「何度か事前に行ってから連れてきたんですが、全員緊張のし過ぎで当日体調を崩すものが大半だったので、これに関しては内緒で連れてきています。あと、アリスの場合は過去に寝坊をした前科があるので」
「なるほど」
「師匠!?前にも言ったけどさあ!あれは転生した直後で色々あって疲れてたからだって!!今はちゃんと起きてるわ!毎朝ちゃんと6時起きだ!」
「そうなのか?なら次からは頭に入れておこう」
まあそれでも今日の事はもし事前に知らせれていたら眠れなくて起きられる自信がないことは事実だ。
だからこそ今回の事に関しては師匠にグッジョブと言いたい。
「良いですかアリスさん、この国で働いている識人の皆さんは二種類います。まずは民間の会社で助言役や病院、研究施設等の専門家として働く方です。そしてもう一つは総理大臣補佐や各省庁の官僚たちの補佐などをしている政府関係補佐役です」
「はい」
「アリスさんは総理大臣が国会で指名された後、どうするか知っていますか?」
「いや……すみません」
「大丈夫ですよ。総理大臣が国会で指名されるとまだ指名されただけで正式に総理大臣になるわけではありません。わたし……つまり天皇陛下に任命されることによって正式に総理大臣になれるのです」
「なるほど」
「そして任命された総理大臣は内閣を作るために大臣を指名します。まあその際また私が認証するんですが。一般的な省庁の官僚と呼ばれる人事も基本的に内閣によって行われます。そして問題の識人に関してですが、政府に属する識人の人事権は私、天皇陛下にあります。つまり私が直接転生者に皆さんにその役職に任命するんです」
あくまで政府職の識人は第二日本国が雇っている助言役として政府が雇うのではなく天皇陛下が直接任命する……それほど旧日本の知識や技術がそれほどこの国に役立っているのだろう。
それだとコンピューターを作り出した卓は何処に所属してるかとふと気になる。
「はい。そういえば卓ってそう考えるとどこに所属してるんですか?」
「あいつは国立の科学研究所に所属しているよ」
「へー」
「そして神報者に関してですが、もちろん天皇陛下の助言役で宮内庁の所属である神報者も私が任命する権利を持っています。ですから今日、あなたをここに招いたのです」
「あの……もしかして私はまだ神報者の弟子ではない!?」
「もちろん、あくまで弟子というのはその人との関係性を示すものであって役職を示すものでは無いですよ?プロ野球でもチームは違うけど師弟関係がある選手とか居るでしょう?」
「ああ、そういうことか」
天皇陛下からプロ野球という単語が出てきた事に驚きを感じつつ天皇陛下が侍従から渡された紙を受け取るのを見送る。
「ではアリスさん。これより任命証をお渡しするんですが」
「はい」
「正直神報者の弟子……なにせ訳400年間出来ることが無かったものですから役職名が存在しなかった影響で新たに作る必要がありまして、少し悩んだんですが……結果こうなりました、読み上げます」
そして正式な任命証を渡すときになると一気に陛下の表情が硬く、より真剣なものになった。
あたしも先ほどまでとの温度差に少しびっくりするがこちらも姿勢を正して陛下が読み上げるのを静かに聞くことにする。
「転生者アリス殿、あなたを天皇陛下の名のもとに神報者付きに任命する。天皇陛下頼仁」
神報者付き……つまり基本的には補佐するのではなく傍に居てその仕事内容を覚えるための役職だ。
あたしは神報者としての仕事をまるで把握してない。ならそれを手伝う補佐としての役割は期待できないからこそお付という役職名なのだろう。
だけどそれでいい、どういう役職名であろうがこれによりあたしは正式に神報者になるために必要なステップを一つ前に進めたのだから。
陛下より任命証が渡されるのでそれを受け取り少し眺める。
多分同じものだろうがステアでの卒業少々よりもいい紙を使っているように感じた。それよりも天皇陛下と頼仁の文字、そして読めはしないが公務で使うであろう天皇陛下としての認印を確認すると何処か胸の奥が熱くなるのを感じた。
「それとアリスさん、考えたのですが」
「はい?なんでしょう」
「貴方の師匠である龍さんは昔から変わらずに天皇を帝と呼びます、それは私に対しても同じです。なのであなたにも帝と呼んで欲しいんです。今では全員が天皇陛下や陛下と呼びますが帝と呼ぶ人がいても良いと思いまして、どうですか?」
どうですかと言われても天皇陛下にそうお願いされては断ることは出来ない。
「分かりました。これからは帝とお呼びします」
「おねがいしますね」
「アリス。それを渡せ」
横に居た師匠が任命証を指さす。
「なんでさ!せっかくへ……帝にもらったのに!」
「帝からもらった任命証は政府に務める識人がどのような役職になっているのか証明するのに必要だから転保協会で保存するんだよ。民間は別の方法だが、政府補佐は例外なくだ」
「あ、そう言うことか、じゃあどうぞ」
任命証を師匠に渡すと丸めて懐にしまった。
「これで今日の重要な公務の予定の一つが終わりました……龍さん」
「なんです?……あ」
「はい……一本いいですか?」
「まったく、また医者に言われますよ?」
「たまにだから良いんですよ」
師匠が懐から薄いケースを取り出すと、中にある物を一つ帝に渡した……煙草だ。
それもよく見ると菊の紋がプリントされている……つまり宮内庁で作られた煙草だ。
「帝煙草吸うんですか!?」
「普段は全くですが。ほら龍さんて煙管吸うでしょ?知っている限り祖父の代からなんですが宮内庁で煙草を作ってもらって龍さんに渡して一緒にいるときは吸うんですよ。龍さんと父親もやっていたんですが、そのような関係に憧れましてね」
「なるほど」
帝は窓を開けると煙草を咥え、師匠が杖の魔法で作った火を使い二人一緒に煙草を吸い始めた。
「あ、アリス今日はもう終わりだ。帰っていいぞ」
「え?師匠は?」
「俺は帝とまだ話すことがある」
「分かった」
「霞家の方にお見送りさせましょうか。これから度々ここに来ることになると思うのである程度宮殿内を知っておくために案内してもらいましょう」
「ありがとうございます」
数分間誰が案内するか霞家の人たちが静かに揉めた後、じゃんけんというある意味意外な方法で案内役が決まった霞家の女性が満面の笑顔で私の前に現れる。
「では失礼します」
「はい、これからよろしくお願いします」
霞家の女性の案内で表御座所を出た時だった。
「おや?あなたは……アリスさんですか?」
「ん?」
そこに居たのは多数のSPを引き連れる高そうなスーツを身に纏った男性だった。