「きゃあああ!」
「わああああ!」
爆発とそれに伴う振動で道路に居た人たちは皆しゃがみ込んだり、伏せたりしていた。
だが入り口付近に居た人たちは爆風で軽く吹き飛んだり、粉々に割れた窓ガラスをもろに食らって動かなくなっている。
そしてこれぞ奇跡というんだろうか、爆発により吹き飛んだ扉が先程まで九条君が歩き出していた場所に落ちてきており九条君があたしを呼びに戻らなければ直撃をしていたところだ。
その九条君は遼さんからこういう事態における最低限の身の守り方を教わっていたんだろう頭を隠しながらしゃがみ込んでいた。これは見事と言える。
まああたしの場合は無意識に九条君の盾になるように移動し杖を抜いて警戒していたのだが。
さあ、爆発からある程度時間が経過したので恒例の観察及び推理を始めることにする。
爆発により大きく損傷したのは一階部分だけだ。二階より上はビル爆発の振動でガラス自体はひびが入っていたり割れて落ちてはいるが一階ほどの損傷ではない。
つまり爆発が起きたのは一階だと考えて問題はない。
だが問題は原因である。別に廃墟ビルの内部構造に詳しいわけでは無いが普通完成前のビルに水道やガスの配管が通っているだろうか。もし仮に通し終わっていると仮定しても工事が中断……いや完全に工事自体が白紙になっている建物にガスや水道を通すはずがない。
だとすればこの爆発はガス等による爆発では無いと推測できる。であれば中に居た浮浪者がガスコンロを持っていてされが爆発したという仮定も考えられるがそれでもガスカン一個程度でここまでの規模の爆発が起きるかと言えばでかすぎるくらいだ。
ともすれば今起きた爆発は偶発的な爆発ではなく中に居た人物が意図的かまたは何か作業をしていて手違いで起きてしまった事故だと言える。
だが先ほど九条君が言ってた通りこのビルは工事がされていないところを見ると明らかに中に居る人物は不法にこのビルにて表に出せない何かをやっていたと考えられた。
さてここまで推察したが、もちろんあたしはそこに行って中に居るであろう何者かを救助する義理は無いし中で何が起きていようが知った事ではないので関知しないことにする。
そしてまあ……外に居る倒れている人たちに関しては特段手を貸す義理も無いので無視することとし、あたしは九条君の様子を優先的に見ることとした。
「九条君だいじょう……」
「なんで僕を庇ったんですか?」
「ん?おや?」
庇ったというよりは壁になるように動いて現状をよく見るために動いただけだったけど……というより何故この子はそれでも動いたあたしに向かってその行動を疑問視しているのだろう。
「いや……庇ったというかちょっと前に出ただけ……」
「そんなに僕は守ってあげたい存在ですか?」
「いや……」
別に守ってあげたい存在……ではあると思う。普通に可愛い男の子だと思ってきてはいるし、何処か気に置けない存在だと思ってはいる。だがそれ以上に私自身が九条君よりは自分を守る方法も最低限人を守る方法も知っていると思っている。
そして遼さんからの提案で街を案内してもらっている以上、あたしの役目は何かがあった時に寮さんの代わりに九条君を守ることだと勝手に思っている。
「僕はそこまで弱くないし、守ってもらう立場じゃない!」
それは知らんがな。
九条君とは今日会ったばっかりでどんな性格かどこまで身を守れるかまでは聞いておらんのだぞ?だったら見た目である程度判断するしかないじゃないか、見た感じ体もそこまで鍛えてる感じじゃないし。
「確かに最初あった時にかわいいとは言ったよ?でもそれは九条君の外見で……」
「外見だけで人を判断しないでください!」
じゃあ初対面の人とどう接すりゃあいいのよ。
だが予想以上に自分が可愛く見られるのが、守ってあげたい存在として見られるのが苦手な様子だがそんな事あたしからしたら知った事ではない。
「……僕だって」
「え?なんだって?」
「僕だって人の一人ぐらい助けることは出来るんですよ!」
「ん?ああ、そうかも……は?」
九条君は杖を持って走っていく……何故か爆発したビルの中へ。
「え?え?は?ん?」
突然巻き起きた九条君の行動に少しだけ思考停止したあたしはすぐに脳を回転させ状況整理に入る。
「ちょっとおおお!?え?まさかの!?助けるって、そこにぶっ倒れている人じゃなくて!?中に居るかもしれない人たちの事ですか!?確かに廃墟ビルだけど!そこに居る人がどういう人たちか考えての……行動じゃないっすよね!?少し考えれば廃墟ビルでの爆発で中に普通の人がいるわけないってわかりますよね!?マジかあ……」
置いてけぼりにされた状態になったわけだがここで九条君の帰りを待つなどという選択肢はもちろんないわけで仮にあたしの言動で九条君があのような行動をしたならばある意味あたしの責任問題でもあるわけで……。
「しゃあねえ……行くか」
中に行くことを決めたあたしは背中のホルスターから銃を抜くと、マガジンを抜き弾が入っているのを確認した。
そしてマガジンを入れ直しスライドを思いっきり引くと子気味良い金属音が鳴り弾がチャンバーに装填されたことを確認する。
そして杖を構えて突入しようとしたとき、あたしは自分の体の……特に銃を持っている左手に異常が起きていることに気づいた。
「……ん?」
銃を持つ左手が震えている。だが緊張しているわけでは無い……はずだ。だってこういう時の為に何十回、何百回、何千回と訓練という名の稽古を積んできたのだから。
だが久子師匠も確かに言っていた。何百、何千の訓練に勝るのが実戦だと。いくら厳しい訓練をしている者でも実戦はかならず緊張する、だからこそ訓練をするのだと。
多分これがあたしにとって初めての実戦になるだろう。
銃を撃つ場面があるかどうか分からないが、今から中に入り銃口を向けるのはもう的ではない。反撃してこないただただ金属音がする的では無い。もし対処を間違えれば反撃され重傷、いや死ぬかもしれない動く的だ。
だが心なしか震える左手とは裏腹にあたしの心は穏やかだった。
落ち着いていると言っても良い。恐らくこれこそ稽古や訓練の成果なのだろう。
ならばこの震えは緊張ではない……武者震いということにする。
「……よっしゃ、行くか」
銃と杖を構えながらビルの中に突入した。