「これよりステア魔法学校卒業式を開会する」
三月、卒業試験を無事クリアしたアリスは卒業式に堂々と参加した。
「校長先生のお言葉です」
(また眠くなってくるなあ)
八重樫が壇上に上がると、軽く周囲を見回し大きく深呼吸をした。
「……はぁ、三学年諸君、この度は卒業おめでとう。いつもならギャグの一つくらいは言うのだが、今回は少し真面目な話をしようと思う」
(ん?珍しいな)
「君たち三学年は普通のステアの学生とは違う経験を色々したと記憶している。一学年時はトーナメント大会の開会式襲撃、二学年の一部は演習場にて襲撃を受けている、そして二年の秋には首都襲撃事件によりここステアも爆撃により多少の被害を受けた。普通の学生なら起こりえない事件に巻き込まれていると言えよう」
(まあここに主人公いますし。主人公は事件を引き寄せるとか言いますし)
「それにより自主退学という形でここを去った人もいるだろう。だがここに居る君たちは少なくともそんな困難にも負けず、ステア卒業という資格を得ている者たちだ。そんな君たちに贈るのは、仲間は財産だということだ。いいかい?この先君たちにはここで経験した困難よりもさらに難解な出来事と出会うかもしれない、一人ではどうしようもできないかもしれない。でもだ、君たちはここで仲間と協力し、解決する術を学んだ。だからこそお互いに解決する方法を一緒に模索した隣にいる仲間を誇りに思いなさい。では最後に……君たちの人生は君たちの物だ!これからの人生を精一杯楽しみたまえ!以上卒業おめでとう!」
八重樫が深々と礼をするが、その時だった。
パチパチパチ!
示し合わせたのではないのだが、やはり思うことがあったのだろう。
次々と生徒が立ち上がり、拍手を始めた。
「……」
本当なら時間の関係上、すぐに司会の恭子が皆に座るように指示をするところだが、恭子もやはり何か思うところがあるのだろう、一分ほど拍手を聞き流したのち、司会の仕事に戻った。
その後、ステア卒業者には結構な有名人が多い影響か、十人前後が祝辞を述べるために壇上に上がることになるが、予想通りアリスは気づかれないように寝た。
「卒業おめでとう!」
パーンパーンパーン!
アリス、サチ、コウ、東條に向けてクラッカーが鳴らされる。
卒業式終了後、一行は卒業を祝うために識人たちが菊生寮にて開催した祝賀会に参加していた。
「はーい皆さん!お料理の準備が出来ました!」
そして何故かこの祝賀会の事を聞きつけた三枝が菊生寮の調理場を借りると霞家自慢の料理人を引き連れて自慢の料亭料理を振舞うと志願したのだ。
(三枝さん……あたしですら祝賀会のこと知らなかったのに。なんでいるんだ?……あ、師匠か)
「ねえ、アリス私たち参加して良かったのかな」
「え?」
サチが不安そうにコウと共に尋ねてくる。
アリスはある意味慣れたが、この場に居る識人……つまり転生者は関係省庁の上級官僚補佐の人も多く、長らく各名家が主催するパーティーにも招待されたことが無いサチとコウは辟易していたのだ。
「大丈夫でしょ!皆多分目当てはステア卒業していよいよ神報者の弟子として動き出すであろうあたしへの顔合わせだし、楽しんでよ」
「そ、そう」
「ならなんで俺まで招待されたんだよ」
「暇って言ってたから」
「……まあ?俺は次男だし?東條家継ぐのは兄さんだから?母さんからも誘われたって言ったらぜひ行ってきなさいって言われたし……まあ楽しむよ」
(多分お母さんはここに参加する識人が政府職員関係の人が多いから、顔を売っておく意味で行ってきなさいって言ったと思うけど……楽しそうだし黙っておくか)
サチとコウ、東條の三人が料理を取ってこようと歩く姿を見ながらひと息を入れるのだがそれは許されなかった。
「アーリースちゃん!」
「おわっ……この柔らかさは!友里さん!」
背後から誰かに抱き着かれるが、すぐに正体が友里だと分かると友里に向き直り胸元に抱き着き返す。
「んふふふ!卒業おめでとう」
友里が優しくアリスの頭を撫でる。
「えへ!ありがとうございます!」
(久しぶりの友里さんの胸だあああ!やわらけえええ!きもちいいい!服越しでもこの破壊力……脱いでもあの破壊力!暴力的だあああ!)
「それでねアリスちゃん、一つ聞きたいことがあるんだけど」
「何でしょう!」
「アリスちゃんは神報者の正装どうするかなって」
「……ん?と言いますと?」
「龍ちゃんて式典とかだと紋付の袴着るじゃない?アリスちゃんはどうするかなって。別に決まりはないっぽいしね」
「そうですね……」
(式典か……確かに広島併合?の時は師匠も紋付の袴着てたっけ……ならあたしは着物か?でもなあ、あの時みたいに戦闘に巻き込まれた時に咄嗟に戦える服装にしたいからなあ……なら闇の魔法使いとも戦えるように刀差せるように袴か?師匠とおそろいにしたいし)
「師匠と同じで袴が良いです!」
「……そうかぁ……分かった!何とかしてみるね!」
「はい」
「アリスちゃん!おめでとう!」
友里と入れ替わるようにして今度は三穂がアリスに抱き着いてくる。
「三穂さん!……と衣笠さん」
「ああ、卒業おめでとう。聞いたんだが……」
「はい!ぎりぎり合格ですが何か!合格すりゃあいいんですよ!」
「……アリス君……性格……変わったか?」
「いいえ?言うなら元に戻った?」
「そうか」
「アリスちゃん卒業祝いのプレゼント!」
そういうと三穂がケースのようなものを差し出す。
「……ん?なんだこれは」
「アリスちゃんなら……分かるよ」
「これって……もしかして例の?」
「そう」
「開けていいですか!」
「うんイイよ!」
アリスはすぐに近くのテーブルにケースを置くと開けた。
「……お、おおお!」
そこにあったのは紛れもなくアリスの注文通りの銃の……HK45Tだ。
見た目は一般的なHK45Tだが、軽量化のためかセレーションの邪魔にならない位置に肉抜き加工を施してある。
またフロントサイトとリアサイトはノーマルよりも一ミリから二ミリ程度高くなっており近距離専用の為かリアサイトが少しだけ広くなっている。
そして夜でも確実に狙えるように集光サイトが装着済みだ。
なおバレルも延長されてねじが切っており、これは注文通りマズルブレーキが装着されていた。
また状況に合わせてサプレッサーが装着可能ではあるが、今後一度も使うことは無い。
スライドストップとセーフティーもアンビで手が小さいアリスの為に少しだけ延長されている。
ハンマーも肉抜きされており、トリガーに至ってはアリスの希望通り本来の湾曲されたトリガーからストレートトリガーに変更が加えられていた。
そしてマガジンもロングマガジンだ。
「これは……拳銃か?」
「そう、アリスちゃんに好きな銃聞いて、好きなカスタム聞いた結果こうなっただけだよ」
「こんな子というものあれなんだが……私があげた拳銃はどうなったんだ?」
「ああ、菊生寮にて眠っております」
「それを使えば……」
「アリスちゃん、拳銃に関しては左利きなんだって、グロックだと左じゃあ扱いずらいってことでHK45、これならセーフティーもスライドストップもアンビだからさ、使いやすいのよ」
「ああ、なるほど……そういうことか」
「そして45口径だと装弾数的にも反動的もきついから、9ミリ仕様にしました。これで完成かな?名前はHK9AC……アリスカスタムってことで」
「かっけえええ!」
「所でアリスちゃん」
「何でしょ……お?」
アリスは途端に表情が真剣になる三穂の様子にびっくりした。
「私ね考えたんだけど、龍さんはこの400年間人を殺しまくってると思う。今の刑法が制定されてからは多分やってないと思うけど」
(まあそうでしょうね……師匠結構敵多いと思うし)
「でもね私はアリスちゃんに人を殺して欲しくないんだ。神報者はあくまで神に報告し、天皇陛下に助言をする立場だからね」
「……それを言っちゃうと銃を渡す意味が……」
「だからアリスちゃんがこの銃で使うのは……この弾だけにして」
そういうと別の紙で出来た箱を渡す。
それを開けると中に入っているのは一見普通の弾薬のように見えるが弾頭が違った。
「これって……ゴム……つまりゴム弾ですか」
「そう、これだと有効射程は極端に短くなるけど、アリスちゃんの武器を考えたらこれでもいいかなって」
「なるほど、分かりました」
「まあゴム弾でも当たり所が悪ければ死に至るがな」
その後、さらに中にあらかじめ弾薬を詰めておけばマガジンを入れれば内部でフルリロードされるポーチや、本来横に取り付けるホルスターだが今後の事を考えて背後になるように調節したホルスターなどある意味神報者の新生活に向けて必要なものを三穂からプレゼントされた。
また銃のメンテナンスについて話し合っていると、何故か霞家当主三枝が霞家は銃器等の整備事業もやっていることを打ち明け、色々話し合った結果、アリスの銃は霞家が担うことになった。
なお、その後霞家内で誰がアリスの銃をメンテナンスするかの喧嘩が巻き起こるがそれが別のお話。
そしてここまで卒業祝いにしては十分と言えるほどの物を貰ったアリスだが、それ以上のサプライズがアリスを待っていた。