「……は?はあああ!?」
何が起きた!?原沼が何かを唱えたらいきなり信者が闇の魔素になった!?どういう魔法だ!?
ていうか闇の魔法ってことは原沼は闇の魔法使いか!?
闇の魔素は移動すると原沼が持っている本に吸収された。
「原沼って……闇の魔法使い……何ですかね?」
「アリス今の見てなかったの?どう見ても闇の魔法使いじゃない!」
「……いえ、違うかもしれません」
「は?」
以外にも原沼闇の魔法開説を否定したのは士郎さんだった。
「どうして分かるんですか?」
「もし闇の魔法使いならこの状況で本を使う理由がわかりません、杖を使えばいいでしょう?」
「確かに……闇の魔法を使いたいなら本なんか使わなくても杖で魔法を使えばいい……でも本を使わなきゃいけないってことは……闇の魔法使いじゃない?」
「そういう考えも出来ますね。あれは闇の魔法使いが作り出した闇の魔法使いでなくても闇の魔法が使えるように作った魔導書かもしれません」
「んなこたあどうでもいい、今わかってるのは原沼が闇の魔法使いとつながっていることだけだ……それで十分だろ?ならあいつを無力化して捕まえればいい、繋がっている闇の魔法使いの情報を吐きださせるためにもな」
ここでようやく刀を抜いた師匠があたしの下へ歩いてきた。
「そうだ……」
「ポリャクセ《鳥よ飛べ》」
原沼がまた何か唱えると闇の魔素から分離した少数の魔素が鳥となった。そして生成された鳥はまっすぐあたしへ飛んでくる。
「アリス!」
真っすぐ飛んでくるが……まあ問題ない。さて先ほどの問題を解決しようか、師匠は少なくとも自分が被害に遭わないと基本戦闘参加できないようだ。恐らく神法でそう決まっているのだろう……ならば強制的に体にダメージ負わせれば?
「ほい」
「は?ちょっ!おい!」
ドスン!ジュュュュ!
「だあああ!」
あたしは師匠の体を引っ張るとあたしの前に向けた。すると闇の鳥は師匠に命中し、師匠のお腹を闇の魔素で焼く。さすがは師匠だ!相当な痛みがあるはずだが刀は落としてない!
師匠が怒りの形相であたしに向き直る。
「何しとんじゃ!お前は!」
「え?だって師匠、自分自身にダメージ負わないと戦闘参加できないから」
「それは通常時だ!相手が闇の魔法使い!またはそれに通ずるかもしれない物だったら特例で戦闘可能だよ!」
「ありゃ?そうなん?」
「お前!俺とシオンが戦ったの見てなかったのか?今までも闇の魔法使い!闇の獣人!戦ったの見てるだろうが!」
「あーあれそういうことだったんだ!納得!」
「それに元々俺が盾にある予定ではあったんだ、お前に無理やり盾にされるまではな!」
「そりゃあさーせん」
「お二人とも」
「あ?」
「何すか?」
あたしたちのいつもと言えばいつも通りの喧嘩を止めたのは士郎さんだった。
「教祖さんが見ています」
「「あ」」
原沼はこちらの喧嘩に無関心な表情でもう一度本に杖を構える。
「ゲスキラ《傀儡よ出でよ》」
原沼が呪文を唱えると本から飛び出した闇の魔素の塊が次々と分離すると人の形になっていく。だが人の形になるだけで見た目は黒い影のようなもののままだ。例えるならコナンの犯人から目と口と鼻を消した感じである。
「何じゃ……あれ……闇の魔人じゃ……無いよね?」
「あれは……闇の人形……傀儡とも言うが、闇の魔素だけで作られた人形だ。闇の獣人は人を用意する必要があるが、これは魔素があれば誰でも作れる利点がある。まあ問題があるとすれば……獣人は簡単な命令なら聞くし誘導も出来る、だが人形は……襲うだけだ、作った人間以外をな」
「なるほど」
つまり一時的なその場しのぎなら使えるわけか。
「けど師匠よく知ってるね。闇の魔法使いって記録にも残らないほどあまり接敵しなかったって聞いたけど」
「そりゃそうだろ、400年生きてんだからな、数少ない戦いの記憶ぐらいはちゃんと覚えてるさ」
「なるほど……ん?」
気づくと、このホール一杯、数にして数十体の闇の人形が生成されていた。
「五人分からここまで作れんの!?」
「だから闇の獣人よりは使いやすいんだろうな。それに五人分とは限らん、元々ある程度の魔素が吸収されていた可能性もある。それより……お前、聖霊刀持ってきてるよな?」
「持ってきてるよん」
「ならお前の戦闘は任せる」
「おう!おわっ!」
日本刀を使うならもう少し広がった方が良いと少し移動した所で生成された人形共が襲い掛かってきた。
「ちょっと待てお前ら!まだ刀出して……おわっ!」
だがそんな事、人形共には関係ない。とりあえず人形の頭に向けて一発放つ。
バン!
ゴム弾が人形の頭を捉え、霧散した。
「お!以外に行ける……え?」
霧散した闇の魔素はすぐに人形の頭部に集まるとまた再生した。
「あーなるほど、こりゃあ……使い勝手がいい理由が分かるわ。シールドは?」
一応シールドは使えるのか確かめるために襲い掛かる人形に杖を向ける。
バチン!
人形はシールドに阻まれこちらに来れないようだ。何とかこれで近づかないように出来る手段の一つは確保できたが……問題は一瞬でこれだけの人形に囲まれた今、四方八方から襲い掛かる人形のせいでいくらシールドで防ごうとも刀が取り出せないということだ。
さあとりあえずここで師匠の様子でも見てみますか。
ビュンビュンビュン!
師匠はいつもの通りと刀で次々と流れるように人形を切り伏せていた。
「わーお」
「龍さん!」
そこに士郎さんが声を掛ける。
「何だ?」
「出来ればで良いのですが……余っている聖霊刀があったら貸してほしいんですが」
「それは構わんが……お前、刀は振れるのか?」
「ええ、居合を少々。ですが現状、私の持っている木刀では力不足でして」
そりゃあそうでしょうね!ただの信者と闇の人形……必要な武器が違いすぎる。
「……間違っても俺やアリスに当てるなよ?」
「もちろんです……雪さん!私は今回、あなたを全力で守ることに尽力します!なので万が一にでも!その小瓶……落として割らないでくださいね?最悪の場合……私でも対処出来かねますので」
「もちろんです!」
師匠から予備の聖霊刀が士郎さんに投げられる。士郎さんはそれをキャッチするとやはり手慣れた様子で抜くと二人に襲い掛かる人形を流れるように切り伏せ始めた。
「ほう?中々やるな」
「ありがとうございます」
「やるぅ!」
「お前は何してんだ!早く聖霊刀で戦え!」
いや、分かってるんすよ。たださあ……。
何とか銃と杖で刀を取り出す時間を稼ごうとしても人形は四方八方から襲い掛かって来る。
「どうすっかな……これ。もう銃の弾も無くなるし」
バンバンバン!……カチ!
「おっと」
恐れていた事態だ。ついに残弾が無くなった。別にリロードすればよいのだが……そうすると必ず杖をどうにかしなければならない。普段なら一時的に隠れて口に咥えるのだがそうするとどう頑張ってもシールドが展開できなくなる。だが問題ない数秒あれば、リロード自体は……あ。
背後、あたしの危機察知が正しければ一体の人形があたしに近づいてくるのが分かった。距離にして人形が手を伸ばせば簡単に触れられる距離だ。しかもちょうど癖で自然と右腰のマガジンポーチのマガジンに右手を付けた時だった。
どうする?右手はマガジンポーチの予備マガジンを握っている。杖は口元だ、杖を持って背後に向ける余裕はない。銃も弾数ゼロ……絶体絶命だ。
「……ん?待てよ?」
シールドで人形が防げるということは……ワンチャン、魔素展開防御でも倒せないにしても凌ぐことは可能では?銃のリロード時間を考えても今日まだ魔法をほぼ使っていない状態なら魔素量的にも銃よりは有用だ。
「……いつものごとく……一か八かだ!」
右手が握っているマガジンを引き抜きながら右ひじから右手全体に掛けて魔素を展開すると裏拳の要領で背後に居る人形に向かって振り抜いた。
「うおりゃあああ!」
バン!
右手に何の感触も発生せずに人形の頭部を振り抜くと、同時にマガジンをチェンジし杖を掴むと背後に向けた。
「……お?……おやあ?」
先ほどまで人形の頭部を打ち抜いてもすぐさま再生しただけなのに、今度は再生せずゆっくりと首から魔素が霧散していった。
「……ほう?となれば」
杖と銃を仕舞うと格闘の体勢を取る。人形たちは自分の仲間がやられても意に返さない様子で襲ってくる。
その場で回転するように勢いを付けると、右足の太ももから足の先に掛けて魔素を展開すると回し蹴りの要領で一回転し自分の周りの人形を蹴り飛ばした。
バババババババン!
蹴られた人形は蹴られた部分が霧散するが再生せず、他の部位が少しずつ霧散していく。理論は全く不明だが、どうやらあたしの魔素格闘は闇の人形相手には効果抜群の様だ。
「お……おっほほほ!これたっのしい!ひゃっはー」
楽しくなってきたあたしは次々と周りの人形を魔素格闘で一掃していきながら師匠の方へ近づいていく。
「……ん?アリス何して……」
「おおおりゃあああ!」
師匠の右横から襲い掛かろうとした人形を飛び蹴りで吹き飛ばす。
「……お、おお」
その様子を見た師匠は軽くドン引きだ。
そして続けざまに士郎さんの周りの人形たちも一掃していく。
「これは……素晴らしい」
士郎さんもあたしの技術に驚いているようだ。
そして数分後、最後の一体を殴り飛ばすと、人形はこの場から消滅した。
「……お前何した」
「え?何故か魔素格闘なら何とかなると気づいたんで暴れました!」
「魔素格闘で闇の人形をどうにかできるなど……聞いたことが無い!」
「え!?そうなの!?じゃあ……なんでだ!?」
ここまで来ればこれ自体もあたしのユニークとなるけど……そうなると……あたしは一体いくつのユニークを持ってることになるんだ!?チートにもほどがあるぞ!?
「そんな……何故!?……ありえない!?」
まさか聖霊魔法も聖霊刀も使わずにあたしが格闘だけで人形を全滅するなど思ってもみなかったのだろう。原沼の表情は驚愕に満ちている。
もう一度銃を引き抜くと照準を原沼に向ける。
「さあ!原沼さん!これで終わりっすよ?もう人形に出来る魔素の代わりもないでしょう?駅の事件は置いとくとして……なんであんたが闇の魔術書?を持っているのか聞かせてもらおうか!」
「……龍殿、前に聞いたこと覚えていますか?」
「あ?人間は神にとか何とかだったか?」
「ええ。最初は大学の臨床心理学の一環で周りの人の相談に乗っていただけなんです、自分の悩みを打ち明けて周りと協力すれば少しづつでも自主的に人を助ける流れが出来るのではないかと」
なるほど、臨床心理学は毛ほども知らんが考えていることは正しいと思う。だが闇の魔法とは関係ないんだが?
「そのために組織を立ち上げて、数年が経ったある時から歯車が狂始めました。ある信者が私の事を神の生まれ変わりだとか、神様だとか言い始めたんです」
「……わお」
「自分にそんな力はありませんし、私個人は神を信じていません。人は人が助ける者だと思ってるからです。ですが組織が大きくなるにつれて私を神だと仰ぐものが増えてきて止められなくなりました」
なるほど……周りが勝手に神だと祭り上げ始めたと……身勝手なことだねえ。あの……あたしの質問は?なんで無視してらっしゃるんですか?
「ですが!私は思いました!神の力は持ってないですが、神と同等の力を得ることは可能ではないかと!」
「……ん?はい?ちょっちまて!」
話が飛躍しすぎでは!?一体どこから神なるっつー話になったのさ!?
「もはや信者たちに私が神ではないとどんなに力説しても意味はありません。なら神と同じ力を手に入れれば信者たちが信じる教祖に成れると!」
「まあ……この場合、逃げるという手もありますね。一度信じ切った人を説得するには死ぬか逃げるか……まあ死んでも我らが信じる教祖は常にわれらの中にとか言い出すでしょうけど」
「私に信者を放り出す考えなど最初からありませんよ?ですから神になろうと決めたのです。そのために彼と契約したんですから」
「契約!?その相手が闇の魔法使いでしょ!いったい誰ですか!」
「申し訳ありませんが、相手がいくら闇の魔法使いでも守秘義務がありますのでお答えは差し控えさせていただきます。ですがこのような状況になったならばもう逃げられないですから……残された手段は一つだけです」
そういうと原沼は懐から雪が持ってきた瓶と同じような瓶を取り出した。だが中身は雪が持っていた小瓶とは比べ物にならないほど漆黒に染まっている……誰が見ても闇の魔素だ。
「本来ならやるべき儀式があるそうですが……まあいいでしょう。私は!これを飲んで神になる!……っ」
「待て!闇の紋様を持ってないお前がそれを飲んだ……ら」
師匠の制止を聞く暇もなく、原沼は小瓶の魔素を思いっきり飲み干した。
そしてすぐにもその効果が表れ始めたのか、苦しそうに体を抱え始める原沼。同時にあたしはこの世界に来て初めて……闇の魔素を摂取した人間が闇の魔人になる様子を目の当たりにした。