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再会 5

 政治家のせの字も知らないあたしによる雪の国民に愛される(あたし基準)政治家育成計画の為、雪を探そうと箒で大学敷地内を飛び回ること訳数時間、あたしはここで大事なことに気づいた。


「……この大学広すぎィィィ!」


 そうあたしはこの大学に初めて来た。そしてこの大学の詳しい地図情報が無い。適当に飛び回って探してはいたがそもそも雪がどういう行動をとるのかすら不明なのだ、適当に飛び回って見つかるわけがない。


 同じ法学部のサチに聞くという手段もあるがそもそも今日に至るまでサチから雪を見つけたという情報を貰っていない。それに別の学部ではあるがコウや東條からも情報はない……つまり現状、雪を見つけるのは不可能だ。


 人に聞いて回るという手もあるが、サチですら見つかっていなかったのだ同じ法学部の人に聞いても意味は無いだろう。


「しゃあないか……どうせ二、三日はこっちに居るんだしその時に探しにでも……」


 プルルル!


 今日の所はもう帰ろうとしていた時だった。携帯が鳴ったのだ。


 携帯を開き、確認するとショートメッセージが届いているのが分かる……がおかしい点に気づいた。何故か番号だけが通知されていたのだ。


 本来、登録した電話番号から送られるメッセージは登録した名前が表示されるはずだ。つまりこのメッセージの送り主はあたしの携帯に登録されていない人物だということが分かる。


 だが現在この携帯自体を持っている人間は少ない……ていうかほぼいないはずだ。四月になって携帯が公式に発表されたがそれでもまだ携帯を持っているのは識人が中心だ、そして少なくともあたしの電話番号を知っているのは交換した人だけ……であれば通知されるのは名前だけなはずだ。


 間違って送られたわけでは無いだろう。ならいったい誰がこれを送ったのか。


「とりあえず見るか」


 ショートメッセージを開く。


『1900 Club Destny』


「クラブ……ディステニー?」


 ディステニー……運命か、まあどうでも良いけども。ご丁寧に住所まで書いてある。新宿の……歌舞伎町だ。ていうかこの国にも歌舞伎町あるのね。多分そこも飲み屋やクラブとかあるんでしょうけど。


 今このタイミングで送ってきたということは……送り主はあたしが雪を探していることを知っているってことか?それともただの偶然か?ますます送り主が気になるなあ。


「まあ……やること無いし……行ってみますか!」


 あたしはその後、サチとコウに一言だけ挨拶して住所の場所に行くことにした。



 旧日本でもこの第二日本でも新宿歌舞伎町というのは変わらないようだ……まあ、あたしは歌舞伎町に行ったことが無いんだけども。


 午後六時ぐらいから歌舞伎町に入ったあたしはまず軽めの夕食を済ませクラブディステニーを探していた。


 あいつは言っていた……次の手があると。


 予想が正しければ直接政治家に入り込むために政治家に近づくのだろう、最初からそうすればいいのに。


 となると行く先は……政治家を接待するクラブか?踊る場所ではなく。


 だが……クラブディステニーと思われる場所はそういう場所では到底思えなんように感じた。何故なら……今現在、クラブディステニーに入って行くのは明らかに高級クラブに入るような金持ちでは無かったからだ。


 明らかに飲みに行くか、踊りに来たか、ナンパしに来た若者だ。


 失礼な話だとは思うが、仮に政治家に取り入る目的でないとしても雪がこのような場所に来るとは思えない。


 まあ今は特にやることは無いので、このメッセージを信じて待ってみることにする。



 約一時間後、あたしはクラブディステニーを正面から見渡せてかつ目立たない場所で待機していた。


 因みに視線を悟られないようにサングラスをかけて携帯を触っているふりをする。


 そしてこれは……良いのか悪いのか、普通こういう場所で目的もなく立っている女性はナンパする格好のターゲットになりえるはず、しかも目の前にはクラブがある、誘うにはいい対象だと自負していたのだが……違うようだ。ちくしょうめ。


 そしてちょうど七時となった時、クラブディステニーの前にとある異変が起きた。


「……んあ!?」


 誰が見ても分かる。クラブの前に黒塗りの高級車が止まったのだ。


 しかもドアが開くと、数人のSPいや、遠くからだから分からないけど歩き方、周囲の警戒の仕方から訓練を受けた人だと分かる人たちが車のドアに近づいた。


 そしてドアが開くと中から明らかに今から踊りに行くとは到底思えないほど恰幅がいい、男性が登場する。普通の議員ならここまで取り巻きが点くことは無いだろう、ある程度の幹部だということが分かった。


「……ん?……は?……んんん!?」


 そして同じように車から登場した女性に驚愕した……というより呆気にとられた。


 そこに居たのは先程とは打って変わって少しラフではあるがそれでも少し着飾った雪だった。ある意味政治家と同伴……しているのだ、綺麗なドレスを着ているのかと思ったがいくら政治家と言えどやはりTPOをわきまえて着せたようだ。


 だが同時に疑問が浮かぶ。


 何故政治家に同伴できるほどのコネクションがあるなら何故お昼の時、政治家を招待してもらおうなどと思ったのだろうか。最初からこうすれば服を脱ぐ必要などなかったはずだ。


 多分今回の手段は次の手とは言っていたが、使う気はなかった……もしくはあまり使いたくはなかった手なのだろう。


 だからこそここで前々から思っていたことがふとよぎる。


 何故雪は政治家になりたいのだろうか。


サチとコウに少しだけ西宮家について聞いたことがある。西宮家の当主を継ぐのは霞家と同じ代々女性が継ぎ、当主は政治家と結婚するのが普通だったらしい。なお偶々なのか西宮家の女性と結婚した政治家はその多くが政党の幹部になるというジンクスがあるらしい。


 つまり本来西宮家生まれの子供が政治家になることは基本的にない。男子として生まれれば別だとは思うが。


 だがだからこそ雪が政治家になりたいという考えが理解できない。


 もしかして西宮元総理の一件で西宮家当主……母親から何か言われたのだろうか。結婚した政治家が国を裏切ったのであれば血のつながった家族を政治家にすればよいと。


 まあそんな事今は分からないしどうでも良い事だ。今はとにかくもう一度雪に会う事を第一に行動しよう。



 雪がクラブ入ったことを確認すると、あたしも入るために歩き出す。


「ん?ていうか……こういうクラブって普通二十歳未満は入れないんじゃ……雪は同い年よな?どうやって入った?……まあいいか」


 入り口に行くと、こういうクラブではよくいるのだろうガードが入る人たちに対して身分証明を求めていた。


 ガードの下へたどり着く。


「免許証」

「はい」


 あたしはためらわず持っている免許証を渡した。ガードは内容を確認すると小さくため息を溢し返してくる。


「君、未成年でしょ。すまないが、ここは二十歳からだ。後一年待ちな」


 偶々間違えて入って来たと思ったのだろう、優しく追い返すように返事をする。


「……あの先ほど見間違え出なければ友人……同級生が入って行ったのを見たんですよ」

「そんなはずはない。ちゃんと常連以外は身分証を確認しているよ」

「本当ですか?でもなあ、ちゃんと見たしなあ……あ!」

「ん?なんだい」

「中で踊るつもりもお酒を飲むつもりもありません。ただ友人が入ったのを見たので連れ帰りたいだけなんです。その人が別人だと確認出来たらすぐに帰りますので……あ、もし心配ならついてきてもらって構いません」

「……」


 別に中で踊りたいわけでもお酒を飲みたいわけでもない。あたしは見間違いをしたきはない、だからこそ確実に雪ともう一度話すために中に入りたいだけなのだ。


「でも中はもう結構人がいるんだ。そう簡単に見つかるか?」

「ああ……私の勘なんですけど、多分簡単に見つかります」

「……ちょっと待ってろ」


 そういうとガードの人は近くに居たもう一人のガードを連れてくると一時的に場所を変わってもらい、あたしと一緒に中に入った。





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