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ARA本社ビル脱出作戦 1

 四月下旬。


 西京の港区にあるARAと言えば、西京……というより第二日本にある芸能事務所の中で一番大きいと言っても良い事務所だ。


 因みにARAとはAngel Rest Areaの頭文字を取ったらしく、天使の休憩所という意味だ。自ら天使と名乗るのはこれ以下に……確かにARAは元々モデルやアイドルを専門にして活動をしていたらしいので当てはまると言えば当てはまるのだろう。


 そして港区にある事務所ビルは他の建物を差し置いてもかなり豪華で大手というのも分かるレベルだ。


 そしてあたしは今、事務所ビルにあるレセプションホールに居た。


 だが別にオーディションに参加しているわけでは無い……今日ここで開催されているパーティーに参加しているのだ。


 主催者は事務所の社長で主に招待されているのは有名な映画監督、テレビ局の社長やプロデューサー、そして接待役だろうか事務所所属のモデルやアイドルがいる。


 また献金をしている関係なのだろうか、与党か野党かまでは分からないが政治家と思われる人たちも複数人確認した。


 また偶々だろうか……招待……いや招待枠にどうにかしてねじ込んでもらい入ったと思われる見知った人が……隣に居た……雪だ。


「あんた……何でいるのよ。また邪魔する気?」

「いやいや……さすがにこんなところまで来るかい」


 確かに前回、二回ほど雪の企みをあたしの狙いで邪魔をし、あたしなりの政治家というものが何か説教したが、それ以来あたしは雪に一度も会っていない。


 初めから何回も会う事は想定してないし二度度会ってあそこまで言えば雪の脳裏にはあたしの言葉や行動が刻まれているはずだし、少なくと自身の行動に自ずと制限を掛けるはずだ。


 だが深く干渉はしないと決めている以上、行動に何らかの制限を掛けさせることが出来ればいいので後は何もしてないのだ。


「因みに聞くけどどうやって来たん?今回のパーティーって招待客だけしか入れんはずよな?」

「お母さまに頼んで手に入れたのよ……それよりあなたよ。あなたもどうやって参加したの?まさか侵入?」

「なわけあるか、ちゃんと招待状持って堂々と正面から入りましたよ」

「へえ……あなたがこんなパーティーに興味があるなんて以外ね」

「んなわけないじゃん。仕事だよ仕事」

「仕事?」


 誰が好き好んでこんなパーティーに出るかよ。出るか出ないかの選択肢があるなら無論、あたしは出ないことを選ぶ。


 そもそもだ、もし知り合いだけでの飲み会ならまだ参加する余地はあるだろう、好きな人同士で色んなことで話しながら食べたり飲むのは時間を忘れるぐらい楽しいだろう。


 だがこの所謂上流階級のパーティーなんてあたし自身出るメリットを感じないのだ。確かにこういうパーティーは飲み食いするより初めて会う人とのコネクションを築くのが目的とされているのが通常だろう。だからこそ勝手が分からないのであまり参加したくないのだ。


「師匠が行ってこいってね。元々は師匠宛ての招待状なのよ、だけど別の予定があったから神報者付のあたしが代理で出ることになったのよ」

「ああ、なるほどね」

「まあ、それ以外にもちょっと目的はあるけど」


 師匠に招待状が届き、あたしがその代理としてこのパーティーに参加することになったのは事実だ。だが今回、雪には言えないが別の……いや秘密裏に任された裏の任務があたしに託されていた。


 事の経緯を話すならば……まずきっかけの事件が起きた、訳一週間前まで時を遡ろう(あ、回想入ります)。



 西京都にあるそこそこ大きな撮影スタジオ、ドラマの撮影やCMの撮影などに使われているスタジオでビルの大きさからみて十階建てだろう(でも魔法による拡張が行われているはずなので、内部の詳細は知らない)ビルにあたしは来ていた。


 今回このスタジオに来た理由はまたもや師匠のお使いだ。


 と言っても前回のように師匠の血液を届けるのではなく、あたしのポーチに入っているのは高級菓子折りである。


 というのも転保協会では毎年年度の初めにとある雑誌が発売される。その年度に転生してきた識人のユニークに関する情報やこの国にもたらした知識、それによってこの国に何が生まれたのかを国民に対して雑誌にして知らせているのだ。


 これによりこの国にとって識人がどれほど大事か国民に認知してもらうのが目的らしい。


 因みに卓の場合、パソコンをもたらしたある意味偉人としてでかでかと一ページ目に掲載されていた。


 なおあたしの場合、最初こそユニーク不明とされていた(他にもユニークが不明の識人は何人かいる)のだが、つい最近あたしのユニークが魔素コントロール系だと更新されていた。


 そしてその雑誌の表紙なのだが、毎回芸能事務所のモデルが選ばれるらしいのだ。そして公平性を考慮してある程度設立してから経験があり、表紙として一度も採用していない事務所を優先して契約しているのだ。


 神報者は転保協会の代表として撮影日当日に菓子折りを持って挨拶し、事務所の社長やスタッフと顔合わせしたり、進捗を確認したりするのが通例らしい。


だが師匠も多忙だ。新年度が始まり、予算案などは国会を通過したがいまだ国会は法案作成の為に日々開かれている。そのために以前だったら師匠はほんの少し顔見せする程度だったらしいが、あたしが神報者付となった事によりこの仕事があたしに回ってきた。


 まあ前回の血液を運ぶ仕事と比べれば健全……普通の仕事だし、あたしもモデルの仕事には興味こそ無いが、撮影自体がどのように行われているのかは興味があった。


 だから今回はウキウキしながら向かっていたのだ。


 師匠から渡された撮影スタジオの撮影が行われている場所が書かれている紙を見ながらスタジオに入る。


 本来だったら受付に撮影スタジオの場所を聞くのが普通だろうが、師匠から場所の紙を受け取っているのでそのまま目的地に向かおうとする。


「えーと……あー、階段……いやエレベーターで行くか」


 正直な所、旧日本のコンピューターで制御されたエレベーターに慣れたあたしにとってコンピューター制御されていない……いわゆる旧世代のエレベーターを使うことは恐怖そのものだった。


 特段、安全性の違いは分からないけど旧日本ではもう当たり前のコンピューター制御のエレベーターと比べれば信頼感がまるで違う。


 そういう意味も含めてあたしは毎回転保協会の師匠の部屋に箒で通っているのだ。


 まあ卓君がコンピューターを開発したおかげで旧日本のエレベーターが作られるのも時間の問題だろうとは思うのでそこは期待しよう。


 だが今回のスタジオは屋上に降り立ったとして目的の階が魔法で拡張されているだろう影響でどれだけ降りれば良いのか分からないので素直にエレベーターに頼ることにした。


「さて……お?」


 エレベーターを探していたあたしの目にちょうどこれから上に上がろうとしていた女性二人がエレベーターに乗り込むのを発見する。


「すみません!乗ります!」


 声を張り上げながら入り口に駆け寄る。


 どうやらドアを開けてくれていたようだ。急いで中に入り込むと軽くお辞儀をした。


「すみません」

「いえ」


 目的の階のボタンを押すと、二人の出る階より上なので少し奥に移動する。


 数秒後、ドアが閉まったエレベーターは上に向かって上昇を始めた。


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