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再会 3

「ふいー、食った食った」


 ステア魔法学校の学食も日本唯一の魔法学校なだけあって規模も質もすごかったが、この西大の法学部の学食も凄かった。


 他の学部の食堂もあるらしいがこの統括本部と法学部が入る建物の学食が凄すぎて他の学食が閉鎖されているらしいがそれも納得である。


 あたしは学食で何を食べるか悩むことなくラーメンを選んだ。


 さすが大学の学食である。手を抜いているとは思えないクオリティーのラーメンが出てきてあたしはびっくりしたのは言うまでもない。


 そして昼を食べ終えたあたしは自販機で購入したコーヒーを飲みながらこの後の予定について悩んでいた。荷物を教授に届け終えて、結果が出るまで訳数日、マジでやることが無くなったからだ。


「図書室……にでも行こうかね。西大ぐらいなら何か面白い本でも……ん?」


 偶々ここが法学部も入っている棟だったからか、そして運が良かったからかそれとも本当に偶然なのか別に探していたわけでは無いがどうしていたのか気になっていた人物が視界の端に入り込んだ。


 雪だった。


 サチからも最近見てないと連絡はあったが、まさか西大に初めて来たあたしが先に雪を見つけることになるとは驚きだ。


 雪に見つからないように場所を少し変えて様子を見てみるが何か様子がおかしい。


 同級生かは定かではないが同じ法学部の学生だろうか男子二人と女子一人のグループと何か話している様子だったが、どう見てもこれから同級生とお昼を食べに行くという感じでは無かった。


 雪の表情は何故か真面目な表情で何かを相談している様子だったのだ。だが逆に話しかけられている生徒は何やらニヤついている様子だ。


「雪……何してんだ?あれ?」


 別に読唇術が使えるわけでは無いが、雪が何を話しているのか読み取ろうとしたあたしは雪と三人が何処かへ向かいだすのを確認した。


「……はぁ……まったく」


 雪が何をしようがあいつの勝手だしあたしの知るところではないが、それでもサチやコウに雪を見つけた事を報告せんといけないし、多少なりとも現状は知っておきたいと考えたあたしは雪たちを追いかけることにした。



 一般的に旧日本小中高大の建物の屋上は転落防止のために閉鎖されているのが普通だ。授業で使う場合のみ、教師と一緒に出るのが許されることが多いだろう。


 だがこの世界の日本は転落防止の魔法が掛かっているため屋上が閉鎖されていることがあまりないそうだ。だが新しく出来た学校で魔法が間に合っていない場合は一時的に閉鎖される場合もあるとかないとか。


 そして西大も例にもれずに解放されている屋上の出口に近づくと先ほどの男子学生の一人だろうか声が聞こえてくる。


「それで?西宮雪さん……話って何でしょう?」

「……あなたのお父様、斎藤先生を紹介してほしいんです」


 そういうことか、雪は父親の名誉かもしくは西宮家の名誉を回復するためにどうしても国会議員になりたいのだ。そのためにまずは現在与党である自政党の有力議員とのコネクションが欲しいんだろう。


 そしてあわよくば政治家の秘書にでもなって政界に関わりたいと思っているのだろう。


「なるほど……で?俺の親父に紹介するとして……俺にメリットあんの?」

「……それは……」


 当然の質問だろう。


 政治家と繋がりを持つということは繋がりを持つ人の立場にもよるし、その政治家の立ち位置にもよるがある程度の権力を手にすると言っても過言では無いだろう。


 もし繋がりを持ったのが総理大臣クラスならその影響力は絶大だ。


 そして政治家の息子ならおいそれと父親に取り次ぐにしても見返りを望むのも普通だろうし、もし紹介した奴が裏切れば紹介した息子に責任の目が向けられる。それは避けたいと思うのも当然だ。だからこそあたしは政治家というものが嫌いなのだが。


「……もう一度言うぜ?お前を親父に紹介したとして俺に何かメリットあんのかって聞いてんの」

「……今は何もないわ。でもあなたは将来国会議員になるつもりはないんでしょう?なら将来あたしが議員になったらあなたの助けになることを約束するわ」

「……はあ?」


 あいつは……本当に政治家の……元総理大臣の娘か?あたしが言うのもなんだけど政治家として必要だろう駆け引きが下手すぎる。まだ何ひとつ確定されていない将来の事を駆け引きの材料にして相手が納得するとでも思っているのか?


 これが商売での借金や株取引でもある程度将来性を見極めてから投資するか判断するのに。


 普通駆け引きをするのであればすでに持っている材料、もしくは時間が経てば確実に手に入る材料で交渉するのが普通だろう。手に入るかすら判断できない材料で交渉するのは論外だ。


 逆に言えばあいつはそれほど追い詰められているとも言えるか。西宮総理の日本に対する反逆ともいえる行為の代償を何もしてない娘が背負っているのだ、どんな手を使ってでも政治家になり西宮家の名誉を回復してやるという気概すら感じる。


「あのさあ……お前の父親がやった事……娘のお前なら知ってるよな?」

「……」


 やはりこの話題だ。


 だがこいつらは知らないだろうが勅令による内容を見た議員よりもその場に居て実際に元総理の口から真実を伝えられた雪の方が内容は詳しいだろう。


「俺たちも親父から詳細こそ知らされていないけどよ、知ってるんだぜ?あんたの父親は……総理大臣として一番やっちゃいけないことをやった。あんたはその娘だ、そんな奴を親父に紹介する。ましてやあんたは秘書にでもなりたいんだろ?そんな奴を秘書にして親父の評判が下がったらどうする。俺の責任になっちまうわ」

「そ……そんな事には……ならないわ!裏切るなんてことはしない!」

「お前がどう思うか何をするかは関係ないんだよ、親父がどう思うかだ」


 あいつの言ってることは正しい。政治家を選ぶのは政治家じゃない、国民だ。政治家にとって選挙で不利なる人材が味方に居るのならば容赦なく切り捨てるのが普通だ。


 国民にどう見られているのかどれほどの信用があるかが問われるのかが重要な政治家にとって今の雪は爆弾そのものだ。


「どうすれば……信用してもらえるんですか?」

「そうだな……じゃあ、ここで裸になってもらいましょうか?カメラ持ってるよな?」

「持ってるよ」

「……なっ!」


 女子生徒が自分のカバンから最新機種と思われるカメラを取り出す。


 途端に雪がうろたえ始める。


「いいか?これは保険だ。お前の目的は親父とのコネクションだろ?何一つ信用がないどころか国民からは裏切者扱いされている父親の娘をお前を親父に紹介するんだ、それなりの保険が必要なんだよ。いわゆる……弱みって奴だ。これが飲めないんだったら交渉は決裂だな」

「…………」


 雪は明らかい動揺し、必死に考えているようだ。


 というか……まあ予感はしてた。自身が作り出したわけでは無いにしろ、選挙戦で明らかに不利になるような爆弾だ、これくらいの条件を提示するのは当たり前だろうし、あたしだってそうする。


「……わ、分かったわ」

「は?言葉使いもどうかした方がいいぜ?お前はこれからある意味俺たちの使い勝手のいい下僕……みたいな立ち位置になるんだからな」

「……分かりました。脱がせていただきます」


 雪はそう言うと、持っていたバッグを地面に置いた。


「まじか……そこまでするか」


 自分で作ったわけじゃない爆弾を解除するために自ら過去に汚点を残す……もっとやりようがあるだろうに。


 あたしには分からない。そこまでして政治家になる意味が本当にあるのだろうか、ますます政治家というものが分からなくなる。


 雪は上着を脱ぐと、シャツのボタンを一個ずつ外し始めるが、その動きは緩慢だ。


「勇樹、脱がせちまう?」

「いや、こいつが自主的に脱ぐからこそ意味があるんだ。時間が掛かってもな」

「了解」


 さて……どうするか。普通の主人公ならば、ここで止めに入って彼らと一悶着あるのが普通だろうが、今のあたしに雪を助けるつもりは毛頭ない。


 今の雪を助ける価値など無いとも思ってる。政治家としてあいつは失格だ、政治家としてではなく一人の国民としてあいつが仮に選挙に立候補しても投票する価値がない。


 だが同時にこんな思いが脳裏に浮かぶのだ……あれ?あたし雪の裸見た事ないな……と。


 サチとコウ、香織、友里さんの裸は見てきたが、素晴らしいものだった。友里さんに至っては最高、宝と言っても過言ではない。残念ながら三穂さんは見たことが無い……今度頼んで一緒にお風呂に入ってみよう。


 雪は服の上からでしかないが少なくともあたしよりは胸はあるはずだ。そしてサチやコウと同じように美少女、その裸だ、どうしても見たい。


 雪自身に価値は無いが雪の体はある程度の価値はあるだろう、それを私も見てないのにあいつらに見せても良いものだろうか。いや良くない、万死に値する行為だ。


「しゃあねえ……行くか」


 もはや雪ではなく、雪の体の価値を守るためだけにあたしは動き出した。


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