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三章 第二日本動乱編 序章 新たな出会い

謁見 1

 あたし、神報者の弟子ことアリスの朝は六時から始まる。


 学校時代なら7時起床だったが、久子師匠との稽古により体内時計が6時になってしまっており、今では念のためと付けている目覚まし時計の数十秒前に起きてしまう。


 起床後は洗顔と歯磨きを済ませ三月の卒業後、菊生寮に戻ってきてからは自分の部屋の地下に簡易的なトレーニングルームを作ったことにより、そこにて日課のランニングと筋トレを行う。


 そして自室にて買いだめしてある簡単な食事をすると、いよいよ出かける準備を始めるのだ。


 卒業式から数日が経っていたがその間、あたしがやっていたのは自室の改造である。


 転生後、すぐにステアに入学したとあって菊生寮の自室はまともな整理すら自分好みに作り替えることすらできなかった。


 卒業後、師匠から神報者に専用の寮は無く、基本的に菊生寮にて過ごすのが一般的だと言われ、すぐに自室の改造を始めたのだ(そもそも師匠が結婚していた時に寮が存在しない)。


 そしてあらかたの改造と整理が終わった次の日、いよいよ師匠の仕事場である転保協会に行こうと思い着替えを始めた。


 と言っても卒業式のすぐ後にサチやコウと一緒に普段使いの服を買いに行ったのでそれを着るだけのだが。


 下はジーパン、上はインナーの上に防水性を考慮しつつ何となく革ジャン、他に小物を入れるためにショルダーポーチそしてジーパンのベルトには三穂さんにもらったガンベルトを着けている。


 右腰にはマガジンを入れるポーチと杖ケース。


 後ろには銃のホルスターが付いており、三穂さんに作ってもらった銃を収納できる。


 右は?という質問には刀を入れる機械が付いているのだ。


 あたしは基本的に体術による攻撃が主流となったが、闇の魔獣や獣人、魔法使いにはやはり聖霊刀が無ければ太刀打ちできない、けれども常に帯刀すれば身動きがしづらい……だから使うときだけショルダーポーチに刀や箒を収納しているのだ。


 この機械は刀を入れると本来体の後ろに来る鞘も隠してくれる機能がある。


 これにより刀を使うときも体術に移行できるようになっているのだ。


 最後に銃を取り出し、念のためスライドや撃鉄の稼働を確認すると、弾が入ったマガジンを入れ(チャンバーには装填しない)ホルスターに収納し、帽子とサングラスを被り髪を束ねて準備完了というわけだ。


 あらかた出かける準備が整ったあたしはそのままドアに向かう。


「さあ!神報者としての初仕事!……つってもまだ何やるかまでは知らんけど行くか!」


 ドアノブに手を触れようとした時だった。


 ドン!


「アリスちゃん!おはよ!」

「だあああ!」


 友里さんが勢いよくドアを開けたせいでいつぞやのようにドアノブがお腹に突き刺さりあたしは悶絶した。



「……いやーごめんごめん。アリスちゃんがもう起きてるとは」


 友里さんが私の服を脱がせながら謝罪する。


「いや……それは良いんですけど……私はなんで脱いでるんですかね?」

「それはこれから用事があるからだね」

「用事……普段の服装では駄目な用事ですか?」

「うんそう」


 友里さんは何故か慣れているような手つきでついさっき着替えたばかりの服を脱がしていき、持っていた袋から別の服を取り出した。


 それはどう見ても……着物と袴だった。


「それって……袴?」

「そうだよ、卒業祝いの時に神報者の正装は何が良いか聞いたでしょ?」

「つまり出来上がったからサイズチェックのためですか?」

「まあそれもあるんだけど……まあ内緒」

「はあ」


 何故、あたしを連れて行こうとする人……特に師匠絡みの人は頑なに行先を告げようとはしないのであろうか。


 あたしは水曜どうでしょうの大泉ではない。


 そこまでリアクションを期待されても困るし、緊張しないようにという配慮なら逆に不安や恐怖心が勝ってしまうので逆効果だ。


 ただ師匠と同じ袴を着れるという喜びが無いかと言われればあるとは言っておこう。


「さあ出来たよ」


 そんなことを考えている内に友里さんによる着付けが終わった。


 鏡を見ると、まあ……似合ってはいるのだろう……だが大急ぎで作ったのか、それとも元々あった着物をあたしサイズに無理やり合わせたのか少し不格好に感じるが、今は言わないようにする。


 あたしも剣道や久子師匠との稽古で袴は幾度なく着てはいたが、こういう紋付の袴とかだと帯の締め方とかに作法があるようで時間が掛かってしまうので、文句を言う資格がないのだ。


 だが友里さんは着付けが分かっていたようで手慣れた手つきであたしに袴を着せていたのは分かった。


「慣れてますね」

「龍ちゃんに着付けの方法習ったからさ」

「なるほど?」


 友里さんは師匠の事が好きという情報は以前から知っているが、師匠の着物の着せ方まで知っていることに少し困惑気味ではあったが深くまでは探らないことにする。


「じゃあ行こうか。一応、銃とかの荷物は別のカバンに入れとくから」

「分かりました」


 友里さんを追うようにしてあたしは自室を後にした。



「アリス……ふふ」


 食堂にて新聞を読んでいた師匠は私がやって来るや私の姿を少し見た後、笑った。


「何がおかしい」

「いや……さすが袴には着慣れているとはいえ、それになるとまだ着られている感があるなとな」

「……しょうがないでしょ」


 この袴はまだ降ろしたてだ、それに着てみてわかったが稽古等で使う袴より少し重いから少し歩きにくい。だがそれもすぐ慣れるだろう。


 ただ今何となくではあるが気づいたことがある。


 それは今着ている袴はあたし用に作られたものではなく、間に合わなかったため師匠の袴をあたし用に直したという事実だ。


 師匠の表情的に、自分の子供におさがりを着せたという表情にしか見えなかったためだ。


 だが追及するのもめんどくさいのでそのまま流すことにした。


 師匠は新聞をたたむと立ち上がり、玄関へ向かいだす。


「で?これからどこに行くのさ?」

「それは秘密だ」

「あっそ」

「というか時間が無いからさっさと行くぞ」

「は?時間って……まだ朝だよ?」

「お前の時間じゃない。向こうの予定的に時間があまり取れないから行くんだ」

「そっすか」

「ほら行くぞ」


 師匠と共に寮の外に出ると、玄関にはこれまた黒の高級車が止まっていた。


 あたしは総理大臣との会議に挑むために黒い車に乗り込んだ時の事を思い出したが、さすがに総理大臣や他の大臣と会う時ですらこのような格好はしてなかったことを思い出すと益々今からあたしは誰に会うんだと心配でしょうがなくなるのだった。


 師匠がドアを開き乗り込むのでそれに続くように乗り込む。


 今回の運転者は識人ではないようだ。だが、バックミラーであたしと師匠を確認すると軽くお辞儀をする。


「行ってくれ」


 師匠の言葉を合図に車は何処かへ向かい走り始めた。



「……」


 目的地に向かっている間、あたしは車が進む経路から目的地のおおよその予想を使用と思った。だが普段あたしが移動に使うのは箒による飛行であるため、このあたりの道路が全く分からないことも相まってすぐに諦めた。


 その時、師匠からあるものが渡される。


「アリスこれを持っておけ」

「ん?……いや……これって」


 師匠から渡されたのは日本刀……それも脇差だった。


 少しだけ刀身を抜いてみるがどうやらこれは模造刀だと分かる。


「……なして?」

「ある意味その格好には必要だからだ。俺も着る時には差す」

「あ、はい」


 あたしは脇差を受け取ると帯に差しこみ、あたしはつかの間のドライブを酔わないように楽しむことにした



 数十分後、車が目的地に到着したのか停車し外に誰かがこちらに向かってくる気配が感じ取れる。


 そしてその外の人によってドアが開けられるとあたしはそのまま車の外に出たのだが、目の前に現れた光景にあたしはただただ声を出せずに驚愕するだけしかできなかった。


 別に看板があるわけでは無いがそれでも佇まいというべきか、醸し出される雰囲気からここがどいう場所かは自ずと理解できた。


「……ここってもしかして」

「そうだ、皇居だ」


 そう、あたしが連れられてきたのは天皇陛下がお住まいになっており、公務をしている皇居だったのだ。


「てことは……つまり今から会うのって」

「帝……つまり天皇陛下だな」

「……はああああああ!?」


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