!?


 だが現状、闇の魔法使いに対してある程度の戦闘が出来撤退戦に移行できる戦力を持ち合わせているのは順だけである。


 それでも今の順が闇の魔法使いと戦闘したところで、稼げるのは数分……長くて十分が限度だろう。


 もし、撤退の為の時間稼ぎに成功しても他の小隊に合流するまで追撃されれば小隊全滅という可能性すらありえる。


 つまり今順が部隊の撤退に必要な手段があるとすれば殺せなくても追撃が不可能なレベルまでダメージを与えるしかない。


 だが部隊が所有している迫撃砲も、このような至近距離では味方を爆風で巻き込む危険性もあり、もし離れようとすれば近づいてくる恐れもあり危険だ。


 であれば順が唯一この場で取れる手段はたった一つだった。


「分かりました。増川さん、今すぐ撤退の準備を。俺は時間稼ぎをします」

「お?おお、因みにどうやって?」

「すみません、説明してる時間はありません。……小川こっち来い」


 順と同じ同期で同い年(ステア出身ではない)の小川を呼び寄せる。


「何?」

「今から道路の反対側に行って小隊長たちに撤退準備とけが人の搬送準備を伝えてこい」

「はあ!?それじゃあ俺が撃たれて来いと言ってるようなもんじゃん!」

「安心しろ。行くタイミングは俺があいつに走りこむタイミングと同じだよ……後もう一つ……」


 順は小川に何か伝えると意を決し他表情で頷いた。


「増川さん俺があいつに突っ込むタイミングで全員に撤退準備の後にすぐ撤退を俺は出来る限りの時間稼ぎをします。……それと」


 順は増川の腰に付いているあるものを指さした……日本刀だ。


 闇の獣人対策により、幹部自衛官は全員聖霊刀が支給されている……本来は。


「これをお借りします」

「……分かった。死ぬなよ?」

「善処します」


 ———限界まで集中すれば致命傷で済むかな。


「よっしゃ行くぞ!作戦開始いいいい!」


 以前の敵とは違い、確実に強いであろう闇の魔法使いへの突貫、順自身も不安で震えていた……そんな自分を奮い立たせるために声を張り上げ、立ち上がる。


「お?今度は……お前かあ……あ?」


 刀を腰に差した順は89を構えると闇の魔法使いに向けてゆっくりと歩き出した。


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