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サブウェポン 1

 革命的ともいえる守りの型、攻めの型を無事会得したアリスの稽古内容は一変した。


 色んな体術を会得している久子との稽古を守りの型でインプットすることにより解除状態……つまり普段のアリスでも容易に久子の打撃を受け流すことが出来るようになった。


 また普段からの久子の襲撃もこれによりある意味変わった。


 体が勝手に反応するため、普段の攻撃も軽々と受け流すことが可能になったのだ。


 だが、ここに来て問題も発生した。


 11月に来てからおよそ二か月が経ったが、あまり筋肉がつくことがなかったのだ。


 格闘技に置いて威力を上げるもっともな方法は筋力を上げることだ。


 もちろんアリスは大塚道場に来てから欠かすことなく筋トレに励んでいる。


 だが体質……ともいうべきだろうか、元々人にはどれだけ筋トレしてもあまり筋肉が付きにくい人がいるのは事実である。


 そしてアリスもその一人なのだろう、あまり筋肉がつくことは無かった。


 薬を使う手もあるが久子がそれを許すことは無い。


 そのため稽古内容を変えたのだ。


 元々魔素放出はどれだけ頑張っても一センチ程しか飛ぶことは無い。


 だがアリスは確定では無いが、数メートルは飛ぶ……それをうまく制御できるようになれば筋力が無くとも十分威力は出るだろうと考えたのだ。


 つまりアリスは体術を集中的に稽古する形から魔素を上手くコントロールする稽古にシフトチェンジしたのである。


 そして二月に突入したある日、アリスにとってはある意味意外な人物がアリスを訪問した。



「……ほっ……ふい……おりゃ」


 ビュン!ビュン!ビュン!


 三十センチほどに斬られた木を投げては魔素放出により切っていくアリス。


 この木は前にアリスが環境破壊をした木だ。


 元々切った後の木は一定の場所に保管されていたが、魔素のコントロールの練習台にするならばこれ以上新しく木を切るよりはいいだろうと久子が考えたのだ。


「……ふー…………こんなもんか?」


 ある程度切った所で自分の魔素量を何となく感じ取り、今日の分を終えた時、アリスに声を掛ける人物が現れる。


「アリスちゃん」

「ん?……え!?三穂さん!?」


 ここを紹介したのは龍である以上、ここを訪問する人間がそれほど多くないだろうと思ってアリスにとって三穂の訪問は結構な驚きだった。


「三穂さーん!」


 道着のまま三穂の元に抱き着くアリス。


「おー!よしよし!稽古頑張ってるねえ」


 優しく頭を撫でる三穂、久しぶりの三穂の声に頬が緩んでいく。


「えへへへ」

「三穂か久しぶりだな」

「あ、久子さん」

「え?」


 家から現れた久子を見知っているように挨拶する三穂に驚くアリス。


「三穂さん……師匠と知り合い!?」

「師匠?……ああ、久子さんの事?うん、あたしの師匠でもあるからね。私も久子さんから魔素格闘術や体術を学んだから」

「……ええええええ!?」



「なるほど……三穂さんも師匠に魔素格闘術を習っていたんだ」

「そうだよ……結構きつかったけどね……体力……とういうより精神的に」

「……同じです」

「それで?今日は何しに来たんだ?」

「いやーアリスちゃんが久子さんに弟子入りしたって聞いたからさ!進捗を聞きたくてさ」

「ほう?なら受けてみるが?」

「へえ……もうそこまで?」

「ああ、少なくとも体術に関してはお前を超えたと思っているよ。それほどの逸材だ」

「……」


 二人がゆっくりと立ち上がり向き合うとバチバチと火花を散らしている。


(やるのはあたしなんだが?)



「……んにゃ!おわあああ!」


 稽古場に移動したアリス、久子、三穂の三人はアリスと三穂が向き合う形となりそのまま立ち合いの形をとった。


 アリスは道着を着ていたが、三穂は仕事の都合上普段着で挑むことになったのだが……。


 結果は案の定……の結果だった。


 最初からゴム製のナイフを使ってこそいたが、それでも久子の稽古により現状ほとんどの体術をインプットしたアリスに一太刀も入れることが出来ずに何回転もし道場の床にひれ伏した。


「……ま、まじかー……ここまで通用……いや、攻撃が通らないなんて……強くなりすぎじゃない!?」


(そうっすよねー……あたし自身もびっくりっすよー)


「アリス攻めの型も使ってやれ」

「攻めの……型?なにそれ」

「受けて見れば分かる。やってみろアリス」

「ういっす」


 約一分後。


「ちょっ……まっ!ぎゃっ!」


 覚醒し驚異的な速度で無力化された三穂は短い悲鳴を残して床にたたきつけられた。



「いっつー……」

「大丈夫……ですか?」


 後頭部を抑えながら縁側に座る三穂。


「大丈夫だよ!まあちょっとびっくりしたけど」

「凄いだろ?打つ手なく制圧されたって感じだ。初めて観客として見たが……あれは人間技じゃない……しかも当の本人は記憶がすっぽり抜けているんだからな」

「マジで!?記憶ないの!?」

「ええ……まあ」

「ふーん」


 久子と三穂が黙ってしまった。


(しょーがねえじゃん!ねえもんはねえんだもん!文句があるんなら旧日本のあたしの祖先に言ってくれや)


「ん?そういえば木を切った後に後片付けしてないだろ」

「あ、そうだ……やってきます」


 アリスが散らばった木を木材置き場に片付けに行く。


「なあ三穂、あいつの技……いや型と呼ぶべきか……どう思う?」

「そうですね……この型、守りに特化しすぎだよね。攻めの型は事前準備があるから普段使いは想定されていない……攻めの型はあくまで緊急手段……あくまで守りに着眼を置いた型ですね。アリスのご先祖はどういう考えでこれを作ったのか」

「問題はそこじゃないだろ?」


 三穂は少し黙って考える。


「魔素格闘術と型はかなり相性が良いけど……あたしと同じで魔法と相性が悪すぎる点ですか」

「そうだ、シールドを使う分だったら問題ないが……魔素格闘術は接近戦特化だ。相手を制圧するなら近づく必要がある。……どうする?」

「……そうですね、考えはありますよ?やってみますか!」


 三穂は笑顔になり立ち上がる。


「アリスちゃん!片付け終わった?」

「え?ああ、もう終わりますけど」

「じゃあちょっと来て」

「へ?」


 アリスは三穂と久子と共に室内のある場所へ向かって行った。


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