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龍炎部隊 1

 三月中旬、神報者としての本格的な仕事開始は日本の仕事始めの4月だと言われたので

待機することにしたあたしだがそれでも仕事関係なく呼び出されることはあるようであたしは師匠に呼び出されたので新宿のある場所で師匠と合流し、ある場所へ向かっていた。


「それで今日は何処へ行くんすか」

「現状お前のユニークは二つだ。一つは魔素放出関係だ、それに関しては久子に頼んで使えるようにしてもらったから良いんだがもう一つの方だ」

「ああ、そう言うことか」


 確かにあたしのユニークは二つある。


 聖霊魔法を使えるユニークと魔素放出を極限まで強化したユニークだ。


 魔素放出に関しては久子師匠との約一年間の修行である程度身に付けることが出来たと思っている。後は実戦でどこまで通用するかだ。


 そして聖霊魔法は現在、師匠と一緒の時に何度か使ったことがあるがそれでも最大魔法を適当にぶっ放しただけであり、その性質等は一切学んでいなかった。


「これに関して言うと俺は使えないから教えることは出来ないし、かといって教えるのもお前のユニークの性質上信頼できない奴に教育を頼むのも無理だ」

「そうでしょうね」

「だから今回連れていくのは聖霊魔法を使える奴で俺が一番に信頼がおける奴だ。過去にとある作戦で同行してもらったやつだ。今そいつがいる場所に向かってる」

「ふーん」


 とある作戦……もしかして、プロソスの件か?と思うあたしだがさすがにこの道端でその件を大っぴらに話すのはあれなので目的の場所に着いてからにする。


 数分後、あたしと師匠はとあるバーの前に着いた。


「……どう見てもバーだが?」

「そいつはもう引退していてな。今はここでバーを経営してるんだよ。入るぞ」


 入るとそこは広いバーというよりは近くの居酒屋が並ぶ商店街にひっそりとたたずむ場末のスナックのような言葉が似合う店だった。


 表の看板はクローズと書かれていたが店員なのだろうかどう見ても未成年にしか見えない少年?少女のようにも見える人物がカウンターで作業をしていた。


「あの……まだ開店前……あ、龍さん」

「大輔……女島は?約束していてしたんだが」

「すみません買い出しで、もうすぐ帰って来ると思います。座ってお待ちします?」

「そうするよ」


 師匠が椅子に座るがあたしは座らずにカウンターにいる少年?に釘付けだった。


 大輔という名前的に恐らく男の子だろう少年は髪が肩まで伸びておりポニーテールにしているがそれでも普通の少年のはずだ。特段アイドルグループに居そうというわけでもないのに仕草なのかあたしを見る表情なのかあたしの脳がこの子を可愛いと訴える。


 サチやコウなどの美少女はいつも目にしてきたせいである程度イケメンや美女に対しての耐性はあるはずだ。だが何とも言えない心の中の何に表現しがたい感情が生まれるのを感じたのが正直な感想なのだ。


「どうかしましたか?」

「かわいい」

「……」


 無意識に口から発せられたのはこの少年に対しての最大限表現できるお褒めの言葉だったはずなのだが、どうやら大輔と呼ばれる少年はその言葉に対して不満そうだった。


「あー、えっと……ごめんかっこいいとか言った方が良かった?」

「……」


 恐らくそういう問題では無いのだろうが、何とか機嫌を取り繕うと適切な言葉を脳内で作り出そうとするがこの世界で約三年生きてきたがノリと勢いだけで生き延びてきたあたしにとってこの場合の人の機嫌の取り方まで習った覚えがないことを今気づいた。


 何か言う言葉はないかと内心少しづつ焦り始めた時、入り口の扉が開かれ誰かが入って来る。


「あら、大輔!まだ店を開けてないのになんで客を……あら」

「遼さん、龍さんです」


 視線を店の入り口に移すとそこに居たのは自衛隊を辞めてもなおトレーニングを続けているのだろう屈強な男性だった。だがキャラ作りなのか元の性格でこの口調なのか判断できないが、ある種のオネエだということが判断できる。


「龍!ごめんね約束の時間……前だから少し急いできたつもりだけどあなたは何時も早いわね」

「もちろんだ」


 この少年の反応からこの店のマスター……いやこの場合はママだということが分かった。


「それで?今回は何の用かしら」

「……後ろで話そう」

「分かったわ」


 師匠と遼さんと共にバーの裏にあるバックヤードと思われる場所に移動する。


 そこはバックヤードとは言っているがお酒や食べ物の他に何故かトレーニング器具やら銃器やらバーとして必要なのかという疑問に思うものが置いてある。


「バーとは一体」

「あたしが元自衛官だから」


 それは説明になっていない。柏木先生しかりこの国の元自衛官は銃を持たないと気が済まない性格なのだろうか。


 椅子に座ると男性が自己紹介を始める。


「あたしは女島遼。元自衛官で第一空挺団にいたわ」

「女島……てことは十何年前のプロソスの王女様救出作戦の時に参加した自衛官ですよね」

「あら?龍から聞いてるのかしら」

「ええ、結構細部まで……もしかして自衛隊を辞めたのって」

「ああ、違うわよ。あの作戦だって第一空挺からしたら面白い作戦の一つよ?特別に参加したレンジャー隊員以外はあの後も普通に訓練を過ごしてたからね。あたしが退官したのは別の事情よ」

「そうなんですね」


 やはり第一空挺団の隊員は狂った隊員が多いというのは旧日本でも結構有名な話ではあるがこの世界の日本でもその逸話は存命の様だ。


「それで?今日は何しに来たの?まさか可愛い弟子を見せびらかしに来ただけとかじゃないでしょ?」

「ああ、今日は遼にお願いがあってな」

「あら珍しい!あたしはもう一般人よ?頼むってことはそれなりの報酬が……」

「こいつ……アリスは俺の弟子なんだがどうやらユニークで聖霊魔法が使えるみたいなんだ」

「……は?」


 師匠にある最初のおねだりなのかある意味深意味は無いだろうが報酬について交渉しだす遼さんだったが、遼さんが知る限りあり得ない情報を耳したとたん言葉が止まった。


 そりゃあ無理もない、本来聖霊魔法は男性にしか扱えない……というより発動が男性にしか不可能なのだ。


「……それは……本当の事かしら?少なくともあなたの弟子は女性……女の子だと聞いてるし、今見る限りアリスちゃんは女の子よ?冗談でも……」

「俺がお前に何かを話すときに冗談は言うことはあっても国家機密を話せないことはあってもお前に嘘をついたことないはずだが」

「じゃあ……この子がほんとに?……ふーん」


 遼さんは静かに立ち上がるとあたしの前にやって来る。


「……ん?遼さん?」

「……」


 遼さんは何も言わずに右手で胸を揉むように触れた後、左手であたしの股間をさするように触れた。


「は?」


 あまりにも自然な流れだった故に虚を突かれたが直ぐに我に返る。


「ちょっ!なにしてるんじゃ!いくらオネエでも許さんぞ!」


直ぐに我に返ると椅子を立ち上がり攻撃を試みようとするが、相手は元自衛官で空挺隊員だというのを考慮してとりあえず先手必勝で一発だけ殴り掛かる。


 パシっ!


 だがやはり元空挺隊員だ。拳を軽くいなすとすぐに距離を取る。


「あら中々やるわねえ」

「何してるんですか!いくら師匠の友人でもオネエだろうがセクハラで訴えますよ!?」

「聖霊魔法……本来は男にしか出来ない魔法よ?もしかしたらあなたは可愛い顔して下半身には立派なものがついてるかもしれないと思ってね?ちょっと確かめただけ。でもまあ付いてないみたいだし、ユニークとは言え女性で聖霊魔法が使える稀な例なのね」

「もっとやり方あったでしょうよ!この場所で聖霊魔法が使えるかとか!」

「ん?違うわよ?あたしが確かめたかったのはあなたが本当に女性だったのかどうかよ。龍があたしに嘘をつく理由がないからね、だとしたらあなたが聖霊魔法を使えるのは本当の事、なら確かめるべきはあなたの性別。こればかりは触るかあなたがこの場で下を脱ぐかだったのよ。どっちがよかった?」


 確かに言ってることは理解できた。この人の師匠に対しての信頼はある程度なのだろう。だからその言葉を信じて確かめるべきはあたしの性別だったのは理解する。だが問題は仮にもオネエだろうが女性に興味が無いだろうゲイだろうが男性に許可も無く触られることだ。これが美少女や美女だったら無条件でお触りを許すだろう。


「裸を見せるなんて論外ですけど、触るなら一言欲しかったです。あたしも仮にも女性なので」

「ああ、それはごめんなさい、配慮が足りなかったわね。気を付けるわ」

「それで?教えられるのか?」


 師匠……今弟子が思いっきりセクハラされたんだけど……何も思わなかったのか?それはそれで大問題だぞ?


「あんたねえ……あたしが言うのもあれだけどどこの馬の骨みたいな男が今みたいにアリスちゃんに触っただらあんたはどうするのよ」


 遼さんよく言ってくれました!


「俺は気にしない。アリスは自分が嫌なら叩き潰すだろうさ。俺の股間を蹴り潰した時みたいにな」

「あ」

「あははは!アリスちゃんそんなことしたの!?中々やるわねえ!」


 確かに約三年前、転生した直後裸であり、その姿を見た師匠の股間を思いっきり蹴ったことがあった。


 だがあれも転生した直後で裸であり、それをじろじろと師匠に見られたからである。蹴るのも無理は無いだろう。


「それで?教えるのか?」

「ええ、ここまで面白そうな素材は初めてだしどこまで育つのか見てみたいからね」

「あと、言い忘れてたがこいつは一人で聖霊魔法の第四まで使えるからな」

「マジで!?」


 今までで一番の驚きの声が上がり、驚愕の表情があたしに向けられた。


 まあそれも無理はない。恐らく歴史上、聖霊魔法の第四までを一人で扱える聖霊魔導士はいないのだから……逆に言えばそれこそチート……つまりあたしのユニークの性質だ。


「ええ、まあ……でも第四使った後は大抵魔素切れで気絶しますが」

「ふーん……一層興味が出てきたわ!あなたの弟子を立派な聖霊魔導士にしてあげるわ!」

「よろしくお願いします」

「でも今日は無理ね。私も店の事もあるし、本気で教えるならある程度時間が必要だからね。龍に勉強の予定は伝えるからそれまで待っていてくれるかしら」

「分かりました」

「なら今日はこれで終わり!そういえばアリスちゃん天皇陛下から神報者付きとして正式に任命されたんですって?なら軽くお祝いしたいから私の奢りでお店でいっぱいぐらい飲んでいきなさい。龍もどう?」

「なら飲んでいくよ」

「私も」

「なら決定ね。アリスちゃん、これからよろしくね」


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