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再会 4

 トン!


「え……え!?」


 屋上の出口からおよそ数メートル、雪に近づくのにゆっくりと近寄ったため十数秒かかったがそれでもその場にいた全員があたしに気が付かなかったことに少し驚きつつもあたしは雪の肩に手を置いた。


「何してらっしゃるのあなたは」

「……あ、アリス!?」


 よもやこんなことろで会うとは思っていなかったのだろう、雪は驚愕と言った表情であたしを見つめる。


「おい!てめえ!何もんだ!」

「あ?あたしは……うーん……雪の……同級生?」


 一時的に休学していたため同級なのかと迷ったが、ちゃんと進級試験と卒業試験を受けてサチやコウと一緒に卒業しているので同級生という扱いで良いはずだ。


「へえ?お友達か……で?正義感に駆られて助けに入ったと」

「いやまったく。今の雪自身に助ける価値は無いとさえ思ってるよ、過去に何度か助けた事はあるけど」

「じゃあなんで今度は助けたんだ?」

「あんたら……雪の裸を見ようとしたろ?」

「ああ、そうだが?」

「……あたしが見た事ない雪の裸をあんたらが見るのが許せないんだよ!」


 シーン


 その場が静まり返り、同時に全員の目が点となった。


 雪に至っては何言ってんだこいつというような目であたしを見ている。


「……ん?つまりあんたが見た事ない裸を俺たちが先に見ることが許せないと?」

「そうだが?」

「なら一緒に見るか?別に良いぜ?」

「良くはない!お前らの場合は弱みを握るためって言う不純な理由じゃねえか!あたしが見たいのは単純に性癖だ、一緒にしてもらっちゃ困る」


 三人がドン引きしている……そして雪もドン引きしてる。


 何言ってるのじゃ分からないという表情だ。当然だ、あたしも何言ってるのか分からない、本能に従って適当に言ってるだけだからだ。ただ一つ言えるのは……独占欲ってわけでは無いだろうが、こいつらに雪の裸を見せるのはどうしても許せんてだけだ。


 え?あたしのも不純だって?性欲のどこが不純なんだ?純粋じゃないか!人間の欲求の一つやぞ!


「お前!この人が誰だが知ってやってることだろうな?」

「あ?……知らん!」


 与党だろうが何だろうがいちいち政治家の顔なんぞ覚えてるもんかい……ましてや息子なんぞなおさらだ。


「そうか……お前の名前は?」

「アリス、識人なもんで苗字が無いのよ」

「識人か……政府補佐役なら所属を言え!俺の父親は内閣官房副長官だ、識人の補佐役の人事ならある程度顔が聞くからな、即刻親父に行って左遷させてやるよ!」

「西宮雪の同級で識人……アリス?」


 内閣官房副長官……つまり官房長官の次に偉い人だというのが分かるがあたしもまだまだだ、今一つ役職の凄さが分からん。


だが取り巻きの一人があたしの名前に心当たりがあるかのように唸りだす。


「残念ながら政府補佐役……では無いよ」

「なら企業関係か?まあいいその企業に言って即解雇するように言うことは出来る!所属企業を言え!」

「いや……うーん」


 いうべきか?確かに本来、識人は政府補佐役か企業協力役しかいないのが事実だが、奇跡的にあたしはその二つのどちらでもない。


「……識人……アリス……あ!」


 ここで何か思い出したのか、取り巻きの一人が声を上げる。


「何だよ!」

「駄目ですこいつは!」

「ああ!?なんだよ!」

「アリス……識人で……西宮雪と同級なら……こいつ神報者の……龍様の弟子だよ!」


 男の顔が驚愕の表情に変わった。


 ていうか……やはり師匠は一般的に様呼びなのか、少し面白い、師匠がさん付けされる日は案外遠いのかもしれない。


「神報者の弟子?」


 企業所属でもましてや政府所属ですらない。帝直属の助言者である神報者の弟子という存在にかなり驚きの様子だ。


「神報者の弟子」

「まあ正確には神報者付という役職ですけどね」

「…………」


 もしかしたら今までの政治家は少なくとも政府所属の気に入らない識人に関しては圧力をかけて交代または辞めさせていたのかもしれない。


 だがあたしにはそれは通じない。


「神報者の弟子が……こんな変態だってのか」

「変態だと!?」


 心外だな。あたしは自分の欲望に忠実なだけだが。それ言ったらみんな隠してるだけでこの世にいる人間全員変態だと思うが?


「ふん、まあいい。ここは引き下がるとするよ。ただまあこの選択が彼女の望むことだったのかは定かでは無いけど」


 さあ、それは知らん。


「行くぞ」


 あたしの変態性にドン引きしたのか、それともこれ以上あたしに付き合うことにメリットを感じなくなったのか三人はその場を後にした。


「……さて雪……さ……ん?」


 雪の方に向くが、雪は何故か震えている。


「なんで?」

「ん?」

「なんでこんなことをしたの!」


 バチン!


「にゃぜに!?」


 いきなり雪に平手打ちを食らう。


「……あたしが脱いでいれば!政治家とのパイプが出来たかっもしれないのに!」

「裸になれば政治家に成れるのか……政治家って案外楽になれるんだな」

「……っ!もういい!次の手を考えるから!」

「ちょっ!おいおい!」


 そういうと雪は走って中に戻ってしまった。


「まったくよー……さて、どうすっかね」


 今回はあいつの体の価値を守るために助ける判断をしただけだ。次何かあっても助けるようなことはしないだろう。めんどくさい。


 だがあいつに言われたことを思い出す。旧日本で死んだあたしの言葉だ。


『自分以外は信用するな。すべてを利用しろ。信頼される人間ではなく、必要不可欠な存在となれ』


 政治家というのはある特定の人たちから見れば神のような存在になりうる。


 この世で一番力があるのは金だ。金があるからこそなんでも買うことが出来るし、なんだってすることが出来る。


 だがそれでも唯一、金持ちが恐れるものがある。それは法律だ。もし法に触れれば今まで自分が積み上げてきた物が全ておジャンとなる。


 だからこそ金持ちは政治家に献金し、政治家に取り入り、自分にとって有利になるような法律を作ってもらおうとするのだ。


 そして理由こそある意味不純だが雪も政治家を目指している。もしだ、雪を政治家に成れるように手助けが出来ればあいつはあたしに多少なりとも感謝するだろう……多分。


 そして将来、あたしが神報者になった時、あいつが政治家になりあたしと協力関係を築くことが出来れば、今まで以上に神報者として動きやすくなるし、利用しやすくなる。


 だが直接的では駄目だ。神報者は政治に直接指示は出来ない。ましてや神報者が政治家になる手引きをしたと分かればその政治家は批判されるし帝まで批判されるかもしれない。あくまで間接的にあいつの意識を変えられるように少しずつ接触する必要がある。


「……面白くなってきた。結構難しい作戦だけどやってみるか。とりあえずまずは……雪さんどこ行った?」


 さっき走り出した雪を引き留めておけばよかったと軽く後悔するがまあいい、すぐに探し出してまずは意識を変えさせるために説得でもしてみよう。


「とりあえず……大学内…探してみますか」


 思い立ったらすぐに行動!あたしは箒に乗ると雪探しの冒険に出かけた。




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