「それでは!アリスちゃんの神報者付任命を記念しまして……乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「か、乾杯」
三穂さんの音頭と共にその場にいた隊員三名がビールを片手に声を上げる。
あたしは未成年であるため先ほどバーでほとんど飲むことが出来なかったジンジャエールを持ちあげた:。
約数十分前、銃で戦闘を行っていた人たちはその後だというのに何もなかった……というよりはいつも通りの事だというようにいつの間にかに私服に着替えておりこの飲み会に参加している。
因みに師匠は眠った九条君をバーに送り届けるため別行動となった。
「さてアリスちゃん。聞きたいことはあるだろうけどだ!」
「はい」
「まずはここに居る隊員たちの自己紹介から!まずは……桂ちゃん!」
「うっす」
この短時間でビールを半分ほど飲み干した天宮さんがグラスを置く。
「天宮桂、龍炎部隊の……戦闘と交渉担当かな?元警察官、よろしくね!」
「警察官!?」
意外だった。なにせ初対面は海での金髪だったからだ。口調も髪色もチャラい事この上ない人がまさか元警察官だとは誰が思うか。
「一応聞いておきますけど……警察官時代からその髪色……」
「んなわけないじゃん!ちゃんと警察時代は黒髪だよ、まあ性格は……このままだったけどね。まあ生活安全課だったから結構このキャラ役に立ってたけど」
「はあ」
「じゃあ次は……冴島ちゃん」
「はい」
待機していたのか、何も持たずに待っていた人があたしに顔を向ける。天宮さんと違い、真面目が服を着て佇んでいるようだ。
「冴島悟。元陸上自衛隊、普通科です。よろしくお願いします」
「あ、はい」
龍炎部隊、自衛隊所属ではなく神報者直轄の部隊ということは一度自衛隊を辞めてこの部隊に入ったということになるけど、逆にこの人に何が起きればそういうことになるのか聞きたいレベルだ。
「じゃあ次、神子田君」
「はい」
目立たないようにしていたのか奥に座っていた神子田さんはゆっくりと自己紹介を始めた。
「
「あ、はい」
終わりかい。
この部隊の中ではかなり目立つのが嫌な人なのか、簡単な自供紹介で終えてしまった。
「後、本当ならもう二人いるんだけどね。この部隊唯一の狙撃手なんだけど普段つるまないから良いでしょ!じゃあ次アリスちゃんが聞きたいことと言えば……この部隊の事かな?」
「そうですね」
「じゃあこの部隊が設立された理由を簡単に教えよう」
そういうと三穂さんは龍炎部隊が設立されたきっかけについて話し始めた。
遡ること十……忘れたけどプロソス王女が誘拐された事件だ。この事件で招集された部隊は陸上自衛隊の第一空挺団だったが、結果的に作戦は成功に終わったのはあたしが師匠に聞いており知っている。
だがここである問題が噴出した。
もし今後、同じような事件が起きたとして同じように空挺隊員を派遣したとしよう、毎回作戦が上手くいくわけでは無い。下手すると死亡者が出る可能性があるのだ、その場合、もし遺体の回収が出来ず相手国に回収されると空挺隊員が不正に外国で戦闘を行ったという証拠になり日本政府が責められる形になってしまう。
その場合、最悪天皇陛下まで責任を取る可能性さえ浮上してしまう。だから最初から死亡時には日本政府は何一つ関与していない形にできる部隊を作る必要が出てきたのだ。
まるでメタルギアのスネークが所属したフォックスハウンドのように。
そして当時、この作戦を立案した統合幕僚長の林、空挺団団長の衣笠、そして実際に作戦に同行した師匠は秘密裏に特殊作戦を行う部隊設立に向けて話し合いを開始した。
だがここで一つの意見が出る。もし仮に外国、もしくは国内で秘密裏に動き作戦行動を行う部隊を作ったとしてそれを日本政府の管理下に置けば最悪自分たちの利権の為に利用しようとする政権が出てくるのは必然だろう。だからあえてこの部隊は日本政府ではなく、天皇陛下の下で管理され、神報者直轄の下で動く特殊部隊にすればいいのではという意見が林より出された。
これにより龍による天皇陛下への説明、林と衣笠による部隊設立に向けた隊員探し、訓練等により数年後、『龍の指示で龍の代わりに炎を吐き作戦を遂行する龍炎部隊』が設立されたのである。
「とまあ簡単に言うとこんな感じ?」
「なるほど」
プロソス王女救出作戦が秘密裏に遂行され、大成功に終わったことは師匠から聞いてはいたけど、林さんとしてはその後似たような事件が起こらない保証はないと思ってこの部隊設立に協力したんだ。
つくづくあの人は考えていることは過去色んな識人とあって来たけど本当に読めない。
「じゃあ三穂さん、あたしが聞きたい最後の質問いいですか?」
「え?まだ何かある?」
「なぜこの部隊の存在を秘密にしてきたのか……それも将来神報者を継ぐに自分に秘密してきたのか……だろ?」
「師匠!?」
何時から……いやつい先ほどここに合流したんだろう。師匠がタイミングよく個室のドアを開けて中に入りながらあたしが聞きたいことを呟いた。
そして他の隊員は師匠が入って来ると同時に立ち上がり敬礼する。すでに全員お酒が入っているのにも関わらず統一された動きでよく訓練されているとうかがえる。
「師匠いつの間に」
「つい先ほど大輔を送り届けて、女島と少し話してから来たんだよ」
「ああ、そっすか」
「龍さん、こちらに。日本酒はすでに頼んであります」
「すまない」
天宮さんが自分の席をずらし、師匠の席を作る。そして用意されていた日本酒を徳利に注ぐとグイっと飲み干す。
「それで?なぜこの部隊の詳細を教えなかったか……だったな」
「そうですよ!確かに過去何度か会って話もしてるけど!三穂さんたちが神報者直轄の部隊とは一言も!」
「お前……この世界に来てから何回死にかけた?」
「へ?……あー……えーと」
正直思い出したくない。死にかけたこともあれば寸でのところで助けられもしたけどもう数えるのも嫌なくらいやられまくってるからだ。
「この龍炎部隊は設立に協力した林と衣笠を除けば防衛省はおろか総理大臣さえ存在を知らない部隊だ。知っているのは俺と林、衣笠、そして帝、部隊長の三穂を除けば他の識人すら知らない部隊なんだよ」
「まじで!?」
「ああ、それでお前この世界で何回も死にかけたたろ?それにファナカスに誘拐されもした。いくら神報者の弟子、神報者付になったとしても自分の身すら守れない奴に最重要機密を話すと思うか?」
「…………」
ド正論だ。あたしだって自分の身を守れない、よく捕まる奴に重要な情報を渡したいとは思えない。
「だがお前は今回闇の魔獣に対して殺すことは出来なかったが結果的に撃退し危機を脱した……自分の身を守れると自分で証明した……だから話しても問題ないと判断したんだ。これは賞賛に値するよ」
「……あざす」
ようやく神報者として少しは認めてもらえるようになってきたと思うと少し胸が熱くなる。
「だがアリスここからだ。俺の経験上、神報者は何時襲われるか分からない。政治家、何処かの企業の連中、誰だって敵になる。それを忘れるな?」
「ういっす」
「よし!じゃあ龍さんんもやってきたのでもう一回乾杯と行きますか!乾杯!」
三穂さんが良くない空気と感じ取ったのだろう、それを変えるためにもう一度乾杯の音頭を取り他の人がそれに続いた。
それが終わるとあたしは隣に居た天宮さんや他の人たちと自分の銃について話したり皆が居た元部隊の事について話したりし、にぎやかに飲み会は終了した。
「アリス」
飲み会が終了し、居酒屋の外で解散、各々が家路につき始めた時師匠があたしに声を掛ける。
「なんすか?」
「もうすぐ四月だ。これからは神報者付として転保協会に来るとは思うが今お前が来ている格好で来ていい。俺はいつも着物だが、別に指定はない。帝に会うときもそれで構わん。特別な式典がある場合は袴を着てもらうがそれ以外は基本私服で構わない」
「分かった」
「それだけだ。じゃあなよく休めよ」
そういうと師匠はこれから仕事があるのだろう、転保協会の方へ箒で飛んでいった。
酒を飲んでいないのであたしも箒に乗って帰ることにし、箒跨り神報者としてこれからどのような物語が始まるのかわくわくしながらその場を後にした。