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サブウェポン 2

「……まじか……まじかああああああ!」


 大塚家のある場所から階段で地下に向かったアリスは驚愕した。


 そこにあったのは……広大な射撃場だった。


「地下にこんなものが……」

「ここには自衛隊や警察じゃあ使わない銃があるからな、普段は稽古に来た自衛官や警察がたまに撃つんだよ」

「へー」

「アリスちゃん、今まで魔素格闘を練習してきたと思うけど、これには致命的な弱点があるのが分かる?」

「うーん……なんだろ?」

「魔素格闘はあくまで接近戦……つまりCQBよりももっと近いCQCのレンジになるわけ。となると……」

「となると?」

「仮に相手を制圧する必要が出てきた場合、相手に接近する必要があるんだよね。でもアリスちゃんの今の武器は魔法ぐらい……つまり相手に接近するまでに魔素を消費してしまう。となると……」

「でもシールドだけで少しずつ相手に近づけば?」

「相手の武器や人数が分からない以上、シールドだけでは確実に近づくのは無理だよ?少なくとも相手をある程度その場に拘束する制圧力が必要になる。そのためにアリスちゃんに必要だと思うのは……」

「思うのは?」


 ゴトッ。


 その時、久子が射撃場のテーブルに何かを置いた。


 銃……それもハンドガン……だ。


「拳銃は魔素を使わない、弾丸が持つ限り撃つことが出来る。それに相手を射撃で牽制したりその場から動けなくすることもできる……魔素を消費せずにね。アサルトライフルだと使える体術に制限が出そうだから拳銃」

「なるほど」


(確かに拳銃であれば魔素を使わないし、別に当たらなくても近づく目的は果たせる……か)


「アリス因みに銃の腕前は?」

「ていうかこの世界で撃った事ある?」

「えーと……一応ステアが襲撃を受けた時に先生から渡された拳銃で牽制射撃を」

「なんでステアの教師が銃持ってるんだ?」

「……その人元自衛官でレンジャーだったそうで」

「ほう?今度会ってみたいな」

「じゃあアリスちゃんとりあえず色んな銃出すから好きな銃取って撃ってみよう」


 そういうと久子がテーブルの上に数々のハンドガンを並べ始める。


 M9、グロック、トカレフ、M1911、ワルサーP38などだ。


 アリスがその中でも驚いたのはある意味骨董品で趣味の範囲で購入したのであろう旧日本軍の十四年式拳銃があった事だろう。


 だがそれでもアリスが迷わずに選び手に取ったのは……。


「ほう……45口径か」

「HK45だね」


 HK45、ドイツのヘッケラー・コッホ社がアメリカ軍の要望で開発した(いろいろなことがあり選ばれるどころか計画自体無かったことになった)銃である。


「ていうかアリスちゃん衣笠さんからもらったグロックは?」

「ああ、ステアで使わねえだろってことで菊生寮に置きっぱなしです」

「へえ……じゃあなんでこれ?」

「前回射撃したときに知ったんですけど……あたし、ハンドガンに関しては左利きなんですよ。でもほとんどの銃ってスライドストップもセーフティーも右専用にあるじゃないですか。でもHK45はアンビ……左手でも扱えるんです、あと単純に……このスライドの形が好みなんですよね」

「なるほど……じゃあ撃ってみようか。はい、マガジンと弾」

「いきなりで撃てるのか?」

「撃てますよ!」

「へえ」


 アリスは渡されたマガジンに弾を慣れた手つきで詰めていく。


 そして弾を詰め終えると、銃に装填し、スライドを引く。


 ガチャン!


 子気味良い音と共に弾がチャンバーに送られスライドがもとに戻る。


 そして癖なのか右手でスライドを少し引き、チャンバーに弾が確実に装填されたか、排莢の為に必要なエキストラクターがちゃんと弾を掴んでいるか確認し、戻す。


 その時に確実に戻るようにスライドの後端を軽く叩き、静かにイヤマフと保護グラスをし両手で構えた。


「……わお」

「……ほう」


 ここまでの流れるような作業に息を呑んで見守っていた。


 ———本当にアリスは高校生か?


 銃を構え、トリガーに指を掛けゆっくりと引いた。


 バン!


 45口径の強烈な反動がアリスを襲うが、アリス自身はそれを意に返さぬ様子で前にあるターゲットに打ち込んでいく。


 バン!バン!バン!バン!


 まるで45口径を撃った経験があるかのように手慣れた様子で撃つアリスにただただ驚くのは久子と三穂だ。


「……すごい」

「アリスは本当に高校生か?」

「そのはずですけど」

「その割には装填作業も反動制御も元から知っているかのようだ。普通なら初めての反動でビビるのが普通だがそれもない……ある程度経験してなければこれは出来ない」

「もしかしたらアリスちゃんは前世で経験があるのかもしれませんね」

「……ふーん」

「ふー」


 すべてを打ち終えたアリスは銃からマガジンを抜き、チャンバーに弾が残ってないことを確認するとスライドを引いた状態のままテーブルに置いた。


「アリスちゃん、前世で撃った事あるのかな」

「さあ?記憶ないんで分からないんですけどね」

「じゃあアリスちゃん、あたしからもう一つ教えたい技があるんだ」


 アリスは銃と装填済みのマガジンを手に三穂と一緒にレンジ内に入ると一つのターゲットの前にやって来る。


「さあアリスちゃん普通の撃ち方じゃあ、相手に銃を取られる可能性がある……でも体術をするのはちょっと距離が足らない、でも近づこうとすれば相手が先に撃つ危険がある……どうする?」

「そうですね……」


 アリスとターゲットとの距離はおよそ一メートルから二メートルだ。


(これはあれをやってみるか?)


 体をターゲットに対して垂直に銃を持っていない右肩を前になるようにし立つ。


 そして銃を持っている両手を顔の前にスライドが後退しても顔に当たらない位置に持ってくるように構えた。


 そう……ジョンウィック等で使われたCARsistem(カーシステム)だ。


 バン!バン!バン!バン!


 だがこの体制も経験があるのか特段の違和感を生じさせず次々と打ち込んでいった。


「アリスちゃんこの撃ち方知ってるの!?」

「え?ああ、旧日本でジョンウィックっていう映画があるんですけど、主人公がこの撃ち方をしていたのを知っているので試してみました」

「へーそうなんだ!」

「そもそもこの撃ち方は私と三穂で生み出した撃ち方だったんだが……なるほど旧世界でも使われているのか……まあどちらが先に始めたのかは置いといて、これでこの撃ち方の有効性は示せたな」



「そういえば」


 アリスの銃の腕前が分かった所で本日の稽古はおしまいとなった。


 結果的に何十発と打ちまくったことにより、アリスの手と反動を受けた肩は程より痺れが起きておりそれを味わいながら三穂と縁側でくつろいでいた。


「どうしたの?」

「三穂さんが魔素格闘術を使えるのは分かりましたけど、ならプロソスでの闇の魔法使いとの戦闘、何で使わなかったんだろうって」

「ああ、それね……龍ちゃんからあたしのユニークについては聞いてる?」

「はい……体内の全魔素を開放して身体能力を一時的に上げるって……あ」

「そう、もし相手が闇の獣人、魔獣なら考え無しに突っ込んで来るから使えるんだけど、相手は闇の魔法使い、どんな戦術を使ってくるか分からない。まああいつは戦術のせの字も無かったけど。あたしのユニークの場合、魔素が残ってれば残ってるほど持続時間が長いからね、最悪の事も考えて魔素を温存してたの」

「なるほど」

「それより」


 少し伸びをした三穂が立ち上がる。


「これからはあたしも仕事の合間を見つけてこっちに来るからね?アリスちゃんには銃が一番ピッタリだってわかったし、あたしも教えられることがあるから教えに来るよ」

「他に何を教えるんですか?銃だって普通に撃てますよ?」

「銃が撃てるようになったって勝てるとは言えないでしょ?問題は状況状況で使いこなせるか、例えば敵がいるか分からない部屋に突入するときのルームクリアリングとか知ってる?」

「あ……ああ」


 アリスは目を逸らした。


(そりゃあ知りませんよ?知ってるのはあくまで銃の撃ち方ですし!まあこれを旧日本の女中学生が知ってるのもおかしいとは思いますけども!)


「銃だって普通の自衛官、警察官でも訓練すれば撃てるようになる。問題はそれを戦術的にどう使いこなすか。これはある意味経験者が経験をもとに教えないと育たないから」

「前から思ってたんですけど、三穂さんてほんと仕事何やってんですか!?」

「まだ秘密。それより」

「まだ何か?」

「アリスちゃんてHK45好きなんだよね?でも使うなら少しでもそう装弾数が多くなって反動が小さい9ミリの方が良いだろうし、HK45を9ミリ仕様にカスタムしてプレゼントしたいんだけど、何かカスタムで注文あるかなって」


(銃のカスタムかあ……もしあたし専用になるんなら結構細かい注文もありか?)


「ああ、なるほど……なら」


 アリスは晩御飯の時間になるまで三穂と銃のカスタムについて熱い話をし、今日一日を終えた。


 それと結果的に変えた稽古の内容がまた別なものになることにより久子を悩ますことになるがアリスにとってはどうでも良い話だった。


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