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ARA本社ビル脱出作戦 5

 数日後、師匠に呼び出されたあたしは神報者執務室に来ていた……だが中に居る人で驚いてしまった。


「三穂さん!?」

「ひっさしぶり!元気してた?」


 龍炎部隊の隊長である、三穂さんが神報者執務室に居たのだ。普段、神報者執務室に来るのは政府関係者、転保協会の人間、政府関係の識人だったりだが、神報者直轄の特殊部隊である龍炎部隊の人を見るのは初めてだ。


「元気ですけど……三穂さんがここに居るの珍しいですね」

「え?ああ!アリスちゃん、最近ここ来てないでしょ?あたしちょくちょく来てるよ?一応あたしの上司は龍さんだからさ、訓練の報告とか任務の報告とかで良く来るからね」


 ……ああ、ていうかあたしは師匠からここに居るならまずは西京を見て回れと言われたからここに居なかっただけで三穂さんは来てたのか。


「それで……今日は何用?」

「数日後、これに参加してくれ」


 そういうと師匠は一枚の紙を渡してきた。それは良く見るような紙ではなく、上質な材質で出来た紙だ。


『ARA新年度パーティーのお知らせ』


「……ARA、あー……あの事務所か」

「そうだ、ARAの本社ビルで毎年行われるパーティーだ。ARAは西京一のタレント事務所だからなその影響力も大きい、招待される人間も政治家やテレビ局のお偉いさんたちばかりだ。そしてそいつらをデビューしたてのARA所属のタレントが接待して顔を売るのが目的のパーティーだな」

「なるほど」


 ARAがここまで大きくなったのは政財界の重鎮にこのような形で接触してるからか。これでタレントは仕事がもらえる、事務所としてはコネクションが出来る、政治家は若い子に接待してもらい献金が手に入る……良く出来てるねー。


「これ……毎年恒例ってことは……師匠も毎年参加してるの?」

「いや?いつも言ってるが今の時期、国会開会中だ、政治家共は知らんが俺は毎日国会から届く書類を処理するので手いっぱいだからな、参加してないよ」


 つまり……神報者付として代理で出席しろってことか。うーん……つい先日ARAの代表ぶん殴ったばかりだから少し気が引けるなあ。


「実はこの日、偶々予定が開いていたんだが……帝との会食が入ったんだ。俺としてはそちらが優先だ。今までだったらそれで不参加なんだが、形式上代理としてお前が参加できる、だからお前に参加してほしんだよ」

「なるほどね」


 だがここで疑問が浮上する。ただ単純にパーティーに参加しろって言う指示なら……何故三穂さんがここに居るんだ?偶々訓練か何かの報告で来ただけで今回の一件とは関係ない?


それともこのパーティーで何か事件が起こる可能性があり、その解決の為に龍炎部隊が動く、その際予め事情を話してあたしとの連携を図る為に顔見せでここに居るのか?


「で?三穂さんはなんでここに居るの?まさか……このパーティーが襲撃される情報でも入ったとか?」

「その通りだ」

「……」


 マジかよ……当たっちまった。


「パーティー当日、武装集団がこのビルを占拠するという情報が入ってな、だが問題はここからなんだ、この武装集団……ARA代表の手の内らしくてな、今回の襲撃もARA代表の指示によるものだそうだ」

「……つまり、自作自演?」

「ああ」


 なんで自分の主催するパーティーをわざわざ襲撃させるんだ?


「ここまでやる理由が分からん」

「ビルだよ」

「ん?どゆこと?」

「この作戦、本社ビルを爆破するのが本来の目的らしいんだ」

「だから?」

「このビルずいぶん前に建てられたんだが……もう結構老朽化しているらしいんだ、立て直すにも金が必要だろ?だがもし襲撃を受けて爆破された場合、保険金がARAに入るんだよ。それを利用して新たにビルを作る……自分の懐は傷つかないって腹積もりだろうな」


 保険目的の偽装襲撃か……金持ちが考えることは一味違うねえ。


「表向きはパーティーに参加する政治家を狙ったテロ、だが本当の目的はビルを爆破し保険金を手に入れてビルを新しく手に入れつつ余ったお金で政治家に献金し政治家とのつながりを強くする……一石二鳥だな」

「つまり三穂さん……龍炎部隊の今回の作戦って」

「普段なら本社ビルにある社長室は厳重な警備が敷かれているだろう、だが襲撃時の混乱時なら潜入可能だ。社長室に潜入して代表と武装集団との関係性を示す証拠の確保、これが今回の作戦だ」

「でも社長室に証拠があるって確証はあるの?」

「なかったらそもそも作戦自体を立案してない」

「あー、そうか」


 証拠があるか分からない場所にリスクを冒してまで突入させるほど師匠は馬鹿じゃないようだ。その情報の出どころについて気になるけど、これで三穂さんたちの作戦内容は分かった。


 問題はあたしだ。


「となると今回のあたしの目的って……パーティーに代理参加することではなく……」

「襲撃を生き延びて爆破する前にビルを脱出することだ」

「それって……あたしパーティーに参加する必要ある?ただ単に三穂さんたちが証拠を確保すればいいだけじゃん。仮にこれをARA代表による保険金目的の事件だと証明するんだったら爆破を生き残った人たちを集めて証言させれば……あ」

「そういうことだ」


 なるほど、だからあたしが出席する必要があるのか。


 これを保険金目的の爆破事件で立件するにはARA代表が実際に指示した証拠が必要だ。三穂さんが確保する証拠で証明できるのはあくまでARA代表と武装集団の繋がりだけだ。これだけでは仮に事件として立件されたとしても武装集団が裏切りを起こしただけという結果にされる可能性が出てくる。


 であれば実際に襲撃時、代表が武装集団と一緒に行動するところを目撃し証言する人間が必要だ。だが師匠がパーティーに参加する人に依頼したとしてその人が無事にビルから脱出する確証がないしその人が代表に脅され証言することを拒否する可能性もある。


 だがドッキリに巻き込まれた際、代表をぶん殴ったあたしならそうなる可能性は無いだろうしある程度訓練を受けたあたしなら一般人よりは脱出できる可能性が上がる。それに神報者付きが爆破事件に巻き込まれたとなれば重大事件として警察も本気で捜査をするだろうと踏んであたしを選んだのだ。


「だけどさあ……これつまりあたしは確実に襲撃を受ける前提じゃろ?こういうパーティーってドレスコードあるから武器とか持ってけないし」

「それは問題無いよ」


 そう言ったのは三穂さんだった。


「パーティーに参加するときはこっちが用意するドレスを着てもらうんだけど、フロアの所定の場所にアリスちゃんのその服とアリスちゃんの装備を置いておくから、合図したらそこに向かって着替える、そうすれば十分戦えるでしょ?」

「なるほど……うーん」


 確かにいつも着ているこの服と装備が手に入るんなら戦闘モードに入れるから何とかなるだろう。だが他に問題がある。


「でも脱出するにもビルの内部構造とか分からないと時間が掛かりますよね?時間切れでドーンじゃ」

「問題ない、見取り図は用意する」

「うーん」


 正直、FPSのチートである敵の位置が分かるウォールハックがどれだけありがたい機能で皆が欲しがるのか分かった気がする。構造がある程度分かるのは良いが、敵の装備、人数、配置、それが分からないのは非常に動きにくい要因になる。


 それに仮に見取り図があった所で見取り図通りである保証がない。魔法による空間拡張がある以上、実際に中を知っている人がいないとなあ。


「安心しろ、今回は協力者がいる」

「ん?どういう意味……」


 コンコンコン!


 その時、執務室のドアが叩かれた。


「ちょうどいいな。入ってくれ」


 ドアが開くと二人の女性が入室した。


「あ!」

「久しぶりやなあ!アリスはん!」

「橋本さん!?」


 入室したのはタレント事務所『京華』の社長である橋本さんと……あのドッキリであたしが助けた美優だった。


「なんで……ここに?」

「龍はんから頼まれたんよ。ARA本社ビルの内部を知っている人間を紹介してくれって」

「それで……なんで美優さん?確かあのドッキリがARAのタレント契約の為の試験だったはずじゃ」

「ARAはな?研修生制度があるんよ。テレビには出れへんけど、ARA内でアイドルやタレントになるためにプロから研修を受ける制度がな。その後に試験を受けて合格すれば無事タレント契約や」


 なるほど、だからある程度ビルの内部構造に詳しいというわけか。


「それに美優ちゃんにとってアリスはんは命の恩人なんよ。今回の件、ぜひ協力させてくれって懇願されてな?」

「なんで?」

「公表されてへんけど、実はあのドッキリ……エアバッグが正常に作動せんかったらしいで?もしあのまま中に留まっとったら運が良くて重症、最悪死んでたかもしれへんわけや」


 衝撃の事実を聞いて今更ながら青ざめると同時に全身に寒気が走った。


 あの野郎……マジで殺人未遂じゃねーか!業務上過失致死傷か?……あ、ていうかあの時顔が青ざめてた理由はこれか!マジで訴えようかな。


「自分が今生きてるんはアリスはんのおかげ……今回の件も最悪怪我どころか死ぬ危険もあるやろうけど、アリスはんの為ならどんな協力も惜しまないって言ってくれたんや。心強いやろ?」

「こういうことだ、アリス分かったか?」

「つまりあたしの仕事は……美優を守りつつ……ビルから脱出しろってことか」

「そうなる」


 ……あれ?難易度が爆上がりしてませんか?あたしが求めてたのは内部構造をある程度分かっていて、またある程度戦闘できる人材……つまり龍炎部隊から助っ人が来るものだと思ってたんですけど……思ってたんと違うんですけど!


「一応言っておくが三穂の所からの助っ人は端から考えていないからな?お前の事だ一人ぐらいなら護衛しながら脱出出来るだろ?」

「……」


 色々言いたいことはあるけど、意味が無いから諦めることにした。まあ……一人ぐらい……うん一人なら何とかなるかな……一人なら。


「では三穂はこのまま準備に入ってくれ」

「了解」


 三穂さんはあたしたちに一礼するとそのまま部屋を後にする。


「アリス後でビルの見取り図を送るから確認しろ。お前は自分の準備で構わないから当日までは自由に過ごして良いぞ。それと当日は一旦着替えの為にここに寄れ、以上だ」

「了解」


 その後、あたしは照れながらお礼を言いに来る美優や橋本さんと夕食を一緒に食べることになり、美優が女優志望だということに驚きながら世間話等で談笑しながらその日を過ごした。



 そして任務の前日、見取り図の内容をある程度頭に入れたり、久子師匠に少し今回の任務の事についてアドバイスをもらったり(久子師匠は呆れていた)、今あたしが出来る準備を済ませ当日を迎えることになった。


 そして時は動き出……いや雪との会話の最中まですす……いや戻る。


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