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卒業試験 2

 客間に通されたアリスは現れた三枝の様子が少しだけ違うことに気が付いた。


 明らかに服装が少しだけ乱れている。


「あの……三枝……さん?大丈夫ですか?予定があったのなら出直しますけど」

「いえいえいえ!アリス様より優先すべき予定など皇族関係以外存在しませんのでご安心ください!それで今日はどのような?」

「あ、まずは昨日送っていただいた食材について感謝を、おいしかったです」

「あら!ちゃんと間に合いましたか!本当なら大晦日に送る予定だったんですが、さすがに名家となると色々忙しくて……龍様から恐らく今日、稽古を終了し帰って来ると連絡を貰いましたので、急がせました」

「なるほど、それで……本題なんですが」

「はい」

「三枝さんに魔法戦闘の稽古をお願いします」


 ステアに帰ればサチとまた魔法戦闘の演習をすることになるだろう。


 だがそれでも最初に三枝に頼む理由を察したのか理由を聞かなかった。


「なるほど……サチや学校の皆さんい稽古の結果を披露する前に私で試してみたいのですね?」

「まあそうなります」

「……アリス様」

「はい」

「前にも言いましたが、魔法戦闘に限ってはいくらアリス様であろうとも手加減は出来かねますが……よろしいのですね?」

「はい……むしろ本気でやってくれないと困ります」

「畏まりました。灯」

「はい」


 客間で隅で座って待機をしていた女性が返事をする。


「私とアリス様はこれから道場に赴きます。十分後ぐらいで構いません、お水とタオルを準備しておいてくれるかしら?」

「畏まりました」

「では参りましょうか」

「はい」



 約十五分後、水とタオルを持ってきた灯がちょうど道場の入り口にやってきた時だ。


 入り口からアリスが出てくる。


「あ、アリスさま?どうかなさいましたか?」

「え?ああ、もう終わったので帰ろうかと……あ、水ありがとうございます」

「え?ああ」


 お盆に乗ったコップの水を飲み干すアリス。


「ふー……あ、お見送りは大丈夫なので!では!」

「え?ああ……分かりました」


 玄関に向かうアリスを姿が見えなくなるまで見送る灯だが、その後、道場に入った途端、驚愕する光景が広がっていた。


「み、三枝さま!?」


 なんと三枝は道場のちょうど真ん中にて肩で呼吸しながら膝をついて座っていた。


「大丈夫ですか!?アリス様と一体何が!?」


 灯が近づくとまた驚いた。


 たった十五分しか経っていないのに三枝の額には汗が浮かんでいたのだ。


「大丈夫です……アリス様と二本ほど試合をしただけです」

「たった二本ですか?それだけでここまで汗が出ることなど……」


 今まででもたった二本、たった十五分で汗をかくなど見た事がない灯にとって今起きている現象に驚くことしかできなかった。


「灯……少し一人にしてくれるかしら。一人で考えたいの……夜ご飯はいつも通りに」

「……畏まりました」


 まだ少し動揺している様子だが冷静に返事をした灯は台所に向かっていく。


「……」


 そして静かになった道場で三枝は今自分の身に起きた事を思い出しつつ振り返った。


 ———約一年の稽古……たった一年……それだけであそこまで強くなるんて……元々の素養があったから?それでも……強くなりすぎね。


「……そういえば……アリス様が最初に試合をするならサチになるわね……ふふ、詳細を伝える気は無いけど、警告はしとこうかしら」


 自分の娘がどこまでやれるのか興味が湧いた三枝は急ぎ電話をしようと歩き出すのだった。



 一月の下旬、ステア魔法学校は冬休みを終え、卒業試験を終えた三年生、進級試験を終えた一年と二年がせわしなく卒業式や新年度に備えせわしなく準備を行っていた。


 そして学校の正門前に降り立ったアリスは色んな意味で驚いた。


「遅い!どこをほっつきまわってたんだアリス!」


 恐らく正午辺りからちょくちょく来てないか見に来ていたんだろう、恭子がご立腹の表情でアリスを出迎えた。


「いやーすんません、色々よるところがありまして」

「なら事前に連絡すべきだろう。龍から午前中にはすでに出発したと連絡が来たんだからな」

「さーせん」

「まあいい……このまま校長室に行くぞ」

「はい」



「おやアリスさん!ひさしぶり……ほう?」


 校長室にてアリスを出迎えた八重樫は入室したアリスの表情、体格を見て何か思ったようだ。


「校長?」

「……なるほど、自分の中で答えは見つかったようですね。どうですか?この一年で成長できたと感じますか?」

「ええ、今の自分に出来ることは全部やったつもりです。成長は……どうなんでしょうね、今わかっているのは自分の武器を見つけた事、そしてそれをある程度使いこなせるようにしたことです。後は実戦でどこまで使えるか試しては変えていくぐらいですか」

「なるほど……素晴らしい考えです。では今後の事について話しましょう」

「今後ですか?」

「ご存じでしょうがあなたは進級試験を行っておりませんので書類上は二年生です。そして本来同学年である三年生はすでに卒業試験を終えています。つまりあなたに今必要なのは三年生への進級試験、そして同時に卒業試験となります」

「あ、まあそうなりますよね」

「ですが、あなたは卒業後の進路は決まっている……となると今のあなたに学校が求めるのは卒業後、神報者として自分の身を守るに十分な技術を持っているのかです。将来神報者を継ぐ者がステアを卒業しているのに弱いままではステアの評判にも関わりますから」

「はい」

「ですのでまずは最低限、ステアを卒業するに十分な学力があるかを試験します。期間はそうですね……一週間……卒業式等の事もありますから二週間後に試験としましょう。それまでに勉強をしておいてください」

「分かりました」

「そして実技なんですが……」


 コンコンコン。


 その時、校長室のドアがノックされる。


「どうぞ」

「失礼します。連れてきました」


 恭子が入室するとともにある生徒が一緒に入室した……サチだ。


「アリス!」

「お!サチおひさ!」


 すぐにでも抱き着きたいという衝動が見て取れるが、さすがに校長室でそんな行為は出来ないと理性が働いたのだろう、冷静にアリスの隣にやって来る。


「なんでサチ?」

「私が呼んだんですよ……実技の試験の為に」


(まあそうなるよな)


「さて実技の試験ですが……先ほども話した通り、最低限魔法に関して防衛技術があるのかどうかの試験となります。そしてそれを手っ取り早く試験する方法は一つ……ここに居るサチさんと魔法戦闘をしてもらうことです」

「なるほど」

「レギュレーションはあなた方が一年の最初に行ったトーナメント大会のレギュレーションと同じで行きましょう。覚えてますね?その試合内容で合否を判断します」

「大丈夫です」

「ではいつやるかですが……アリスさんも今日到着して疲れているでしょうから……」

「明日で大丈夫です」


 アリスを除くその場の全員の表情が驚愕に変わった。


(正直に言うと今すぐにでもやりたいんだよね、でも準備もあるだろうし、やるなら明日かなあ)


「いいの?アリスも疲れてるでしょ?」

「大丈夫、明日でいいよ」


(それに正直、疲れてるから戦えないとか、実戦じゃ通用しないし、こちとらどんな状況でも戦えるように稽古してるからね)


「分かりましたでは明日の午後にしましょう、それまで各自準備をしてください」

「「はい」」

「それでは解散」


 解散が言い渡された瞬間、サチが抱き着きそうになるがアリスはそれを寮の部屋までと制止した。



「おー、部屋そのままか」


 一年ぶりの自分の部屋に抱き着くサチとコウを引きずりながら入室した。


「あくまで休学だったからね、一応ベッドもいつ戻ってきても良いようにクリーニング済みだよ」

「センキュー……あの、本当にどこにも行かないからさ……そろそろ離れよう?」

「……分かった」


 二人が離れると、アリスはとりあえず自分の荷物をベッドに置こうした時だった。


(あれ?上のベッド……香織が居なくなってから誰も使ってないはずだよね?でも誰かが使ってる形跡が……)


 その時だった。


 ドン!


 以外にも疲れていたのかそれとも久しぶりのステアで気が緩んでいたのか、アリスの背後に現れた人は飛び上がるとアリスの背中を椅子にするように上のベッドに飛び上がった。


「いっだ!……って成田!?」

「久しぶり」


 アリスの目の前に現れたのはこの部屋に割り当てされていないはずの成田だった。


「なんでこの部屋?つかあぶねーだろ!」

「一年前の襲撃で同じ部屋の子が辞めちゃってね、一人になったからこの部屋に移った」

「なるほど」

「それで?明日サチと試合でしょ?」

「もう噂が出回ってらっしゃるのね」

「頑張って」

「うす」


 その後、サチやコウと一緒に寮の中でアリスが居なかった一年間、どのようなことがあったのか談笑するアリスだった。


 そして……アリスの成長の証を堂々と見せつけるサチとの試合が始まる。


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