愛和の会本部襲撃から数週間が経ち、今では新聞やテレビでさえも愛和の会について取り上げる頻度ががくっと下がったある日、あたしはとある会社のレセプションホールに来ていた。
目的はとあるパーティーに参加すること。
前にも言ったが、あたしは基本的にこういうパーティーは自主的に参加しない人間だ。仮に招待されていたとしても仕事で強制参加でない限りは基本参加しない。
では今回、何故あたしが参加しているのか……それはこのパーティー終了後に行われるとあるイベントが目的だからだ。
旧日本が世界に誇れるものと言えば、アニメや漫画などのサブカルチャーがあるが、それに匹敵する物がある……そうゲーム機だ。
過去様々なハードが開発されては消えて行ったり伝説となったが今や……この世界に居て今やというのもおかしいがあたしが知ってる限り家庭用ゲーム機で世界の覇権を取ってると言って良いものは任天堂とソニーだろう。
誇らしいことに二つとも日本の企業である。この二つの企業が作ったゲーム機を軸に色々な企業がゲームを制作し、世に居る子供や大人たちを喜ばせている。
そして今あたしが居るこの世界にもゲーム機を開発中の会社が存在する。共天堂……名前のあれはさておいて共天堂とイホス株式会社である。
どちらの会社も卓がパソコンとプログラムをこの世界に生み出した瞬間に我先にとゲーム開発に着手したらしい。
そして今日、あたしが居るイホス株式会社で行われるのはイホスが作り出したゲーム機の試作品のデモプレイである。つまりβテスターに選ばれたのである。
旧日本人でゲームをしたことが絶対あるだろうあたしがこれに参加できるのだ、参加しなはずがない。
だが今回のデモプレイ、違う意図もあるようだ。
「アリス!」
「……サチコウ」
綺麗なドレス姿でこちらに歩いてくる二人組、サチとコウだ。普段髪を纏めているサチもドレスに合わせてか髪を下ろしているため初見だとほんとに同一人物に見えてくるんじゃなかろうか。
ただ二人とも超絶美人だというのは当たり前だ。
「アリスドレス似合ってるね」
「ありがと……本音を言うと今すぐ脱ぎたいけどね」
「あははは」
このパーティー、デモプレイ前の前夜祭という形にも関わらず何故かドレスコードがあった。なんでだ?と思いつつ会場に来ると何となくその理由が分かった。招待客のほとんどが政財界の重鎮ばかりだったのだ。
政治家の息子、大手企業の息子や令嬢、そんな所謂上級国民と言っても過言ではない人種ばかりがこのパーティーに参加していたのだ。
理由は簡単だろう。初めてのゲーム開発、相当の費用が掛かるはずだ、だがそれをデモプレイという子供なら喉から手が出るほど欲しいだろう権利と共に売れば費用は賄える。だからこそこのパーティーも表面上はドレスコードを設定することで招待客のメンツを保てるわけだ。
そしてもちろんあたしもARAのパーティーで着ていたドレスを着ている。まあゲームをする頃には動きやすいように脱いでいるだろうが。
「あら、アリスあなたもいたのね」
「おやおや雪さん……おっと」
別に声を掛けなくてもいいのに向こうから雪が声を掛けてきた。意外な人物を引き連れて。
「何で……士郎さんまでいるんですかね」
「いやあ、私は別に招待されてなかったんですけどね、雪さんに誘われまして」
「へえ」
「本当は一枚で二人分だったのだけど、家族が誰も興味なかったのよ。それに士郎先輩は例の件でお世話になったからね、お礼も兼ねて」
「なるほど……雪さん、ちょっと聞いていい?」
「何よ」
どうしても聞きたかった事を雪を集団から少し引きはがし聞いてみることにした。
「あの件、新聞とかでご立派に報道されてたんだけどさ」
「でしょうね、地下鉄の件から数時間後に団体壊滅……十分話のタネになるじゃない」
「そりゃあどうでもいいのよ。あたしが気になってるのは……なんであの件、あたしと雪が解決したことになってるのさ」
愛和の会本部を襲撃した翌日、あれほどの大きな事件だったのだ、翌日に新聞になってると思うのが普通だ。しかし見出しは……『神報者付アリスさんと西宮家の雪さんが愛和事件解決!』だった。
そもそもあの一件が総じて愛和事件と呼ばれることになったことも初耳だったが、それ以上にあの事件を解決したのが全てあたしと雪によるものだったことにされていたのだ。
確かにあの場に居た闇の人形をほぼぶちのめし、止めとは行かなったが闇の獣人に攻撃の大半をぶち込んだのはあたしだが、地下の研究所を発見したのも薬を見つけたもの士郎さんだ。その士郎さんについてのは何一つ書かれていなかったのだ。
「それはですね」
「おわっ!士郎さん」
聞こえていたのか、にゅっと顔だけ出した士郎さんがあたしたちの間に入って来た。
「私自身目立つのが苦手でして、それに雪さんはご実家の件もありますから少しでも成果が欲しいのではないかと……私は別に目立たなくても良いんですよ、事件を解決できたので」
「は、はあ」
「今回はそのご褒美として楽しませていただきますから、それでいいのでは?真実は私たちだけが知っていればいいんですよ」
「そ、そうですか」
「ですから気にしないでください」
そういうと士郎さんと雪はサチとコウの下へ歩いて行った。
「こうやって歴史は作られるのか」
「何言ってるんですかアリスさん」
「へ?……卓さん!」
あたしが一人になった所を見計らったように卓が現れた。だが少し疲れているように見える。
「卓さん……すっげー疲れてるように見えるけど」
「疲れてますよ、なにせ今回のデモプレイ、プログラム監視役なもんで」
「へ?じゃあこのゲーム卓がプログラミングしたの?」
「いえ、作ったのは別の……イホスのプログラマーです。ですが今回のデモプレイの参加者があれじゃないですか、それに僕のユニークの関係で今回のテストプレイだけは僕が正常にプログラムが動くかの監視役になったんですよ」
「ほんとにそのユニーク……プログラミングに関してだけ言えばチートだからね。……ねえ、ってことは今回のゲームの内容知ってる?」
「もちろん知ってます」
「なら教えていただくことは?」
「アリスさん、映画のネタバレ気にしない性格ですか?」
「いやまったく……それどころか知ったうえでそれが映像でどういうふうに表現されているのか気になるタイプです」
「ならなおさら教えません。今回のテストプレイの内容はこの世界で生まれた人なら目新しくて面白いかもしれませんが、旧日本人からすればありきたりなものですから」
「えー……そこを何とか!」
「アリスさんをこのテストプレイに招待した僕が言うとあれですし、チートじゃないですか」
「へ?卓があたしを招待したの?なんで?」
衝撃の事実が明らかに。
「このゲーム仕様上、開発者が直接アドバイス出来にくいんです。ですから旧日本出身である程度ゲーム経験がありそうな人を一人選んだというのが理由です」
「……なる……ほど?」
ますますこのゲームが気になって仕方なくなるんだが?
「アリス」
「ん?師匠!?」
なんとここで師匠の登場だ!
「なんでいるんすか」
「お前が参加するって聞いてな俺は見学だよ」
「なら良いけど……邪魔しないでよね?こっちは純粋に遊びたいんだしさ」
「もちろんだ、このゲームとやら何が面白いのか知らんが……面白そうにしてる人間を邪魔するほど俺も鬼畜じゃない」
「なら良いけど」
「アリスさん、皆移動し始めてます。行かないんですか?」
「え?」
気づくと参加者が次々と別の場所に移動するのが見えた。そして会場の入り口からこちらに向かって手招きをするように手を振るサチやコウの姿が見て取れる。
「じゃあ行くわ」
「楽しんでください」
「うっす」
二人と別れると、サチやコウたちと一緒にあたしはテストプレイが行われる会場に移動を開始した。
移動先に現れたのはクラシックの演奏や講義で使われるのかと思われるホールだった。だが恐らくゲーム機があるであろうステージには天幕が掛かっておりまだ何も見えない。
参加者ように振り分けられた席に座り十分程度が経つ。全員が椅子に座った事をスタッフが確認すると、ホール全体が暗くなる。
「皆さま!大変長らくお待ちいただき申し訳ありませんでした!これよりイホスが開発しました新型ゲーム機!『プレイワールド』お披露目でございます!」
パチパチパチ!
大量の拍手がステージ上で司会をしている男性に送られる。
……プレイワールド……っすか、プレイすて……いややめておこう。
「さて皆さま、これまでこの日本でゲームと言えば、双六、カードゲームなどでしたが旧日本では皆さまが良くご覧になっているテレビの画面にゲーム画面を映し出し、それを見ながらキャラクターを動かして遊ぶのが一般的になっているらしいのです。ですがイホスは考えました、キャラクターを動かすのではなく、自らを主人公とし……自ら動いてゲームをするのが新しいゲームの形だと!」
なるほど……だがそれって旧日本ですらまだ開発されてない技術何だが!?あれかプレステとか飛び越えていきなりVR作っちゃいました?
「しかし、旧日本ではまだ自分の体を動かしてプレイできるゲーム機は開発されておりません、残念ながら技術的に困難のようです。ですが……この世界には魔法があります!そして魔法と科学技術を組み合わせることでこの世界にしかない……ゲーム機が完成いたしました!それではお披露目です!」
司会がそういうと、ステージの黒幕が移動し、ステージ上のゲーム機?がお目見えした。
「新しいゲーム機!プレイワールドです!」
「お……お?ん?……わお」
大きな歓声の中、現れたのは五段ほどのステージにケーブルが繋がっている機械の……戦闘機のコックピットのような機械だった。
ていうか……この時までずっと家庭用ゲーム機だとばかり思っていたあたしは拍子抜けしてしまった。あれはどう見てみても……ゲームセンターに置く用の筐体だ。
つーかこれ何処かで見た事あるような……実物じゃなくて、どっかのアニメで。
「あれでゲームができるんだね!楽しみ!」
「うん……そうだね」
「アリス?なんかがっかりしてるけどどうしたの?」
「いや……ゲーム機と聞いたからさ、てっきり家庭用……ようは家で出来るゲーム機かと思ったからさ、どう見てもゲーセン用だからちょっとね」
「そういえば共天堂だったっけ?あっちもゲーム機を開発中って聞いたよ?もしかしたらアリスの知ってる家庭用?ってそっちかもね」
「あー……なるほど」
ステージに現れた機会に全員の注目が集まる中、突然壁のディスプレイが光り出し、映像が始まった。
『君たちはこの地獄を生き残れるか!第二日本国西京を舞台に生ける屍であるゾンビから生き延びろ!数ある謎を解き、怪物を倒し、見事ゲームをクリアしよう!君はこの地獄で英雄となれるか!』
次々と映像が流れていくが、主人公らしき男が銃やナイフを使って次々と襲ってくるゾンビをひたすら倒しながらなぞ解きをする映像だ。
この時点であたしは映像を見る必要が無くなったので携帯を見ていた。
……というか、あれ完全にバイオじゃねーか!卓が言わなかった理由が分かったよ!そりゃあたしからすればバイオは珍しくもなんともないゲームだよ!やったことあるかは知らんけども、まあ全部のシリーズの記憶あるからやったのか実況を見たのかだな。
数分後、映像が終わると最後にスクリーンには『VRゾンビ』という文字だけが映し出されていた。
「さて今回、開発されたプレイワールドですが、この機械を使って魔法で作られた仮想世界を遊んでいただきます。そしてそこで敵を打倒し、謎を解く……これが今回のゲーム内容です。なお今回のゲーム、魔法は使うことが出来ません、魔法が使えないことも含めてゲームを楽しんでいただきます。また今回のテストプレイに限ってこのゲームに関する記憶が一時的になくなります!ですが皆さまの記憶にあるいつもの場所にある魔法陣に触れていただくと記憶が戻りますのでご安心ください」
なるほど、SAOで作られた……名前忘れたけどあの機械は電気信号を脳に直接送って夢を見ている状態と似たような状態で仮想世界で実際に体を動かしてゲームをするって感じだったけど……そうか魔法を使うことでその辺をクリアになったのか。
魔法ってすげーな。どんな魔法を使ったのか気になるけど。
「ではテストプレイ参加者の皆さまはステージにお越しください」
司会がそういった瞬間、待ちきれなかったのか参加者である、中学生、高校生が次々とステージに上がっていく。そして、スタッフに促される形で装置に座っていく。
「アリス行こ!」
「オーライ」
立ち上がり、ステージに行く途中、何気なく振り向くと、別室にて今なお動き出そうとしているプログラムを見ている卓が手振りで『頑張って』と伝えてきた。
「うっす」
あたしも卓に向けて腕を突き出した。
サチとコウ、二人に並ぶように装置の横に立つと改めて機械を観察してみる。先ほど戦闘機のコックピットと表現したが、多分コックピットよりは広いだろう。そして制御はケーブルで繋がれたコンピューターでされているのだろう、スイッチ類も何一つない、本当に座るだけの箱だ。
スタッフが蓋を開けるとあたしはそこに座る。中は以外にもゆったりとしたリクライニングになっている。
そしてすべての参加者が装置に座ると蓋が閉まり、司会がしゃべりだす。
「それでは皆様!ゲームクリア頑張ってください!プレイワールド始動まで10!9!8!」
司会がカウントダウンを開始した。すると見学席で座っている家族がカウントダウンを斉唱しだす。
蓋が閉まっても一応、蓋のガラスはある程度透明なので外の様子が分かるのだが……ここで一つ不可解なことが起きた。
カウントダウンの数字が小さくなるにつれてこれから動かすプログラムを見ていた卓の表情が険しくなった。
「……卓さん……何してんだ?」
「3!2!1!スタート!」
カウントダウンが残り一秒になった瞬間、大慌てで何かを訴える卓を薄めで見ながらあたしの意識はゲームが始まると共に消失した。