胸元の特徴的なバッチで何者かは分かる、政治家……つまり国会議員だ。
ただ一国会議員が10名ほどのSPを連れてこの皇居に用もなくくるなんてあり得ない……となるとこの人は大臣か現職の総理大臣だと簡単に推測できる。
「えーと……」
「おや、あなたは神報者である龍さんの弟子ですよね?であれば今の総理大臣の顔を分かっているとは思っていましたが」
「申し訳ない、色々とありまして今の総理大臣が誰か誰が閣僚かまでは把握できておりませんで」
「そうですか、ならこの場で簡単に自己紹介しましょうか。内閣総理大臣の桂安隆と申します」
総理が握手しようと手を差し出す。あたしとしては断る理由がないので握手に応じた。
「今日はどのような?」
「ええ、龍さんに用があったのですがここに居ると聞きまして」
「でしたら今はてん……帝とお話し中です。少しかかるかと」
「そうですか……アリスさん。少しお話しできますか?」
私は待たせている霞家の女性に視線を移す。
女性は大丈夫と言うような表情で頷いた。
「師匠が来るまでなら」
総理は近くにあった椅子に座るように促すので大人しく座り総理も座った。
「アリスさん、正直でお願いします、政治家についてどう思いますか?」
「それは……神報者の弟子としてですか?それとも一人の識人としてですか?」
「一人の識人としてです」
「……そうですね。捕まらない詐欺師?」
意外な返答では無かったようだ。総理の表情はピクリとも動かない。だがお世辞でも良い事を言うと思っていたSPは意外にも馬鹿正直に言ったことでピクっとだけだが動揺したようで反応した。
「それは……なかなか辛辣ですね。どういった理由でそのような印象に?」
「少なくともこの世界であった政治家は基本自分の議席しか考えていなくて議席を得るためならば有権者に対してある程度嘘をついても良いと思っていて、献金をくれる人には特別優遇をするような人だと感じましたので」
「でもあなたはこの世界に来て三年ほどでは?」
「旧日本でもこの日本でもあまり変わらないと思いますよ?」
別に旧日本のあたし自身の記憶は無い。それでもこの世界で多少なりともテレビや新聞である程度政治に関する情報は少なからず得ている、まあそれでも詳しい国会議員の名前はまだ良くは知らないのだが。
だがその新聞やテレビが報道するのはその国会議員が何かやらかした事、そして嘘をついてまでどうにかやり過ごそうとする姿だ。
そしてこの日本は旧日本を参考にして作られた国だ。そのような政治家が旧日本に居ても不思議じゃない。
「でもそれでは国に助言をする立場の識人としてはまずいのでは?」
「政治家のほとんどに不信感を持っている識人で神報者が師匠なのにそれを言いますか?」
「まあ……そうですね」
「別に私は政治家全員を嫌っているわけではありませんよ?ですがあなた方がやってきた行いを見れば誰だって政治家を信じることが出来なくなるのは当然では?そもそも自政党……でしたっけ?あなた方が三年前野党になったのだって多数の議員がスキャンダルを起こしたからでは?」
「そうですね。今となっては総裁として反省するばかりです」
「本来政治家というのは国民……つまり有権者が自分たちの代わりにこの国の事を任せるために選ばれる存在では?それなのに選ばれてしまえばあとは有権者はどうでも良い、献金をくれる人を優先して政策を実行していく……そんな人を率先して投票しようと思うのはお金持ちぐらいですよ」
旧日本では普通の中学生だったから政治家に関して思うことは無かっただろう。
だがこの世界では神報者の弟子……まあ付きという役職にはなったがゆえに政治家とある意味関わることが普通の高校生よりは多くなったと思う。
それ故何度か、今は野党だが総理大臣と首相官邸で会うことがあったがやはりそれが政治家という人種なのだろうと感じたのである。
「やはり旧日本でもこの国でもそういう政治家は居るのでしょうね」
「そもそも政治家はそういう人種では?」
「はは……そう……ですね。そういわれてもしょうがないかもしれません」
「それに政治家って認知症になっても議員になれるそうですし、自分に都合が悪い所は記憶に無い覚えていない。記憶が無くなるのにまあよく国会議員が務まるんですね!いやー国会議員は楽な仕事ですよ!それにもしばれたとしても秘書の責任にすればおとがめなし!良いですね!国会議員って職業は!」
一気に吐き出したので少し息が上がるが、それでも今言いたいことは言い切った。
だがここまで政治家をネガキャンしているのにも関わらずその政治家から選ばれている総理大臣の表情は何一つ動かなかった。
「では次の選挙に立候補します?」
「いえ、お断りします。私は旧日本から転生してきましたが、まだまだこの世界を楽しんでませんし、冒険出来てません。私は国会で法律を作ったり与党を批判するより体を動かして冒険した方が性に合ってるので」
「そうですか……では質問しますが……あなたの中で政治家……総理大臣になって欲しい方はいらっしゃるでしょうか?参考として聞いてみたいです」
「そうですね」
この人はもしかしてあたしが言った人間を政治家にしようとしているのではないか。あたしは将来神報者になる、ということは立候補も出来なければ選挙権も出来なくなるのだ。だが意見を聞くことは出来る……であれば将来の神報者から総理に相応しいと思うものを聞いておきたいのだろう。
あたしは少し考える。現在の与党野党の政治家をほとんど知らないあたしにとって誰が総理大臣に相応しいかなど判断は出来ない。だが今は政治家でなくとも将来、政治家になって総理になれば面白そうな人は一人いる。
それは父親がある意味国賊として、裏切り者として総理を辞めざるを得なかった人物の娘だ。ある意味政治家を目指す前から他人より信用という意味も含めてハードルが高くなる人間だ。
ある意味一度どん底を見ているからこそ、そういう人物が政治家となり国を背負う立場になるとどういう化学反応を起こすのか、どういう結果を残すのか知りたいと思うからだ。
だが何故だろうか、同時にここまで軽く会話をしていたが、この世界に来て出会った政治家は碌でもない人ばかりであったが何故かこの人は今まではとは違う何かを感じた。
「そうですね……一人だけ、まだ政治家では無いですが、もし将来政治家になった時面白くなるかもしれない人は居ます」
「ほう?それは誰ですか?」
「……に」
「アリス何してるん……桂?」
雪の名前を出そうとした時だった。ちょうど帝との話が終わったのであろう師匠が表御座所を出て声を掛けてきた。
「おや?龍さん、お話は終わったんですね」
「帝に御用か?」
「いえ、あなたに……出来れば二人きりで」
「……分かった」
「ではアリスさん。また会うことがあるでしょうからその時はよろしくお願いします。あなたが言おうとした方についてはまたその時に」
「はい」
雪の名前を言いそびれてしまったが、別に今すぐに言う必要はないと思い、師匠と総理がそのままSPを連れて何処かへ歩いていくのを見送った。
その後あたしは霞家の女性と一緒に皇居の宮殿内を少し案内してもらった後、そのまま暇になったのでサチやコウと合流しつかの間の休息を楽しむことにした。