パン!
順が一発撃つ。
先ほどまで展開された壁は消失しているようで闇の魔法使いのすぐ隣に着弾した。
「……へえ!タイマン!良いよお!」
闇の魔法使いが杖を構え、魔法を生成する。
パン!
だが生成と同時に順が撃ったために、生成された魔法は消えシールドが自然発生、銃弾を弾いた。
「お?」
「……」
———そんなバカすか撃つわけねえだろ、28発しかねえんだから。
自衛隊の弾倉には本来、30発が装填できる。
だが魔法で拡張が可能だがそもそも小銃は連射する想定で作られたものではない。
つまり弾倉替えの時間である程度銃弾が通り熱くなるバレルを冷やす時間を作るために弾倉は30発装填のままと決められている。
それ以上に、弾倉に30発限界まで入れると装弾不良を起こす恐れがあるため28~27などに抑えてあるのが普通だ。
そして、順がまず一発撃ったのは先程闇の魔法使いが作った壁がまだあるか確認するため、そして速射しないのはマガジンチェンジをする時間が確実に取れないため、この一マガジンのみでなるべく闇の魔法使いに近づくためである。
これも今までステアで学んだことと、コウが闇の魔法使いと戦ったのを見て順が考えた一番確実に敵の注意を順に引きつける方法だ。
「……ッチ!」
闇の魔法使いがもう一回魔法を生成する。
パン!
だがまたもや順の打った弾丸によって阻害された。
「ああもう!うぜえ!」
———戦い方が愚直すぎんだよ馬鹿め。
「……もう一回!」
闇の魔法使いが壁を作ろうと杖を構えた。
———させるかよ……よし、距離も十分か。
順が早歩きしながら少し撃つタイミングを早める。
パンパンパンパン!
「っクッソ!」
壁を作ろうにも銃弾に杖が反応してしまい、シールドが展開される。
カチャ。
その時、順の89から弾丸が出なくなった……弾切れだ。
「よし!いまのうち……に」
弾切れの間に壁を張ろうとした闇の魔法使いだったが、すべてが遅かった。
「駄目だぜ?坊ちゃん、戦ってる最中は常に敵と自分との距離を把握しなくちゃ」
ついに闇の魔法使いまで一メートルの距離まで詰め寄った順はそのまま腰の刀を抜き、振りかぶった直後、思いっきり振り下ろした。
ガキーン!
寸でのところで闇の魔法使いも刀を抜き受ける。
「へ、へへへ……あっぶねー。あんたもやるねえ」
「そりゃあどうも……だがこれでお前は杖を使えない。そして聖霊刀ならお前を殺すことも可能だ」
「……ふふふ、あはははははは。そうだねえ聖霊刀なら可能だねえ!でもさあ!?お前が握っているのはどう見ても聖霊刀じゃないように見えるけどなあ!」
「あ?……何言って……ん?」
増川が持っていた……つまり幹部自衛官が支給された……それはつまり聖霊刀以外の何物でもないと確信し、抜きながら確認もせずに振り下ろした順だったが、闇の魔法使いの言葉で一瞬だけ刀身を確認した順、そして驚くと主に絶望した。
確かに、持っていた……振るった刀は白く輝いて居ない……つまり聖霊刀ではなくただの刀だった。
———マジかよ……増川さん……間違えた!?
一瞬だけ増川の顔を睨む。
増川も刀身の異変に気付いたようで、ハッとした表情になり自分の犯した過ちに気づいたようだ。
「それで?戦えるのー?それじゃ俺は殺せないよー?」
「……構わん」
もう一度振りかぶると、今度は思いっきり振り下ろす。
ガチ―ン!
先ほどとは違い思い一撃を闇の魔法使いは受けてその衝撃に少し顔が歪んだ。
「ぐッ!」
「聖霊刀でなかろうが、結局は再生が間に合わないレベルでお前を切り刻めれば済む話だ。なら後はお互いの剣術が勝敗を決するっていう簡単な話じゃないか。それにお前」
「あ?」
「刀持ってるだけで、あまり剣術は鍛錬してないだろ?俺の剣術の受け方で分かるよ、刀は飾りか?何のために腰にぶら下げてるんだ?」
「……るさい」
「……あ?なんだって?」
「うるさいんだよ!お前ええええ!」
受け止めていた刀身を無理やり押し返すと、本当に差していただけだったのだろう、冷静さを失って剣術のけの字もないような振り回しで順に切りかかる。
だがここまでは完全に順の作戦通りだった。
杖を使わせずに刀でこの程度の相手と対峙するのであれば十分部隊の撤退の時間稼ぎは可能だ。
後は撤退が始まり次第、ある程度切り付けて追ってこれなくすればよい。
「ああああああ!なんっで!当たらないんだよ!」
「……」
———そりゃあそうだろ……ん?
順は視線の中に常に闇の魔法使いを入れながら増川の手信号を読み取った。
『撤退準備完了』と。
———よし、後はある程度切り付けて俺が逃げる時間稼ぎをすりゃあ……ん?
「くそったれがああああああ!」
闇の魔法使いは刀が当たらないと見るや、左手に刀を預け右手に杖を持った。
———はぁ……こいつは……馬鹿なのか?
「……お前に一つ言っておくよ」
「ああああああ!」
闇の魔法使いが至近距離で魔法を放つが冷静さを失った時点で照準など合うわけもなく少しだけ順が避けると後方に魔法が飛んでいった。
そして残った左手重そうに刀を振り上げる……が、遅かった。
「二兎を追う者は一兎をも得ず……ちょっと違うか、慣れない戦い方をすればその分戦い方が分からずに戦力的には大分落ちるぞ?実戦ならなおさらだ……まあ俺の後輩にはぶっつけ本番で成し遂げちまう変態が居るがな」
ヒュン!スパーン!
魔法を避けた順は一度刀を下に構えると闇の魔法使いの刀を握っていた左腕目掛け鋭い剣筋で斬り飛ばした。
「……え?え?あれ?ああああああ!」
斬られるのが初めてだったのか……それとも順の刀捌きが意外に良く、斬られた事実に気づくまで少し時間が掛かったのか、少し時間を置いて悲鳴を上げた。
「……」
———よしこれである程度時間は…・・・。
「おああああああ!」
「は!?マジかよ」
痛みはあるはずだ。
だがそんなことを気にもしない素振りで杖を順に向けて魔法を放つ。
———心臓……いや、頭に一発ぶっさせば静かになるか?
「アアアアアア!……あ!」
杖を掴んでいた右手を順が左手で抑え、少し外側に向ける。
そしてそのまま刀を突き刺すように構えた。
「少し眠ってろ」
「……」
何も言わなかった……だが順には少し闇の魔法使いが笑ったように見えた。
「……フン!」
ドス!
順が突き刺した刀は闇の魔法使いの喉元を掠めて外れた。
誰もが意外と思ったことだろう。
先ほどまで鮮やかな刀捌きを見せていたのだから。
だが順にとっては自分の刀が外れた事よりももっと衝撃的なことを目のあたりにして固まっていた。
何故なら闇の魔法使いの握っていた杖から黒い魔法の剣のような物が現れると……そのまま順の腹部を貫通していたのだから。